27.今度はちゃんと覚えていたよ
「なあ、俺たちここにずっといて大丈夫なのか?」
T21に滞在してしばらく経ったある日、唐突にサクヤが言い出した。ちょうどみんな揃って昼食をとっている最中で、全員が一度にサクヤを見る。
「大丈夫ではないだろう。アイラ、君、それとシロカはできるだけ離れていた方がいいはずだが。一緒に行動していること自体に問題がある」
カイが何をいまさら、という顔で冷静に返している。まあそうだよね、私たち三人はマーキノイドを引き寄せるらしいし、三人揃ってたらまたクイーンとか出てきかねないもんね。できればあんなのとはもう戦いたくない。レベル稼ぎはもっと弱いやつでやりたい。
「ああ、それについて私から提案があるんだけど」
T8を発ってからこっち、暇さえあればずっとロシェ博士のデータベースを解析し続けていたレンがみんなを見渡して言った。どんな提案なのかな。
みんながレンにうなずき返すと、彼は軽く咳ばらいをしてから話し始めた。
「データベースの解析によると、三人が同時に一か所に留まり続けることで、大型のマーキノイドを引き寄せる確率が格段に跳ね上がる。ただ、一か所に留まらずに少しずつでも移動していれば、その可能性は大幅に下げられるみたいなんだ」
「だったらまた別の拠点に移動すればいいのね? ここからだとT19かしら、それともT33?」
ミヅキが合いの手を入れている。彼女もそろそろ本拠地であるT19に戻りたいんだろうか。
しかしレンは軽く首を横に振ると、さらに話を続けた。その二つ以外だと泊りがけの移動になるけど、どこに行こうというんだろう。
「それでもいいんだけど、この際だからT1を目指してみてもいいんじゃないかと私は考えているんだ」
「T1? それってマザーとかいうのがいるところだろ? 兵器が完成してないのに行っても意味ないんじゃね」
今度はマサキが首をかしげている。私も同感だ。確か現在T1は無人になっているとのことだし、マザーもいるはずだから色々と危ないと思うんだけど。
「それが、どうやら兵器は未完成であっても、マザーの力を多少は抑え込めるらしいんだ。さすがに直接対決するのは危険だけど、T1に近づくくらいは大丈夫だろう」
「そうすると、決戦に備えて下見といったところなのかな」
「その通りだよ、レイト。いざ兵器が完成してマザーと戦うことになってからあわてて下見をするよりも、比較的手の空いている今のうちに下見を済ませてしまった方がいいかなと思うんだ」
「僕もその意見に賛成だ」
話し合いが始まっても黙々とマイペースに食べ続けていたヨウが一瞬だけ手を止めて言い、そしてまた食べ始めた。私は少し考えた後、挙手して言った。
「あ、私も賛成です。……そろそろここを離れた方がいいかなって私も思ってましたし、T1がどんなところかも気になってましたから」
そう言いながら私は確信していた。これでまずT1行きは確定だろうと。
なんだかんだ言ってカイもレイトも私に甘い。戦闘以外では結構甘やかしてもらっている自覚はある。だから私が行きたいと言ったら二人も来てくれるだろう。
そしてカイが来るとなればいつもの流れでシロカさん、マサキ、サクヤ、ヒマリの同行が確定する。レンとヨウは普通にT1に行くつもりみたいだし、T19組の保護者を自称するミヅキもおそらく来るだろう。ほら、これで全員だ。
よくよく考えたら私ってキーパーソンっぽいポジションになってる? 主人公っぽさでいったらサクヤやシロカさんの方が断然上なのに、世の中って分からないものだねえ。
私はヨウにならい昼食の続きを黙々と食べながら、予想通りの流れになって全員のT1行きが決定していくのを微妙な気持ちで眺めていた。
で、T1に行くぞーと決まったはいいものの、そのままはい出発、とはいかなかった。T1に行くのであれば管理の関係上、どこかの拠点の上層部に話を通しておく必要があるらしい。
そういう訳で私は、サクヤとシロカさんと一緒にT21のお偉いさんに合う羽目になってしまったのだった。お偉いさんと話すのはレンとカイ、レイトがやってくれるらしいので、ひたすら無言を貫いていても大丈夫、とのことだったけど。ほんとに大丈夫なのかな?
