殺意と愛情
sideレイア
アイナが連れ去られた。
「くそ・・・・」
俺があいつらの誘いに乗ったから。
「・・・・あいつら」
アレス、ライオス、スウェイン、ギニア、ジェイン、この5人
「殺してやる・・・・」
大丈夫、人の殺し方は良く知ってる。やった事はないがやり方は分かる。なんせ『夢』で見てきたからな。
斬って、窒息させて、焼死させて、凍死させて、潰して、小分けにして、教主のところに送ってやる!
「レイア!」
声が聞こえる。それは、とても聞き慣れた声だ。
『スキル【魔眼王】に【殺意の瞳】が追加されました』
声が聞こえた直後、今まで抱いていた殺意がさらに大きくなるのを感じる。
あまりに強すぎるそれに思わず心の内を叫んでしまう。
「ぶっ殺してやる!」
叫んでから気づいた。エンヴィが、ベルゼが、ソフィが、アヴァールが、そしてアリシアが、俺を見ている。
何か悍ましいモノを見るような目で、見ている。
その瞳に写る俺は、そこら中に殺気を放ち、眼の色は文字通り変わっていた。紅と蒼から、黒と黒に、深い、深い闇を宿した暗い瞳。口は醜く歪み、歯を剥き出しにして今にも襲いかかってきそうな状態だった。
「レイア!」
アリシアに呼ばれ、再び正気に戻る。
「・・・・すまない。急ごう」
「・・・わかったわ」
今俺たちは、正式な増援を要請する為に例の村の側にある聖都へ向かっている。
そこで増援要請をした後調査を頼み、俺たちは聖女に会うのがさっき決まった予定だ。
戦った場所から移動を初めて1時間、現在聖都の門まで来ている。今、いや、さっきアリシアが交渉し、城へ連れてってくれるそうだ。
「・・・レイア、あまり気に病んじゃダメよ。貴方のせいじゃないんだから」
「そうですお兄様、アレスさんはアイナさんを『重要な役割を担う者』と言ったなら、少なくとも殺されはしないはずです」
「・・・アイナ、は、強い。魔導士と、して、保証する。アイナなら、大丈夫」
アリシア、ソフィ、アヴァールの3人が慰めてくれるが、内容はあまり明るいものじゃない。
アイナは回復要員だから戦闘はあまりこなせない。その分拘束が緩くて痛めつけられてない事を祈るしかない。
それから会話が途切れ、全員ジッとしていると急にエンヴィが口を開いた。
「そう言えば言ってなかったが、【嫉妬】が使えるようになったぞ」
「「「「「はぁ!?」」」」」
衝撃の一言だった。
「まだ大分弱いものだが、何となくどうすればいいのかは分かる。それに弱いなら弱いで応用すれば良いしな」
その声に思わずベルゼが反応した。
「ちょちょちょ、ちょっと待て!え、いつ!?」
「そこはデリケートな部分だから言えんな」
エンヴィは少し赤くなるとベルゼから顔を逸らしてそのまま話を続ける。
「【嫉妬】の能力は話に聞く【傲慢】とはほぼ逆だな。自らより格上と見た相手に対して強くなる。
相手が格上なら格上な程強くなるが、弱い相手には逆に弱体化する。ゴブリンにはもう勝てんだろうな。まあ、【嫉妬】を使わなければ良いだけだがな」
とんでもない能力だった。それは、どちらが優先されるかによるが雷魔に対する切り札になり得る。例え向こうが優先でもエンドルフ様が言った通り見た目が脅威になるものなら雷魔に通じる。そこに【嫉妬】を使えば高威力の攻撃ができる。
それに対して俺は・・・
「フッ・・・俺は未だその鱗片すら見えんのにな・・・・・」
「い!?いや、レイア!発現させてみて分かったがこれは努力でどうこうなるものではない。何かを考える事も出来なくなる程にその感情に染まる必要がある。
お前のそれを誘発するのは人道に反するものだ、気長に待つのが一番だぞ」
「・・・・そうか」
エンヴィの言葉を信じれば、俺が【色欲】を得るにはまず、【色欲】を得るという発想から離れる必要がありそうだ。
俺が様々な事を考えている間に城についたようだ。
「・・・凄いな」
「綺麗・・・」
「流石神聖国ですね・・・」
「・・・・へぇ」
「ふむ、王国とは作りが違うのだな」
「ふっ、ふぁぁあ〜・・へぶ!?」
俺とアリシアとソフィが感嘆し、アヴァールか僅かに興味を示し、エンヴィが別の意味で感心し、ベルゼが欠伸をしてエンヴィに殴られる。
俺たちの悩みを一瞬忘れさせるほどに美しいものだった。
神聖国の城は外は教会と同じ作りになっている。中も煌びやかと言うよりは静謐とした雰囲気の漂う感じだった。作り自体は王国と大きな差があるわけではないはずなのに、王国とは全く別の何かに見える。
俺たちが門兵に連れられて城を上がっていくと、ある部屋の前に着いた。
お馴染みの謁見の間だ
謁見の間は礼儀やなんかが重んじられる場所なため、どの国も殆ど作りは一緒になっている。だがやはり、この国は神聖な何かを感じさせる。
『アリシア・フォン・イーストラル第一王女!並びにレイア・ドライア・ナイトヴァンス名誉騎士!ソフィーナ・ドライア・ナイトヴァンス公爵令嬢!アヴァール・アワリティ魔導士!エンヴィ・インヴィディア剣士!ベルゼ・グラ戦士!
