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28.ちょっとしたお出かけのはずだった

 T1行きが決まり、T21の拠点長であるヤマセさんへのあいさつも済んだ。けれどそこからの準備は遅々として進まず、結局T21を出発するまでにさらに数日かかってしまった。


 というのも、T1はここからずっと西に行ったところにあるのだが、T21からT1の間にはセンターが一個あるだけで、他には拠点一つない。どうやっても野宿になってしまうので、いつもよりしっかりと準備しておく必要があったのだ。


 思えば、これまでの旅は昼間歩いて夜はよその拠点に泊めてもらうことの繰り返しだったし、この世界で野宿って初めてかも。いや、元の世界でも野宿なんてしたことないけどね。私インドア派だし。


 しかもヤマセさんが「君たちがT1に向かうなら、ついでにその途中に仮拠点を作ってしまおうか。マザーを倒せばT1を使えるようになるだろうし、そうなったらT1とT21の間にちゃんとした拠点が必要になるからね」などと言い出したものだから、私たちのT1行きはさらに大掛かりなものになってしまった。


 まず、仮拠点を作るための物資を運ぶ輸送部隊。これは現在T21にいる輸送部隊を全て投入することでまかなった。アイテムボックス持ちのサクヤが手伝いたそうにしていたが、あいつのアイテムボックスは紛失の危険が常に紙一重だし、運ぶ物資が多すぎるのでみんなで説得して諦めさせた。


 さらに、仮拠点を作るための技術班。こちらはT21の人員だけでは足りないので、T19他の周囲の拠点から人員をかき集めることになった。


 最後に、彼らと仮拠点を護衛するための戦闘部隊。これも近隣の拠点の混成部隊だ。


 これらを合わせた結果、総勢二百人越えの大部隊ができあがってしまったのだ。それプラス私たち十人。全員揃うとまるで軍隊だ。いやリアルで軍隊見たことないけど。






「すごい人数になってしまいましたね……」


 T21を経つ日の朝、バリケードの内側の広場にみっしりと集まった部隊を見て、ヒマリが不安そうにつぶやいた。


 気持ちは分かる。ぱぱっとT1を見てさっと戻ってくるつもりだったのに、フル装備で大荷物の大部隊が同行することになっちゃったんだものねえ。というかこの人数比だと、私たちが大部隊に同行してるって言った方が正しいか。


「だ、大丈夫だよヒマリちゃん、これだけ人数がいればちょっとくらい強いのが出ても楽勝だし」


「そっちは心配してないんです。アイラさんとかカイさんとか、みなさん強いですし」


「だったら何が心配なの?」


「……サクヤさんと一緒にいられる時間が減ってしまいます」


 あーなるほど。少人数であればやつのそばをキープするのも難しくないし、戦闘もアピールタイムとして使える。


 けどこれだけたくさんの人がいると、社交的なサクヤはあちこち動き回ってしまうだろうし、戦闘も私たちが参加するまでもなく終わってしまいそうだ。


 ヒマリがあまりにもへこんでいるので、私は小声で励ますことにした。


「それも大丈夫。この人たちは途中に仮拠点を二つばかり作りに来た設営部隊だし、私たちと一緒にいるのはせいぜい三日くらいだよ。そこからT1まではいつも通りに私たちだけで行くんだから」


「そう、ですね……数日の辛抱です」


 私が指摘してやると、ようやくヒマリが笑顔を見せた。兵器完成のためにも彼女にはどんどん頑張ってもらわなければだし、元気になってよかった。あ、もちろん兵器のことがなくても彼女のことは応援している。友達の恋路を応援してる感覚だね。






 ざっざっざ、ざっざっ、ざっ。


 いつもは静かな廃墟だらけの世界に、やたらと大音量で足音が響き渡る。


 ざっざっざっざっざ、ざっざっ。


 足音がうるさくて会話する気にもならない。ただ人数が多いだけじゃなくて、大部隊のみなさんときたら妙に気合が入っちゃってるし、無駄口を叩ける空気じゃなかった。


 いつも陽気に騒いでいるサクヤとマサキが居心地悪そうにしている。他のメンバーは無口だったり沈黙が気にならなかったりと、この雰囲気も苦になっていないようだった。


 私もまあ沈黙は平気な部類だ。それにこれだけ人数がいるとマーキノイドを全力で警戒する必要がなくなる。だって私が気づかなくても誰か気づくだろうし。楽なのはいいけれど、何となく暇でもある。




 暇なついでにみんなを観察してみた。すぐ横をカイが歩いている。赤いメッシュの入った一房の髪が、意外と柔らかい黒髪の上で動きに合わせてひょこひょこと揺れている。


 彼はあまり表情を動かさないので冷静な、少し冷たい印象を与えがちだけど、面差し自体はむしろ柔和だ。わずかにたれ目の黒い瞳は濃いまつ毛に縁どられて、いっそ女性的といえるかもしれない。


 反対側にはレイト。彼はひまわりのような鮮やかな金髪と淡いブルーの瞳を持ち、ハーフのような彫りの深い整った顔立ちで、もし黙っていたなら険しい雰囲気を漂わせかねない。けれど彼はいつも穏やかに笑っていて、物腰も話し方もとても柔らかい。


