26.装備はまめにチェックしましょう
T21に戻って数日後、その辺をぶらぶらしていたらゲンタさんに呼び止められた。
「おうアイラ、この前はひどい目にあったんだってな」
「あ、はい、そうですね。ちょっと危なかったみたいです」
「みたいですって、お前そんな他人事みたいに。前から思ってたんだが、お前はもう少し守りを固めた方がいいな。最前線に立つにしては軽装すぎる」
それは私も思ってたんだよね。この世界に来て最初の感想が「下半身の防御力低そうだな」だったし。
と言っても私だって年頃の女の子、おしゃれしたい気持ちもちょっとくらいは残ってる……おしゃれと防御力を天秤にかけるとしたら、ためらいなく防御力をとるけど。私ったらだいぶ戦闘バカに育ってしまった気がする。カイのせいかな。カイのせいだ。
「実はな、リカのやつがお前が死にかけた話を聞いて血相を変えちまってな。『アイラちゃんにしっかりした服を作ってあげなきゃあ』とか言いながらずっと工房にこもってるんだ。そろそろ試作品ができてるはずだから、いっぺんあいつに会いに行ってやってくれ」
リカお姉さまデザインと聞いてちょっと希望が芽生えてきた。リカお姉さまがいつも来ているのは技術班の揃いのつなぎだが、彼女はちょっとした改造をほどこすことで抜群におしゃれに着こなしている。お姉さまなら、防御力とおしゃれの両立をかなえてくれるかもしれない。
私はゲンタさんに礼を言うと、足取り軽く技術班のプレハブに向かったのだった。
「いらっしゃいアイラちゃん、ちょうど良かったわあ」
「あ、こんにちはアイラさん」
「君か」
技術班のプレハブに顔を出した私は、笑顔のリカお姉さまとご機嫌なショウ、それとなぜかヨウに迎えられた。
「アイラちゃん、ゲンタさんから話は聞いてるかしら? あなた用の防具を作ってみたのよお。ね、せっかくだから今試着してみて」
リカお姉さまは何かの服一式を強引に押し付けてくると、そのまま私を別の部屋に押し込んだ。ここで着替えろということらしい。
渡された服は長袖のワンピースだった。都市迷彩らしく灰色をベースとした迷彩服に似ているが、生地自体が固くて厚みがある。さらにあちこちが革のような当て布で補強されている。元々着ている服より明らかに防御力が高い。
さて問題の下半身はどうだろうか。リカお姉さまの工夫がしのばれるそれは、黒いレギンスとサイハイ丈の白っぽいソックスが一体化したような形の厚手のタイツだった。レギンス部分もかなり布が厚く、ソックス部分に至ってはワンピースと似たような補強がされまくっていた。今はいているのがただの靴下でしかないことから考えると、大幅にレベルアップしている。
それに合わせて靴もよりがっしりしたものになっている。カイやレイトが履いているのと似たようなアーミーブーツだ。
それら一式を身に着ける。明らかに重量が増しているけど、まあしょせん服だし、そこまで問題ではない。問題なのはちょっぴり動きにくくなったこと。全体的に布地の伸縮性が
下がってるし、当て布のせいで関節の動きも少しばかり阻害されてる。
でもまあ、慣れれば何とかなるでしょ。うん。間違いなく防御力は上がってるし、デザインも可愛い。さすがはリカお姉さま。
ステータスウィンドウの表示も『軽装迷彩服』から『歩兵用兵装・重装型』に変わっていた。なんだその名前、急に強そうになったな。
着替え終わった私はリカお姉さまが待っている部屋に戻った。三人ともそこで待っていて、私の新しい防具を見ると口々に褒めちぎってきた。
「ああ、よく似合ってるわアイラちゃん。どこか直した方がいいところはあるかしら」
「今のところは大丈夫です、ありがとうございます。守りが固くなった分少し動きにくくなってるので、ちょっと慣らし運動をしようかなって思ってます」
「うわあ、一気に重装になりましたね。リカさん、これ他の人にも作るんですか」
「頼まれればね。こないだT19から届いた物資が切れちゃったら、さすがにもう作れないけれどねえ」
T19では布地が多く生産されているのだとレイトが前に言っていたのを思い出した。そっか、この装備はT19の物資で作られてるんだ。前にサクヤに会いに行った時に、輸送部隊が持って帰ったやつだな。
今さらながらに拠点間交流の重要さに気がつく。そう言えば、T19に行ってからぼちぼち日数が経ってるけど、サクヤたちは戻らなくていいんだろうか。まあシロカさんがここにいる以上、あいつに戻る気はないんだろうけど。
そんな風に私がいろいろと思い出していると、それまで無言だったヨウが不意に口を開いた。
