第13話 目撃と残酷
現在の生存者 残り7人
涼・怜華・男
芽依・楓・?・?
死亡者
吉沢・笹原・霧崎
暗い家庭科準備室に、突然重い足音が響き渡った。
ドン……ドン……ドン……
廊下の奥から、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる大きな足音。
一歩ごとに床が軋むような、重苦しい響きだ。
涼の表情が一瞬で引き締まった。
涼「入って。早く!」
彼はとっさの判断で、ドアの近くに立っていた芽依と楓の腕を掴み
準備室の中に強く引き入れた。
芽依「えっ?」
楓「ちょッ…うわぁ!」
楓は驚いてつまずきながらも、2人を中へ押し込む。
怜華はすでに涼の背後に隠れていた。
涼はすぐにドアを閉め、内側から鍵をガチャリと回した。
4人が息を殺して固まっている中
涼はドアに付いた小さなガラス窓から、慎重に廊下を覗く。
遠くの廊下の端——非常灯の薄明かりの中で、あの男の姿が見えた。
霧崎と、さっきの男女をボコボコにしていた、血走った目の男。
制服はまだ血で汚れたまま、肩を落として歩いている。
芽依も窓から少し覗き、震えながらつぶやいた。
芽依「なにアイツ…。鉄パイプ持ってるんですけど…。
あんなのに襲われたらひとたまりもない…。」
幸い、準備室の方へは来ず、反対方向へゆっくりと離れていく様子だ。
足音が徐々に遠ざかり、やがて聞こえなくなるまで誰も動かなかった。
ようやく緊張が少し解けたところで、先ほどのアナウンスを振り返る。
スピーカー「霧崎 竜星くんがようやく死亡しました。これで死者は3名。
残り生存者7名です。あと5人死ねば、出口が開きますよ?」
アナウンスはそれだけだった。
誰に殺されたのか、どんな状況だったのか——一切触れられていない。
部屋の中が静まり返った。
涼はドアから離れ、低い声で淡々と告げる。
涼「…霧崎は、アイツに殺された。
さっき1年3組で俺たちがいたときだ。
背中を殴られて、多量出血で死んだ。」
その言葉を聞いた瞬間、芽依の顔から、血の気が引く。
芽依「え…うそ……。」
楓も、目を大きく見開き、手で口を押さえ
2人は同時に、ぽろぽろと涙を零し始めた。
芽依は壁に背中を預け、その場にしゃがみ込み、声を殺して泣いた。
楓は怜華の隣に寄り、肩を震わせながら嗚咽を漏らした。
芽依「霧崎くん…嘘でしょ……
いつも体育で『おわーっ』って情けない声出してたのに…。」
でも、班の仕事とか、荷物持ってくれたり…
誰にでも優しかったよね……。」
楓「信頼されてたよ……男子も女子も
霧崎くんがいると安心するって言ってた……。
どうして……あんなやつに……。」
怜華も、膝を抱えて涙を堪えきれずにいた。
彼女は小さく声を震わせながら、
怜華「…私も……同じクラスで…
霧崎くん、いつも笑顔で話しかけてくれて……。」
涼は3人の女子の様子を静かに見つめ、口を閉ざした。
彼は霧崎のことをほとんど知らない。
ただ、死に際に怜華の名前を呼んでいたことだけを覚えていた。
準備室の中は、重い沈黙と、女子たちの嗚咽で満たされた。
座布団と毛布が床に落ちたまま、誰も手を伸ばさない。
鍵のかかったドアの向こうでは、あの危険な男がまだ校舎のどこかにいる。
涼は怜華の肩に軽く手を置き、静かに言った。
涼「泣くのはあとだ。アイツが離れた今がチャンスかもしれない。
ここにずっと隠れてるわけにもいかない。どうする?」
怜華は涼の手に自分の指を絡め、涙で濡れた目で彼を見上げる。
芽依と楓は、まだ霧崎の死を受け止めきれずに、肩を震わせ続けていた。
4人は家庭科準備室に閉じこもったまま
次の行動を決めかねていた。
霧崎竜星という、皆に信頼されていた少年の死が
3人の心に暗い影を落としていた。




