第19話 残酷
現在の生存者 残り7人
涼・怜華・男(左目負傷)
芽依・楓・姫森・?
死亡者
吉沢・笹原・霧崎
廃校の裏手、フェンスに手をかけたその瞬間——
姫森「ぐああああああッッ!!!」
姫森先輩の魂を削るような悲鳴が夜空に響き渡った。
怜華が思わず振り返る。
月明かりの下、姫森先輩の胸に
男の握った折れた金属パイプが深々と突き刺さっていた。
先輩の体がビクビクと痙攣し、口から大量の血が溢れ出す。
男はパイプを両手で押し込みながら、狂ったように笑っていた。
男「死ね……死ね……!これで4人目だ……!」
怜華の顔から血の気が完全に引いた。
怜華「先輩…ッ…!!」
涼が即座に怜華の腰を抱きかかえるようにして
フェンスを強引に乗り越えさせた。
涼「今は振り返っちゃダメだ!」
芽依と楓も、恐怖で泣きながら必死にフェンスをよじ登り
4人ともなんとか外側へ転がり落ちた。
しかし——次の瞬間、世界が歪んだ。
視界がぐるりと回転し、激しい目眩と吐き気が襲ってきた。
地面が消え、代わりに冷たいコンクリートの感触が背中に広がる。
「……っ!?」
4人は、廃校の校舎内の長い廊下に投げ出されていた。
外へ出たはずの場所が、再び校舎の中に「転移」させられていた。
涼はすぐに体を起こし、隣に倒れていた怜華の肩を抱き寄せた。
幸い、怜華はすぐそばにいた。
彼女は涼の胸に顔を埋め、激しく震えながら小さく声を漏らした。
怜華「……涼…。」
しかし——周囲を見回した瞬間、涼の表情が凍りついた。
芽依と楓の姿が、どこにもない。
怜華「芽依…楓…?」
怜華も顔を上げ、青ざめた。
先ほどまで一緒にフェンスを越えていた2人が、忽然と消えていた。
廊下は薄暗く、埃っぽい。
どこかの階の、見たことのない長い通路のようだ。
天井の蛍光灯がチカチカと点滅し、遠くで何かが軋む音だけが響いている。
そしてスピーカーからノイズが流れ
直後に声が、あの粘ついた声が聞こえてきた。
涼は怜華を自分の後ろに庇う。
スピーカー「開始時にもお伝えしましたが、8人が死なないと
この校舎からは出ることができませんよ…?」
涼は苛立ちを隠せないでいた。
涼「……2人ともいない。転移の時に、引き離されたのかもしれない。
…くそ、なんてルールだ。」
怜華は涼の制服を強く握りしめ、涙を堪えながら震える声で囁いた。
怜華「……芽依さん……楓さん……。
先輩も…もう……。」
彼女の声は小さく、途切れ途切れだった。
家族以外の男性である涼と二人きりになった今
恐怖と孤独が一気に押し寄せてきている。
それでも、涼の温もりが唯一の支えだった。
涼は立ち上がり、怜華の手をしっかり握ったまま、周囲を警戒する。
涼「怜華、しっかりしろ。今は2人だけだ。…あの男はまだ生きてる。
姫森先輩を殺したところで死亡者は4人になったはずだ。
残り6人……あと4人死ねば出られるってことになるが、
俺たちは絶対に死ぬわけにはいかない。」
怜華は涼の手に自分の指を絡め、必死に頷いた。
声はもう出せなくなっていたが、目で「一緒に……いて」と訴えていた。
2人は、突然変わった校舎の廊下に立ち、
互いの体温だけを頼りに、ゆっくりと歩き始めた。
楓と芽依の行方はわからない。
姫森先輩は確実に死んだ。
そして、あの左目を潰された狂った男は、まだ校舎のどこかにいる。
廃校の夜は、二人をさらに深い闇へと引きずり込もうとしていた。
しかし、中谷涼と北條怜華はまだ生きている。
——そして、二人だけの脱出が、本格的に始まった。




