第20話 戻りたくなかった
現在の生存者 残り7人
涼・怜華・男(左目負傷)
芽依・楓・姫森・?
死亡者
吉沢・笹原・霧崎
暗い廊下に、再びスピーカーのノイズが割れた。
カチッ——。
不気味な声が、校舎全体に湿った笑いを交えて響き渡った。
スピーカー「姫森 明が死亡しました。
イケメンも散り際はこんなにも儚いんですねぇ…。
胸にパイプをぶち込まれて、血を吐きながら這いずり回る姿…
なかなか見ものでしたよ。
これで死亡者4名。残り生存者6名です。
あと4人死ねば、出口が開きます。
皆さん、頑張ってくださいね。ふふっ♪」
放送が唐突に切れた。怜華の体が、涼の腕の中で大きく震える。
彼女は両手で口を押さえ、目から大粒の涙を零した。
声はもう出せなくなっていた。
先輩——学園一のイケメンで、いつも優しく微笑んでいた姫森明が
たった今、目の前で殺された。
胸に鈍器を突き刺され、血を吐きながら……。
怜華「先輩…っ……。」
掠れた、ほとんど息だけの呟きが、怜華の唇から漏れた。
涼は怜華の肩を抱き寄せ、背中をゆっくりと撫でる。
口数は少ないまま、しかしはっきりとした低い声で言った。
涼「…4人目か。姫森先輩は、俺たちを逃がすために時間を稼いでくれた。
無駄にはしない。」
2人は立ち上がったまま、周囲をゆっくりと見回す。
そこは、明らかに今までとは違う場所だった。
廊下の床は埃が厚く積もり、壁紙が所々剥がれ落ちている。
天井の蛍光灯はほとんど壊れ、残った1つがチカチカと不安定に明滅している。
窓は全てベニヤ板で固く塞がれ、わずかな隙間から夜の闇が覗くだけ。
階段の表示板が、ぼんやりと浮かび上がっていた。
【4階】
最上階だ。涼は小さく息を吐いた。
涼「……4階か。最上階だな。
さっきまで1階の裏手だったはずなのに……完全に転移させられた。
芽依と楓は、別の階に飛ばされたのかもしれない。」
怜華は涼の制服の裾を強く握りしめ、体を寄せる。
普段なら声すら出せないはずなのに、今は涼の体温だけが彼女の支えだった。
彼女は震える指で、自分の胸を押さえ
目で「怖い……でも、離れない。」と訴える。
涼は怜華の手をそっと握り返し、廊下の奥を睨んだ。
涼「ここは最上階。
逃げ場は少ないが、逆に言えば下の階から上がってくる敵も限られる。
……あの男、左目を潰されて胸にパイプを刺した先輩を殺したんだ。
相当な重傷のはずだが、まだ動いてる。油断はできない。」
怜華は小さく頷き、涼の横にぴったりと寄り添った。
2人はまだ、4階の長い廊下の真ん中に立ったまま。
周囲の教室のドアは半開きになったものがいくつかあり
古い机や椅子が倒れている気配がする。
遠くで、何かが軋む音が微かに聞こえた——。
床か、壁か、それとも……。
涼は怜華を自分の後ろに守るように一歩踏み出し、低く言う。
涼「怜華、俺の後ろにいて。
まずは近くの教室を一つ探して、鍵のかかる部屋を探す。
ここで休憩するか、武器になるものを探すか……
怜華が声出せなくても、指で合図してくれればいい。」
怜華は涼の背中に額を軽く押し付け、震えながらも頷いた。
死亡者4名、残り6名。
最上階の4階で、再び2人きりになった。
廃校の夜は、最上階の闇をさらに深く、2人を包み込もうとしていた。
そして、出口はまだ遠く——
残りあと4人の死を誰が担うのか、誰も知らないまま。




