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第2話 幕開け

現在の生存者

涼・怜華・?・?・?

?・?・?・?・?


 暗い教室に、突然、スピーカーのノイズが割れた。


 カチッ——。


 古い校内放送のシステムが、埃を吐き出すような音を立てて起動した。

 天井の隅に埋め込まれた黒ずんだスピーカーから

 ゆっくりと息を吸う音が流れた。


 それは人間の声というより、喉の奥で腐った何かが(うごめ)くような

 不気味に湿った声だった。


スピーカー「…………んっふっふっふ。」


 低く、(ねば)つく笑い声。


 続いて、抑揚のない、機械のように平坦な言葉が教室全体に響き渡った。


スピーカー「ようこそ、廃校へ。

      この校舎には、今ちょうど10人の生徒がいます。」


 涼の背筋が、ピンと凍りついた。

 彼は無意識に怜華との距離を、もう半歩だけ縮めた。

 守るためではなく、ただ確認するためだった。


 怜華はすでに体を硬直させ、両手で自分の口を押さえていた。

 目が大きく見開かれ、息が荒い。

 スピーカーの声は、まるで二人の反応を楽しむように間を置いた。


スピーカー「ルールは簡単です。

      この校舎から出たいのなら、8人が死ねばいい。

      残った2人だけが、出口を開けることができます。

      ……方法はなんでも構いませんよ。

      事故でも、争いでも、自殺でも。

      ただし、死体はちゃんと確認させてもらいます。」


 不気味な声が、くすくすと笑った。

 それは子供の悪戯のような笑い声だったが

 底知れぬ狂気が混じっていた。


スピーカー「現在、生存者は10名。死亡者は…まだゼロです。

      時間制限はありません。でも

      いつまでもここにいたいわけじゃないでしょう?

      さあ、始めましょうか。」


 ガシャン——。放送が唐突に切れた。

 スピーカーが再び死んだように沈黙し

 教室に残ったのは、二人の荒い息遣いだけ。


 涼は、ゆっくりと立ち上がった。

 しかし、ドアの方へは一歩も踏み出さなかった。


 彼はただ、壁に背を預け、ポケットから取り出したスマホをもう一度確認した。

 相変わらず電源が入らない。


 口元を固く結び、声を低く抑えて呟いた。


涼「……10人、か。他にもいるんだな。」


 怜華は床に座ったまま、震える指で自分の膝を掴んでいた。

 声が出ない。出せない。


 でも、頭の中では言葉が渦を巻いていた。


 ——8人死ぬ? 私たち以外に8人……? どうして……どうしてこんな……


 涙が、ぽろりと零れた。

 彼女は慌ててそれを袖で拭ったが、止まらなかった。


 涼は怜華の様子を見て、すぐに視線を逸らした。

 無理に慰めるような甘い言葉は、彼の性格にはなかった。


 代わりに、淡々と、でもはっきりと言った。


涼「今は、まだ動かない。

  あの声は録音じゃない。本物の人間だ。

  どこかでこっちを見てる。

  ……まずは、この教室の中をちゃんと見回す。」


 涼は立ち上がり、教室の探索を始めた。


涼「何か武器になるもの、出口の鍵、隠しカメラ……探せるだけ探す。

  怜華は、声出せない分、俺の後ろにいてくれ。

  指で合図してくれれば、それでいい。」


 怜華は、涙を堪えながら小さく頷いた。

 彼女の瞳には、恐怖と、それでもわずかな信頼の色が混じっていた。


 家族以外の男性とこんなに長く一緒にいること自体が、初めてだった。

 2人はまだ、1年3組の教室から一歩も出ていなかった。


 ドアの向こうに、どんな廊下があり

 どんな他の「生存者」がいるのか、想像もつかない。


 スピーカーの声が残した言葉だけが、頭の中で繰り返されていた。


 8人死ねば、出られる。

 残るのは、2人だけ。


 涼は、倒れた机の一つをゆっくりと引き寄せ

 簡易のバリケードのようにドアの前に置いた。


 怜華は、その隣で、震えながらも彼の動きをじっと見つめていた。


 廃校の夜は、ようやく本当の意味で始まった。

 10人のうち、最初に死ぬのはまだ、誰かわからない。


 そして────上の階で動きが始まった。


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