25.久しぶりの我が家
バリケードの入り口をくぐってT21に入ると、途端に懐かしさがこみ上げてきた。拠点の光景なんてどこでもそう変わらないのに、なぜかここは特別に懐かしく感じられた。
私がそんな思いをしみじみとかみしめていると、あっという間に人が集まってきた。サクヤは兵器の人としてここでは有名だし、T8組は色んな意味で目を引く。すると、その人垣から誰かが飛び出してきて、思いっきり私を抱きしめた。
「おかえりなさいアイラちゃん……長いこと留守にしてたのねえ。寂しかったわ」
もちろんそれはリカお姉さまだった。私はお姉さまの豊満な胸に埋まりながら、みんなの様子をうかがった。
カイとレイトは通常運転、ミヅキとヒマリはまだ慣れないのか目のやり場に困っているようだった。サクヤのやつはちょっとうらやましそうにしている。残念でしたこれは女の子特権です。そしてリカお姉さまとは初対面のT8組が、案の定ぽかんとしている。
私はリカお姉さまに抱きしめられたまま、彼らにお姉さまを紹介することにした。
「みんな、こちらはリカさん、T21の腕利き技術班です。リカお姉さま、そちらの四人はT8から来た人たちです。端から順にヨウさん、レンさん、シロカさん、マサキさんです」
「アイラちゃん、またお友達が増えたのねえ……」
リカお姉さまが目を見張って感心している。と、周囲の人垣をかき分けるようにしてショウとゲンタさんも現れた。
「あ、アイラさんお帰りなさい」
「武器の調子はどうだったよ。整備してやるから出しな」
私とカイ、レイトがただいまを言い、T8の四人を彼らに紹介する。こんな何気ないやり取りもなんだかほっとする。私はここを帰る場所だと思っているのと同時に、ここを出ている間は気を張っていたんだなあと気がついた。
うん、やっと帰ってこれたんだし、兵器とか恋愛とか世界を救うとか、今夜だけはそういうのを全部忘れてゆっくり眠ろう。
そう思ったんだけどなあ。どうしてこうなったんだろう。
今、私たちはT21の一室でみんな一緒に映画鑑賞中です。
こうなったのには訳がある。まず、技術班とT8組との顔合わせを済ませた私たちは、武器を技術班に預けて整備と改造を頼み、その後は上層部に帰還を報告してそのまま解散、となるはずだった。
そうして解散しようとした私たちを、マサキが突然呼び止めた。
「あ、ちょっと待ってみんな。これ、T21にお土産」
そう言って彼は、ディスクが入ったケースをいくつも掲げてみせた。そう言えば、帰り道の途中で泊まったT12やT33でも、似たようなものを彼が拠点の人に渡しているのを見たような。
「ああ、物資管理担当に渡しておく」
カイがそう言って受け取ろうとしたが、なぜかマサキはケースをつかんだ手を離さない。
「その前にさあ、俺たちで見ようぜ、これ」
見る? ということは、あれには映像かなにかが記録されてるのかな?
私だけでなくサクヤも首をかしげている。それに気づいたのか、レンがこちらを向いて説明してくれた。
「T8の特産品は娯楽品でね。マサキが持ってるのは、マーキノイド出現以前に作られた映画のデータが焼き増しされたディスクなんだよ。今じゃ映画なんてものはぜいたく品だから、どこの拠点でも喜ばれるんだ」
なるほど、この世界だと映画とか撮るの厳しいもんね。どうやってもSFになっちゃう。それ以前に撮影機器や役者さんがいなさそうだ。アクション俳優ならカイたちでもできそうだけど。
そんな風にのんびりと考えていると、マサキがケースを持った手を振りながら元気よく主張し始めた。
「そうそう、これって俺が厳選した、とっておきのやつだからさ。絶対面白いって。みんなで見ようぜ」
「お前の好みと僕の好みは合わないんだが」
浮かれているマサキをヨウが冷たい目で一刀両断している。しかしマサキは全く気にしていない様子で、ヨウの肩に腕を回した。
「まあそう言うなよヨウ。こういうのはみんなで見るのが楽しいんだよ」
「……そこまでいうなら付き合ってやる。ただし僕は鑑賞中に寝るから止めないでくれ」
「私も解析したいデータがあるから外していいかな、マサキ?」
「駄目だって。レンも来るの、これ確定ね」
他のメンバーからは異論が出なかったので、私たちは予定を変更してディスクの再生機とポータブルスクリーンを持ってビルの一室に移動した。
そこは休憩室になっていて、座り心地のいいソファがいくつか置いてある。常に物資が不足気味な拠点にしては珍しく、ここのソファには上等な素材が使ってあった。今度昼寝しに来てみよう。たぶん寝心地はかなり良さそうだ。
ソファを移動させて壁の方に向け、スクリーンと再生機を設置したところで、誰がどこに座るかでちょっともめた。まあ、いつものことだ。
しかし意外にも、真っ先に動き出したのはカイだった。彼は恐ろしいほどの機敏さを発揮して右手でレイトの腕を、左手で私の腕をつかんだ。そのまま流れるような動きで私たちの腕を引き、ソファの一つに座る。強制的に私とレイトも同じソファに座ることになった。シロカさんが口を挟む隙すら無かった。
うん、やっぱりにぶいカイでも、これはさすがにシロカさんの気持ちには気づいてるな。そして気づいた上で、全力で避けているようだ。カイって口数が少ない分ストレートな物言いが多いけど、避ける時も結構ストレートなのかもしれない。
そしてシロカさんは露骨に避けられたことに気づいて、明らかにショックを受けた顔をしている。まあ元の世界では、彼女に好意を寄せられて逃げるやつがいるなんてあり得ないってくらいモテてたからなあ、彼女は。そんでもって彼女はきっとそれでも諦めないんだろう。なんか彼女の視線が私にすっごい刺さってるし。
そんなシロカさんの両脇にものすごい勢いでサクヤとマサキが張り付いた。当然のようにサクヤの横にはヒマリがくっついている。みんな、戦闘の時より素早くない!?
