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俺の初恋幼馴染は“負けヒロイン”で終われないっ‼~「今フリーなんですけど?」と言ってくる幼馴染を、今度は俺の手で幸せな《勝ちヒロイン》にしてみせます~  作者: 水瓶シロン
第五章~“勝ちヒロイン”デビュー編~

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第83話 初恋幼馴染はわざとやってる

「そりゃまぁ、落下するためにはまず上らなきゃってのはわかるんだけどさ……それはそれとして階段が長いのよ……」

「もぉう、文句が多いなぁ」


 ペタペタ、と濡れた足音を鳴らしながら何とか階段を上りきったところで、姫奈が涼太の呟きを拾って振り返る。

 不満げに言いながらも、振り返った姫奈の表情は涼太と同じく疲れて見えた。


「で、どうする? 一人で滑るヤツと二、三人で行けるヤツがあるみたいだけど」


 人一人分が入れる大きさのチューブは、グルグルと何重にもとぐろを巻いており、それ相応のスリルとスピードが楽しめるコースのようだ。


 対して複数人用のウォータースライダーのコースは、チューブのように頭上までぐるりと囲われたものではなく、横たえた円柱の上半分を取っ払ったようないわゆる滑り台の形。そこを浮き輪に座って滑っていくらしい。


 スピード感で比較すれば、やはり一人用のスライダーには劣るだろうか。


「……はぁ」


 涼太の問いに、姫奈はため息を溢しながら半目を向ける。


「それ、デートで映画館に行って『よし、俺はこれが気になるから見てくるわ。お前も好きなの見ろよ。終わったら集合な!』って言ってるのと同じなんだけど?」

「は、ははは……冗談、冗談だって。一応こういうコースもあるみたいだぞっていう確認というか、な?」


 どうだかぁー、と腕を組んでわざとらしく頬を膨らませる姫奈に、涼太は設置されていた二人用の浮き輪を取りながら曖昧に笑う。


「ほらほら、滑ろうぜ?」

「別に良いんですよぉ? 一人で滑ってくれてもー」


 ぷいっ、と顔を背ける姫奈。

 へそを曲げてしまった様子を見て、涼太は困ったように後ろ頭を掻くと、組まれた姫奈の腕を解くようにして触れて、ギュッと片方の手を握った。


 こういうことをすると気恥ずかしくて、つい目を細めてしまう。


「お、俺は、ヒメと滑りたい……」

「……そ?」

「そ」

「ふぅん、よかった……」


 ぎゅぅ、と涼太に掴まれた手を握り返す姫奈。熱くなる顔を向け合うものの、互いに視線はちぐはぐな方を向いていた。


 そんなところへ恐る恐るといった具合に――――


「あ、あのぉ、お客様。順番が回ってきましたので、そろそろお決めになっていただければとぉ……」


「「すみません二人で滑りますっ……!!」」


 どうやらとっくに前の利用者は滑り終えていたらしく、見てみればゴーサインの青信号が点灯していた。


 涼太は二人用の浮き輪をコースの入り口前に置き、姫奈に振り返る。


「ヒメ、前行くか? 後ろが良い?」

「そ、そうだなぁ……」


 二人乗りの楕円形の浮き輪は前後で並んで座る形式。それを確認して、姫奈はささっと脳内シミュレーションを行っていた。


(りょ、リョウ君がドキドキする方じゃないとダメ、だよね……?)


 姫奈が後ろの場合。

 少し開いた自分の脚の間に涼太が腰を下ろすことになり、その背中が姫奈の腹や胸に触れることになる。そして、脇の間に通した脚は、どうしても涼太に触れられてしまうだろう。


(な、何か、それだと私の方がドキドキしそうだなぁ。ん、ということは……)


 ドキドキする方に涼太を座らせればいいので、姫奈の答えは必然的に――――


「私、前行く」

「了解」


 まずは涼太が深く浮き輪に腰を置く。最大限リクライニングした椅子に座っているような体勢になる。そんな涼太の脚の間に、姫奈は静かに腰を下ろして後ろに持たれた。


「……っ!?」


 涼太の身体がビクッと強張る。

 姫奈は身体の触れ合った部分からそれを敏感に感じ取って、耳を赤くした。


 涼太の腹辺りにピタリと姫奈の背中が、胸に後頭部が当たる。姫奈の脇の下に通した両脚には、何やらふにゃりと柔らかな弾力と熱い体温がありありと伝わってきて、まだウォータースライダーのスリルを味わう前から心臓がバクバクだ。


 と、何となくそんな二人の空気感を、もはや見慣れた一風景のように感じ取ったスタッフがにこやかに浮き輪を押していき――――


「それでは、お楽しみくださーい!」


「お、おぉ……おぉ、うおぉ――おぉおおおおおっ!?」


 スタッフと水流に背を押され、コースの傾斜がつくほどに加速していく浮き輪。インドア派の体幹では到底太刀打ち出来ないその勢いに、姫奈は完全に身体を後ろの涼太へもたれさせる。


「こ、これっ、思ったより勢い凄いんだけどぉっ……!?」


 ワータースライダーの勢いに怯えて姫奈の身体に力が入る。手近にあるものに縋りたくて、脇の下に通された涼太の脚をギュッと挟んで身体に寄せた。


 そうすると当然、


「ちょっ、ヒメ……!?」

「うぅ~!」


 姫奈の身体の柔らかさ、肌の滑らかさ、そして特別大きいワケでもないが決して小さくはない双丘の弾力が、明らかに先程よりも鮮明な感触として伝わってくる。


 コースがカーブを描く度に浮き輪が大きく揺れて、同じく触れ合った箇所も強く接触して擦れ合う。


(っ、これダメなヤツ……! 熱いし柔らかいしでもウォータースライダー速いしでワケわからん!)


 浮き輪を滑らせる水流よりも、流れ込んでくる情報量の勢いが凄まじい。


 右へ、左へ。

 それに従ってふよっ、ふよっ、と脚に無視出来ない感触。


「んなぁあああああっ!!」

「きゃぁっ……!!」


 両者の悲鳴。

 しかし、原因の異なる叫び。

 それらがアンサンブルして――――


 バシャァアアアン!!


 コースを駆け抜けた浮き輪が、ゴール地点のプールに着水して大きく水飛沫を上げる。


「はぁ……疲れたぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……あははっ……!」


 プールの水に冷え切らない顔の熱を感じてぐったりする涼太に対し、姫奈は興奮したように呼吸を早くしつつも楽しそうに笑った。


「ちょっと俺には刺激が強すぎた……」

「へぇ。それって、どんな刺激?」


 尋ねながら、姫奈は不必要にキュッと望の脚を自身の身体に寄せた。濡れた肌がピタリと触れ合う。


 涼太は背中越しに振り返る姫奈の顔に気恥ずかしそうな半目を向けて言う。


「わかっててやってるだろ……」

「嬉しいクセに~」

「……否定はしない」


 手で顔の下半分を隠す涼太の姿に、姫奈はくつくつと喉を鳴らした。

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