 タイプは違うけれど、二人ともかなりのイケメンであることは間違いない。そう思いながらなおもちらちらと彼らを見ていると、カイがいきなり口を開いた。


「どうした、先ほどから俺たちを見ているようだが」


「ああ、僕も気づいてたよ。どうしたのかな、アイラちゃん」


 この時、私にしては珍しく、思ったことがするりと口をついて出た。


「運命ってあるのかなって考えてました」


「運命?」


 二人とも首をかしげている。うっかり妙な事を口走ってしまったが、ここまで来たらもう最後まで喋ってしまうべきだろう。いつもなら必死でごまかすところなんだけど、なぜかこの時はとても素直に言葉が口をついて出た。


「はい。私がこの世界に来て最初に会ったのがカイさんとレイトさんで、それからも色々とお世話になって」


 ここで一度言葉を切った。少し恥ずかしくはあるが、それを悟られないようにゆっくりと言葉を続ける。


「あなたたちに会えてよかったな、って思ってたら、そのあなたたちが兵器を完成させるのに必要な相手だった。なんかもう、運命ですよね」


「ああ、やっぱり俺たちだったのか。……そうだな、俺もそう思う」


「うん、サクヤ君の話しぶりから、アイラちゃんの相手はカイか僕だろうとは思ってたけど。確かに運命かもね」


 二人とも、驚くでもなく照れるでもなく、真っすぐに私の言葉を受け止めてくれていた。


 ……その場の勢いで、今まで何となくごまかしていた情報をうっかり開示してしまったけど、まあいいか。もう隠しておける段階でもなさそうだったし。照れくさいけど。カイとレイトが全く照れていないのが余計に恥ずかしい。


 妙に穏やかな空気になってしまった私たち三人は、また黙って歩き続けた。






 午後になってしばらく経った頃、私たちに同行していたゲンタさんが号令をかけ、全員が立ち止まった。ゲンタさんはT21の技術班としてこの大部隊に参加しており、仮拠点を作る際のまとめ役を任されている。


「予定地点に到着したぞ。全員準備にかかってくれ」


 その言葉と同時に、みんなが一斉に動き出した。戦闘部隊は辺りのがれきを動かして十分な広さの空き地を確保し始め、輸送部隊がそこに物資を配置していく。技術班は物資の中から必要なものを取り出しては、手際よく何かを組み立てていく。


 がれきを動かし終わった戦闘部隊は、今度は技術班が組み立てたものを空き地の周りに張り巡らしていった。あっという間に即席のバリケードのできあがりだ。




 私はぽかんとしながら彼らの動きを見ていた。というか空き地のそこらじゅうで人が忙しく歩き回っているので、彼らの邪魔にならないようにするだけでも大変だった。


 人を避けながら少しずつ端の方に移動していると、同じように必死で人を避けようとしているレンと出くわした。レンはちょいちょい他の人を避けきれずにぶつかっている。


 そのあまりの苦戦っぷりが気の毒になったので、彼に近づいて手を引き、人のあまり通らないところまで誘導してあげることにした。


 人込みから離れると、レンはほっとした表情を見せて礼を言ってきた。


「ああ、助かったよありがとう。さすが戦闘要員、アイラ君はいい動きをするね」


「言われてみれば、いつもマーキノイドの攻撃を命懸けでかわしてますから、慣れちゃったのかもしれませんね」


「君のような相棒がいて、カイもレイトも鼻が高いだろうね」


 そのレンの言葉に少しばかり引っかかるものを感じ、私は思わず彼に尋ねていた。


「レンさんには、私が彼らの相棒に見えるんでしょうか」


「そうだね、今のところそれが一番正確な呼び方だと思うよ。君たちは信頼で結ばれている。お互いの背中を預けられる仲だ。でもそれ以上の感情があるかどうかは、私には分からない」


 冷静にそう言うと、レンはちょっとだけいたずらっぽく笑って見せた。


「でもねアイラ君、今兵器の完成に一番近いところにいるのは君だと思うんだ。君がカイとレイトのどちらかを選んだ時、きっと兵器は完成するんだろう」


「レ、レンさんまでそんなことを……」


「私まで、ということは他にも似たようなことを言った人がいるんだね。マサキあたりかな」


 最後の方は私に尋ねているのではなく、独り言のようだった。レンは改めて私に向き直ると、私を安心させるように小さく笑い、落ち着いた声で言った。


「でも、君はきっとそのままでいいんだと思う。そうやって自然体でいれば、きっと上手くいくよ」


 レンが励ましてくれているのが分かったので、私は黙って頭を下げた。愛情を抱かないといけない、誰かを選ばなくてはいけない、そんな風になすべきことで頭がいっぱいいっぱいになってきていた私に、自然体のままでもいいという言葉はとてもありがたかった。


 そうだよね、自然体でやっていけば、そのうち勝手に収まるとこに収まるよね。


 私はちょっとだけ肩の力を抜いて、同じように人の波を避けているだろうみんなの姿を探しに行った。



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