ベルゼ卒業(意味深)
sideレイア
国境を越えてからの移動が始まって3日が経った。
「くらえ!」
「剣筋が直線的すぎだぞ、ベルゼ!」
今はベルゼとエンヴィが戦ってる。エンヴィは刀で、ベルゼは短剣で戦っているが、リーチの差がデカイようでエンヴィの方が押している。
ベルゼは接近戦の訓練だと言って【悪食】を使わない。【悪食】での遠距離攻撃を前提としているベルゼの戦い方ではエンヴィには勝てない。
エンヴィはそれに付き合って加減しているが、やはり差は大きいようだ。
「隙あり!」
「ぐぬぁ!?」
「そこまで!」
エンヴィが峰と呼ばれてる部分でベルゼの頭部を殴った所で終了の合図をかけた。
わかるぞベルゼ、あれは痛い。現状エンヴィの勝率が1番高いため結構な頻度であれをやられている。
「どうだエンヴィ、まだいけそうか?」
「問題ない。今は夜だぞ?私が力つきることはない!」
夜になるとエンヴィは元気だ。
エンヴィ曰く『氷の大陸』の殆どのヴァンパイアは夜に活動してるそうだが、エンヴィはこっちでの生活の為に矯正したらしく、元気と言っても夜には寝ている。
寝るまでずっとソワソワしてるらしいが。
「よし、じゃあいくぞ!」
「来い!」
剣を構え、溜めを作る。
エンヴィの隙を伺うなんて無駄なことはしない。少なくとも夜の間は意味がないからだ。
完全に勘だし意味もないが、自分の体を動かせるのに最も適したと感じたその時、動く。
「ハァッ!」
「フッ!」
剣と刀が交差する。エンヴィは力が強いが戦い方はスピード系だ。刀は溜めが大きいが、エンヴィの速度の前ではその溜めも僅かなものだ。
エンヴィが連続で放つ突きを弾きつつ、魔法を使う。
「『ホーリーアーム』!」
「クッ!・・・!!」
光の腕が現れ、エンヴィを突き飛ばす。
いくら腕の動きが速くても体は動いてない。やはり当てるのは楽だが、問題は威力だな。
「レイア!暗いんだから【光魔法】は使うな!」
「仕方ないだろ!森の中で【火魔法】使うのがまずいわ!」
この時間、俺は魔法の使用を最小限にしなければならない。どっちも夜の森で使うには危ないからだ。
エンヴィの文句と攻撃を防ぎつつ、魔眼による攻撃を仕掛けてみる。
「【重圧眼】!」
「ぐぅっ!?」
エンヴィの刀の重さを3倍にし、攻撃を中断させる。エンヴィの両手が下がり、大きな隙に繋がる。
今攻撃すれば俺の勝ちだが、エンヴィは一筋縄ではいかない。
「俺の勝ちだ!」
「まだだ!『固形化』!」
エンヴィの【闇魔法】が発動する。
『固形化』は闇、この場合は影を魔力で固める魔法だ。性質上込められた以上の魔力を流せば崩せるが、俺にとってはその消費すら致命的だ。
エンヴィの『固形化』は俺の脚を固め、動きを阻害する。慌てて魔力を流し込むがもう遅い。
エンヴィは素早く俺に接近し、俺の顔面を強打した。
「ぐあぁああぁあ!!?」
「むっ、すまんレイア!ついヤッてしまった」
夜のエンヴィは、割と自制心が弱い。
夜の訓練を終えて就寝前の汗拭きに入る。
「あ〜っクソッ、エンヴィマジつえぇな」
「ベルゼは【悪食】を使う隙を作る為の戦い方をしているからな、【悪食】の使用禁止状態なら大して恐れる必要もない。
隙を作っても呆けていた頃よりはマシだぞ?」
「あ〜!あの頃のことは言うな!」
訓練開始当日、ベルゼは戦いながら隙を作っては距離を取り、しまった!みたいな顔をする事が多かった。
言ってはなんだが、絶好の機会に距離を取って絶望した顔をするベルゼは・・・滑稽だった。
この事で弄り続けると拗ねてしまうから、そろそろフォローしてやらなければ。
「まあ仕方ないんじゃないか?ベルゼ最大の武器は【悪食】なんだから、それを前提とした戦い方になるのは当然だ」
「だよな!?普通そうだよな!?長々と弄り続けるエンヴィがおかしいんだよ!」
確かにエンヴィは1日2回はこのネタを使う。それはもう楽しそうに。
普段はクールな顔で戦闘前の獰猛な笑みくらいしか笑わないエンヴィが物凄くニヤニヤしている。それはもう楽しそうだ。
「クッククク、すまないベルゼ、ふざけて拗ねているのではなく本当に拗ねてるお前の姿は案外可愛くてな、ついやってしまうんだ」
「かっ!可愛いとか言うなし!」
「あ〜あ〜、ベルゼ本当に拗ねちまったじゃねぇか、どうすんだよエンヴィ、これ結構面倒なんだぞ?」
「うむ、そこは任せたぞリーダー殿。私は先に戻っている。お前たちも急ぐんだぞ」
汗を拭き終わったらしいエンヴィは今夜泊まっている街まで走って戻っていった。
「くっそエンヴィ・・・今度の訓練の汗拭きの時覗いてやる!」
「ばっかベルゼ!お前それ前にやって酷い目にあっただろうが!」
こうして街の外の森の中で訓練している俺たちだが、汗を拭くときは別に離れたりせず大き目の木1本挟んで汗を拭いている。
2日目にボコボコにされた挙句例のネタで弄られてイラついていたベルゼは汗拭きの時に突如エンヴィのいる方に回り込んだ。
ベルゼ曰く覗き自体は成功したし、エンヴィも顔真っ赤にしてたから殴られて気絶させられたのを差し引いても報復としては満足だったらしい。
結局気絶したベルゼを運ぶ羽目になったが、あの日は隣を歩くエンヴィが顔真っ赤で無口なのが気まずかった。
そう言う前科がある為、俺としてはやめて欲しいわけだ。
「いやいやいや、仕返しとか差し引いてもあれは見る価値あるって!