レンとミヅキも苦笑しながら適当な席に腰を下ろした。ヨウは一人で後ろのソファをまるごと一つ占領している。既に寝る気満々だ。
そうして全員が席についたのを確認すると、マサキがディスクを再生機に入れ、映画の再生が始まった。
この時の私は、何が始まるのかなと素直に楽しみにしていた。
そして今、私は視線のやり場に困っている。な、なんで恋愛映画なんですか……それもおもいっきり甘酸っぱいやつ。
百歩譲ってアクション系で恋愛要素アリのやつとかだったら、そこまで気にせずに何とか見ていられたと思う。あと恋愛ものでも、一組の男女の恋愛を描きましたーってやつならぎりぎり耐えられたと思う。
なのになんで、複数の男女の織り成す複雑な恋愛模様を胸キュンなシチュエーション満載で描きまくりましたよ的な映画をチョイスしたんだマサキめ。
現在進行形でめちゃくちゃな三角関係に巻き込まれてる身としては、悪い意味で感情移入してしまう。胸キュンというよりも肝が冷える。
とても映画に集中できる気分ではないので、こっそり周囲を観察することにした。
隣のカイはよく分からないといった顔で眉間に軽くしわを寄せている。分からないのにしっかり見て考え込んでいるのが生真面目な彼らしい。そしてやっぱりカイは恋愛には疎いようだった。ちょっと親近感がわく。
そしてその向こうのレイトは私と目が合うと苦笑を返してきた。映画が彼の趣味に合わなかったのか、それとも私やカイが映画を楽しめていないことに同情しているのか。
シロカさんは明らかに時々こちらをちらちらと見ているし、サクヤとマサキはそんなシロカさんを挟んで映画そっちのけでけん制しあっている。映画見ろよお前ら。
ヒマリはしっかりと映画を楽しんでいるようだった。サクヤの横にぴったりとくっついて、目をきらきらさせている。そして意外にも、ミヅキも割と楽しんでいるように見えた。そう言えばこの前マサキと組んで押しかけてきたし、もしかして彼女はこういう話が好きなんだろうか。
一方でレンはこっそりとタブレットをいじっているし、ヨウは宣言通りソファに横になって眠っていた。まあこの二人は最初から興味がなかったようなので、当然といえば当然か。
これは私も寝ちゃった方が楽になれるかなあなどと思いつつも、中々そうもいかなかった。なぜって、カイと密着し過ぎていてリラックスするどころではないからだ。
カイが私たちを両側に従えて大急ぎで座ったソファは二人がけ。カイもレイトもそこまでがっしりしている訳ではないけど、それでも二人とも立派な成人男性だ。私は小柄な方だけど、彼らと三人でソファに収まるとぎゅうぎゅうだ。
白状すると、右肩と右のふとももがめちゃくちゃぬくいです。しかしそれを意識すると状況がさらにややこしいことになりそうなので意識しないように頑張ります。
さっきから『発動中:世界を救う愛』のウィンドウが高速で出たり引っ込んだりしていますがそちらも気にしないようにします。気にしたら負けです。
そうして映画が終わったとき、私は完璧に疲れ果てていた。レイトが「お疲れ」と小声でいたわってくれた。カイはまだ映画の内容を理解しようと考えこんでいる。そしてサクヤとマサキはまだやりあっていた。元気だな、あいつら。
たっぷり寝て元気なヨウをうらやましく思いつつ、私は自室代わりにしている部屋に早々に引っ込むことにした。ときめき疲れってあるんだね。