「新しい服の慣らしか。僕でよければ付き合うけれど、どうする?」
「ああ、それがいいわあ。いきなり外で実戦はさすがに危ないものねえ」
リカお姉さまも同意している。ショウを見ると、彼もうんうんとうなずいている。
「えーっと、何をするんでしょう?」
「手合わせだ」
「……手合わせってやったことないんですけど、大丈夫なんでしょうか」
「君はあれだけ動けるんだから問題ない。近接武器の扱いは僕の方が上だし、手加減はしてあげられるから大丈夫だ」
そういうことならお願いしてもいいだろう。私がうなずくと、ヨウは中性的な顔にわずかに微笑みを浮かべた。彼は美人さんなのでそんな表情をすると結構どきっとさせられるものがある。ただ今回は世界を救う愛は発動しなかった。やっぱりあれは相手を選ぶらしい。
彼は手合わせに使うらしい柔らかい棒を二つショウから受け取ると、すたすたと外に出て行く。私も彼の後を追った。
そのままヨウは技術班のプレハブの裏手にある空き地に向かっていった。試作品の試し切りやなんかもここでやるので、大体いつもここには誰かしらいる。
今もちょうどシロカさんとレイトがいた。二人とも武器の改造が終わったところらしく、銃を手にしたままこちらに向かって手を振っている。私の服が変わったのに気づいたのか、二人とも興味深そうに目を見張っていた。
ヨウは二人に手を振り返すと、さっきの棒の片方をこちらにを渡してきた。受け取って軽く振ってみる。それは野球バットより少し短いくらいの棒で、硬いスポンジのような素材でできていた。
私、近接武器はめったに使わないんだけど、使いこなせるかなこれ。今回の手合わせの目的はあくまで私の服の慣らしだけど、どうせなら近接武器の練習もしておきたいところだ。
……相変わらず力が5しかないから、近接武器使ったところで大したダメージ与えられそうにないけどね。いいんだ、防御用としてならまだ近接武器の使い道もあるもん。
私たちは互いに構えて向かい合った。ヨウは普段刀のような武器を使っているだけあって、その構えも剣道を思わせる静かで凛としたものだ。
同じ近接武器組でも、カイはもっと軽やかで動きが多く、まるでダンスでも踊っているかのような感じだ。サクヤに至ってはやたらめったに動きすぎて、落ち着きがないようにしか見えない。そういやあいつ、元の世界でも機動力を生かしたフォワードだったなあ。
すると、何の前触れもなくヨウが打ちかかってきた。まっすぐに一点を狙ってくるような、鋭い打ち込みだった。私は横に飛んで直撃を避けつつ、持っている棒でヨウの棒をはじいた。
うーん、やっぱりちょっと前の服より動きにくくなってるな。あとヨウ、手合わせにしては殺気がすごい。
そこから先も、私はヨウの攻撃を回避することに専念し続けた。というかこちらから攻撃する暇がなかった。
ヨウは絶え間なく攻撃を続けていたが、その表情が少しずつ変化しているのが分かった。最初はほんのかすかに驚いているような顔を見せ、それがうっすらとした笑みに変わり、今では楽しそうに笑っている。あれ、ヨウってこんな笑い方する人だったっけ。
手合わせが終わったとき、私は完全にばてていた。回避し続けるのは慣れてたはずなんだけどなあ。たぶんヨウの笑顔が怖かったせいだろう。心労だな。
でもそのおかげで新しい服も体になじんだようだった。ちょっと荒療治だった気もするけど、ヨウには感謝しないと。
私が肩で息をしていると、レイトとシロカさんも近づいてきた。
「おつかれ、アイラちゃん。いい動きだったよ」
「防具を新調したのね。あなたは危険な立ち位置によくいるし、いいと思うわ」
「ありがとう、レイトさん。そうだシロカさん、リカお姉さまに頼めば似たようなものを作ってもらえるみたいだけど」
「私はいいわ。あなたみたいに前に出る度胸は私にはないから。武器も後方支援用に持ち替えたの。今もレイトさんに狙撃のやり方を教えてもらっていたところよ」
見ると、シロカさんが持っているのは小型で細身のライフルのような銃だった。レイトのものより二回りは小さい。
「僕もシロカは後ろにいた方がいいと思う。性格が前衛向きじゃない」
もういつもの静かな表情に戻ったヨウがそう言うと、今度は私の方に向き直ってきた。
「君の動きはとても良かった。君はおとりとしての性能は俺たちの中で一番だろう」
ヨウはまた小さく微笑むと、片手を差し出してきた。これは握手かな?
私が同じように手を出すと、ヨウはそのまましっかりと手を握ってきた。がっちりと握手を交わしながら、私はひっそりと考えていた。
ああ、恋愛抜きで関われるってなんて楽ちんなの、と。




