第18話 先輩の意地
現在の生存者 残り7人
涼・怜華・男(左目負傷)
芽依・楓・姫森・?
死亡者
吉沢・笹原・霧崎
廃校の裏手、月明かりに照らされた校庭のような空間。
5人がフェンスの隙間を目指して歩き始めた直後——
ドンッ……ドンッ……ドンッ……
重く、荒々しい足音が背後から急速に近づいてきた。
男「あの野郎ども…全員、ぶっ殺してやる……!」
男の声は、もはや人間のものとは思えないほど低く、怒りに煮えたぎっている。
左目は潰れ、血と膿が頰を伝っている。
それでも、右手には新しい凶器——折れた金属パイプのようなものを握りしめ
怒りのボルテージは明らかに最高潮に達していた。
涼が振り返った瞬間、男はすでに10メートル以内に迫っていた。
走るというより、獲物を追い詰める獣のような勢い。
姫森先輩が、血まみれの顔で静かに笑った。
姫森「……俺は、もういい。みんな、行け。
俺がここで食い止める。」
彼はよろよろと歩みを止め、壊れた左腕をだらりと垂らしたまま
男の方へ体を向けた。
すべてを受け入れるような、諦めと覚悟が入り混じった表情だった。
怜華「先輩……!!」
怜華が小さく声を上げ、芽依と楓の顔が青ざめる。
涼は即座に怜華の手を強く引き、芽依と楓にも目で合図した。
涼「怜華、走れ!先輩のことは……。」
だが、男の動きは予想以上に速かった。
モップの柄で左目を潰されたはずなのに
痛みを怒りで塗りつぶしているのか
凶器を振り上げながら一直線に迫ってくる。
男「てめェが…さっきのガキか……!目ェ潰しやがって…
今度はてめえの頭を叩き潰してやらァアァ!!!」
涼は怜華を自分の後ろに押しやり、身構えた。
護身術の経験はあるが、相手はすでに狂気で痛みを感じていない。
モップの柄による攻撃が通用しないのは、目に見えて明らかだった。
金属パイプが振り下ろされる軌道は、重く、容赦がない。
姫森先輩が、男の前に体を投げ出すように立ちはだかった。
姫森「来いよ……お前みたいなクズに
俺の後輩たちを…殺させはしない…!!」
男の金属パイプが、姫森先輩の肩に叩きつけられた。
ドガァンッ!
鈍い音が響き、先輩の体が大きくよろめいた。
それでも彼は倒れず、男の胸倉にすがりつくようにしがみついた。
姫森「今だ……!走れェ!!」
怜華の目から涙が溢れた。
彼女は涼の手を必死に握りしめながらも、足が動かない。
涼は一瞬だけ歯を食いしばり、怜華、芽依、楓の3人を
フェンスの隙間の方へ強く押しやった。
姫森「怜華!その少年から絶対に離れるな!
俺は……少しでも時間を稼ぐ!」
男の怒声と、パイプが肉を打つ音が背後で響き始めた。
姫森先輩はすでに、男の凶器を何発も受け、膝をつきかけていた。
それでも、必死に男の足に絡みつき、動きを封じようとしている。
姫森「怜華…!生きろ……!!」
先輩の最後の叫びが、夜の校庭に響いた。
4人はフェンスの隙間に向かって走り始めた。
怜華は振り返りながら、涼の背中を必死に見つめていた。
声にならない悲鳴が、喉の奥で渦巻いている。
廃校の夜は、姫森明という優れた先輩の覚悟を
容赦なく飲み込もうとしていた。
残り生存者……あと何人になるのか、もう誰にもわからなかった。