というか、私も連れてくってことは、私が兵器持ちだって偉い人にばらしちゃうんだよね? せめて一般人にはばらさないように口止めをお願いしないとなあ。あー気が重い。
そうしてレンたちに連れられて向かったのは、一棟のビルのてっぺんに近いフロアだった。そこはフロア丸ごとぶち抜いた一つの大きい部屋になっていて、この物資不足の世界にしては珍しいことに、毛足の長い豪華なじゅうたんが広範囲に敷かれていた。ああ、偉い人がいますよオーラがばりばりに出てるよ、このフロア。
逃げ出したい気持ちをこらえながら、レンたちに続いて奥に進む。部屋の一番奥に、軍服のような服をきた中年男性が立っていた。おそらくあれが偉い人だろう。
レンが前に進み出て、偉い人と話し合っている。途中からカイとレイトも加わった。私たち三人はただひたすら待っているだけだ。
中年男性は話の途中でこちらを見、「なるほど、あれが報告にあった兵器を宿すという異世界の客人か」と言っていた。その言い方がすいぶんと優しかったので、このおじさんはいいおじさんなのかもしれないと、ちょっとだけ警戒を解いてみる。
しかしそう思ったとたんにおじさんがこちらに話しかけてきた。うわ、こっち見ないで。偉い人と話すのは緊張するから嫌だ。
「君たち、私はヨシユキ・ヤマセだ。T21の拠点長を務めている。私だけでなく他の拠点長も、君たちには期待しているんだよ」
改めてヤマセさんを見る。なんか見覚えがある人だなと思ったら、T19に兵器持ちが出たぞって通信機がアナウンスしたときに、通信室に駆け込んできた人の一人だった。
あの時は騒ぎに乗じてこっそり逃げてきちゃたけど、ばれてないよね。別に悪いことをした訳じゃないけど、ちょっぴりやましい気分。
「ありがとうございます。俺はサクヤ・T19-125です。俺たちも兵器の完成を目指して頑張ります」
場のプレッシャーをあんまり感じていないらしいサクヤがきびきびと答えている。あ、これ順に自己紹介しないといけない流れだ。
私とシロカさんが無言のままさっと目を合わせる。どっちから行く?
「……シロカ・T8-294です。私も……やれることを努力します」
兵器を完成させる気がさらさらないなんてことを白状する訳にもいかない彼女は、そうやって上手いことごまかしていた。
そう言えば、彼女もナンバーで登録したんだな。フルネームにコンプレックスのある私やサクヤはともかく、彼女は苗字で登録してるのかなと勝手に思ってた。
「私はアイラ・T21-327です。えーと、その、頑張ります」
何にも考えてなかったせいで、かなり適当なあいさつになってしまった。しかしヤマセさんはそんなことなど気にしていないらしく、私と目を合わせるとにやりと笑った。
「アイラ君、君は兵器を宿していることをずっと隠していたそうだね。こんなに近くに希望の星がいるのに黙っているなんて、君も人が悪いな」
「あ、えっと、違うんです」
ヤマセさんの声には面白がっているような響きがある。たぶん彼は私を責めてはいないんだろう。そう思ったので、しどろもどろながらも弁解することができた。
「私、そうやって持ち上げられるのが苦手なので、カイさんとレイトさんに頼んで兵器のことを黙っていてもらったんです」
「あ、ヤマセさん、こいつに悪気はなかったんです。本当にただ目立ちたくなかっただけなんです」
サクヤが微妙なフォローを入れてくる。あんまりフォローになってない気がするけど、やつも悪気はないんだよなあ。
だがヤマセさんはさすがに大人で、私たちの弁明を笑って受け入れてくれた。それだけではなく、私が兵器持ちであることをここだけの秘密にしてくれた。涙が出るほどありがたい。ヤマセさんはいい人だった。感謝感謝。
こうして、私たちは下見と称してT1に乗り込むことになったのだった。どんなところなのかちょっとわくわくしているのは、みんなには内緒だ。