以上6名、入室いたします!!』
なんか呼び名が大分おかしい気がするが、問題なく謁見出来そうだ。アリシアには感謝だな。
アリシアを先頭に立たせてその後に続き入り、入室の際の挨拶を済ませる。
「余は神聖国教皇オルレアン・クリティ・アリンストである。
此度はアリシア王女より邪神教団に関する重要な情報を提供をして頂けるとお聞きしましたが・・・」
「はい、順を追って説明いたします」
アリシアはここ2週間にあった事を掻い摘んで説明した。そして最後、今日あった例の情報だ。
「そして今朝、彼らは仲間のアイナを誘拐し、ここから南西に行ったところにある村まで逃亡、そこから先はここにいるレイアが交戦しました。残った我々はその村に居た合計114人の敵と交戦、撃破しました。
今はこの国の兵が出向いて捕縛に向かって居ます」
「ふむ・・・騎士レイアよ、追った先で起こった事の説明を」
「はっ、私は魔道具により加速した馬車を追い、魔力切れを起こしたところで追いつき交戦、敵は邪神教団の教徒2名と司祭が1名、戦闘中に司祭が【深淵魔法】と思われる魔法を使用し、彼らの仲間とアイナが乗っていたと思われる馬車を『侵食』、司祭の話によりますと、その魔法で侵食したものをもう一度取り出せるが、自分以外は取り出せない事、アイナが邪神教団にとって長年追い求めてきた大切なものである事が判明。
敵はそのまま西に逃亡し、行方を眩ませました。
今回我々がこちらへ来た理由は2つ、邪神教団討伐における援軍の要請、並びに聖女様への面会です」
俺の言った言葉の、最後の部分に神聖国の重鎮達が僅かにざわめいた。
「静まれ!・・・・アリシア王女、騎士レイア、貴方方の要求は受けさせていただきましょう。
近年邪神教団と思われるもの達による誘拐事件が発生している。もし今回の件と繋がっているのならばお互い急がねばならない事態やもしれん。
聖女との面会は手配しておく。君達は城の客室に泊まって今日は休んで行きなさい」
「「ーっ!ありがとうございます」」
意外にもすんなり承諾してくれた。と思ったのになぁ・・・
「代わりと言ってはなんだが、こちらからも願いがある。聞けば王国は東の古代龍を従えたとか。従えた方法などは聞きはしない、だが古代龍に関する情報を提供していただきたい。それと、聖女に面会するというのならその目的も教えてもらいたい」
思いっきりまずい情報の要求入った!
2つとも俺たちにとって地雷なんですけど!?
俺がアリシアの方を見ると、アリシアは頰をヒクつかせながらこちらをチラチラと見ていた。
あまり長く悩むわけにもいかない。それに!後ろめたいことは無いんだし!大丈夫!
俺はアリシアに頷くと一歩前に出る。
「そちらに関しては私の方から説明させていただきます。
まず東の古代龍、彼は王国に従っているわけではありません。彼は戦女神様より神託を受け、私と契約を交わし、共に雷魔を討伐する為に居ます」
俺の言葉にさっきまでより大きな動揺が走る。当たり前だ。災害そのものの存在が国とではなく個人と契約を交わしているのだから。
おまけに神からの神託を受けたと言う。もしそうなら彼らは国の方針上、下手に手出しができない。
教皇すら動揺しているのを無視して話を続ける。
「恐らくイリス様がそう仰ったのでしょうが、私は東の古代龍、ナイトを従えることはできません。ですが、協力を要請することはできます。
雷魔が絡んでいるかもしれないと言えば此度の邪神教団討伐にも手を貸してくださることでしょう。
次に聖女様との面会ですが、私にも戦女神様より神託を受けました。内容はナイトと同じく雷魔の討伐。その為に聖女様に会い、その力を借り受ければ私は新たな力が得られる(と思われる)のです。
その為に私は、どうしても聖女様に会わなければならないのです」
俺の言葉は更なる動揺をもたらすだけだったらしく、少し長い間沈黙が訪れると教皇が言った。
「・・・・なる程。使徒レイア殿、王女アリシア、及びその仲間方と聖女の面会は確約させていただく。情報提供感謝する。今日はゆっくりと休んでいただきたい」
なんか俺の敬称が変わったが、無事に謁見を終えることができた。
それからそれぞれ個室に案内され、晩飯を取った後、俺はベッドで寝転びながら今後について頭を悩ませて居た。
「・・・・ナイト、か、確かに助けてはくれるだろうが、もし雷魔に情報が漏れたら手の内が1つ知られることになる。
それに『ぼく』のこと、遂にここまで来たが、『ぼく』は何を考えているんだ?悪い奴ではな・・・悪い奴だが、決して敵ではないし、悪でもないだろう。
だが『ぼく』に会って何を・・・!」
俺は未だに『ぼく』の夢を見る。だからなんとなく思考パターンがわかる。
彼は助けたい人、守りたい人がいるなら最低限鍛えた後、自衛させる。その上で危機に陥ったら助けるという選択肢を取る。
『ぼく』の力の差は俺と比べれば一目瞭然、俺も修行を付けてもらえるならば雷魔に対抗できるようになるかもしれない。
そうすれば、確実にあいつらを・・・!
「殺せる・・・!」
俺が小さく呟いたところで、ノックが聞こえた。
扉を開けて中へ招く。
「こんな夜更けにどうしたんだ、アリシア」
「レイア・・・・」
アリシアは小さく俺の名前を呟くと、突然俺に抱きついて来た。
「ア、アリシア!?」
「・・・・・・」
俺が名前を呼んでも何も言わず、抱き締める力を強めてくる。
それから十数秒してようやく俺の体を離したアリシアは、今度は俺の顔を掴んで目を覗き込んでくる。
「アリシア・・・・・?」
「・・・・戻ったわね」
戻った?
「一体何が戻ったって言うんだ?」
「眼の色よ。貴方、さっきまで黒い眼だったけど、今は戻ってるわ。時々色が戻ってたから、心が落ち着けば良いんじゃないかと思って」
「・・・・そうか、色、戻ってたんだな」
じゃあ今は赤青なんだな。
なんとなく、ぼんやりとそんな事を思っていると、アリシアが顔を赤くして俺をベッドに突き飛ばした。
「なんでぇ!?」
「あ、ご、ごめんなさい。ついびっくりして」
アリシアが謝ってくるが、途中でアリシアの向こうにある鏡が目に入って驚いた。
そこに映っていた俺の顔は、苦笑いしつつも暗く、眼が僅かに濁っていた。
これは、心配されても仕方ないな・・・
俺はベッドに座りなおしてアリシアに話しかける。
「アリシア、心配かけて悪かった。もう大丈夫だ。もう、殺意に染まったりはしない」
「・・・・本当に、大丈夫なのね?」
「ああ」
アリシアが隣に座り、また目を覗き込んでくる。
「本当の本当に?」
「大丈夫だって、心配すんな」
照れ臭くなって来た俺はアリシアの頭を撫でて誤魔化そうとするが・・・
「・・・・・あの〜、アリシアさ〜ん、手、退かしたいんですけど」
「いや・・・・もうちょっとこのまま」
アリシアが俺の手を上から押さえて強引に撫でさせる。
夜の部屋で2人っきりでベッドで座ってアリシアの頭を撫でている俺・・・なんだかイケナイことしてる気がして来た。
そう自覚した途端、全身が熱くなり目の前が真っ赤に染まる。
「アリシア!」
「へ、きゃぁ!?」
アリシアを押し倒し、その上に重なるように乗る。
不安げに俺を見つめるアリシアを見ながら、俺は逃げられないように片手でアリシアの頭を掴み、その薄紅色の唇へ顔を近づけ・・・・
「ーっ!!」
正気を取り戻して飛び退く。
「す、すまないアリシア!」
「い、いえ、大丈夫よ・・・べつに、汚させられたわけではないのだし、嫌なわけでも・・・ないし」
「え・・・!?」
普段なら、こう言う時アリシアの声は最後の方は小さくて聞こえないが、今回は違った。
アリシアは今、確かに言った。
嫌ではない・・・と
「それって、どういう・・・・?」
俺の、後に思えば不躾な質問に、アリシアは顔を赤くし、目を逸らしながらも、しっかりとした声で答えた。
「どうもこうも・・・言葉通りよ。この際だから、ちゃんと言っとくけど」
アリシアは一旦言葉を切り、俺の目を見ながら言った。
「私、ずっと前から、貴方のことが、好き、大好き、なの・・・・」
「ーっ!!」
アリシアの言葉に、思わず息を飲む。
「レイアは・・・どう、なの?」
「俺は・・・」
胸が高鳴る。息が荒くなる。今までの事が走馬灯の様に駆け巡る。
小さい頃からソフィも含めた3人で遊んで来た。初等学院に入って最初の1年間はずっと城まで行って遊んでいた。それ以降は徐々に一緒にいることは減って行ったけど、高等部に上がってまたよく一緒にいるようになった。
そこからは、それまでとは違った。一緒にはいたけど、遊んでも居たけど、守りたいと思うようになった。ずっと、一緒にいて、側でこの笑顔を守りたいと思うようになっていた。
ふと、『ぼく』の夢で感じた恋愛感情を思い出す。
あぁ、これが、俺の感じているこれこそが・・・
「アリシア」
「は、はい・・・・」
自分の中の感情を認識し、しっかりとアリシアに伝える。
「俺も、アリシアのことが好きだ。愛してる。だから、俺と一緒にいてほしい。これからずっと、一生一緒に!」
俺はアリシアを、今までよりも強く抱きしめる。
絶対に、失わないために。
「私も、愛してるわレイア」