あのエンヴィだぞ!?最初は傷だらけだとか思ってたら肌真っ白で無茶苦茶綺麗だったんだぜ!?銀髪がキラキラしてて肌も周り暗いからなんとなく輝いて見えて、それであの恥じらいの表情は見る価値あるって!」
「うわぁ・・・ゲスいなお前」
その後も移動中やたら熱弁してくるベルゼがウザかったが、ふとある可能性に思い当たる。
「なぁベルゼ、お前ひょっとして、エンヴィのこと好きなのか?」
「はぁ!?」
最近見る『ぼく』の夢で、人が人を好きになった時の対応の変化を知った。恋心というものを知った。
そこから結びつけてベルゼに聞いてみたんだが・・・
「まぁ、嫌いじゃねぇよ、仲間だし。あの外見と性格のギャップも可愛いしな。恋愛対象としては結構アリだが、好きかどうかと聞かれると・・・・」
「無しなのか?」
「いや、好きではないが、嫌いじゃあねぇって感じだな。告られたらOKする位には好きだぞ?」
「なんか適当って言うか、不純じゃないか?」
好きじゃないけど告白されたら付き合うって、酷いような気がするんだが・・・
「いやいやレイアよぉ、普通こんなもんだぜ?自分の心はステータスみたいに数値化できねぇんだ。だったらやってみなきゃわかんねぇだろ?
付き合って良さそうなら俺だって好きになるだろうし、相性悪かったらお互い別れる。恋愛ってそんなもんだろうよ」
「そんなもんなのか?」
随分と取っ替え引っ替えしてる感じの言葉だが、あれだ、浮気する男みたいな言動だ。
「そういうもんだ!だからよレイア、これからちょいと新しい出会いを探しに行こうぜ!」
いきなりテンションの上がったベルゼが肩に手を回してくる。
「なんだよ新しい出会いって、もう街に入るんだから身分証出せよ」
もう俺たちの番が来る為、俺もベルゼも身分証を出す。身分証と言っても冒険者ギルドのギルドカードだが。
検問を通って街に入るとまたベルゼが肩に手を回してくる。
「続きなんだがレイア、どうだ?行かね?」
「まず何しようとしてんのかはっきり言えよ。なに、ナンパ?」
夜なら昼よりは暇な人多いからそんな感じか?
俺がナンパかどうか聞くとベルゼは何も言わずにニヤニヤしながら街を歩き、数分後にある通りに着く。
「ここだよここ!」
このやたら灯が多くてその癖あんまり明るくなく、冒険者や中年、薄着の女性が歩くこの通りは・・・・
「色街じゃねえか!?」
「当たり前だろ!?寧ろお前が加わるまでの1年頑張ってここ来るの耐えてたんだぞ!?1人じゃ来にくいだろうが!」
側を歩く際どい服の獣人のお姉さんをみながらベルゼが言う。
「知らねえよ!そもそもなんで来ること前提!?」
俺も側を歩く薄い服のエルフさんを見ながら言う。
「ばっかレイアお前!冒険者の男の大半はこう言う通りに来て戦いで昂ぶった心を鎮め、傷ついた体を癒し、ここで初めてを捧げていくんだよ!
でも始めて来るから1人じゃ来にくいだよ!」
今度は胸を強調して来る魔族の人を見ながらベルゼが言う。
「だから知らねえよ!大体そう言うのは好きな人同士でやるもんだろ!?なんで好きな女の話した直後にこんなとこ来ようと思うわけ!?」
今度は俺の気を引こうと袖を掴む人間のお姉さんを見ながら言う。
「良いだろうがいつ来ようと!って言うかこの通りに入って歩いてウロウロしてる時点で意味ねぇよこの言い争い!折角なんだからもっと楽しもうぜ!
お〜いそこのお姉さ〜ん!」
「ちょ、ベルゼ!?」
ベルゼは少し遠くにいるドワーフの女性目掛けて走っていった。
このままここに居て翌日【色欲】が解放されてたりしたら恥ずかしすぎる!
ベルゼを止めることを諦めた俺は誘惑に耳を貸さないようにしながら一気に通りを走り抜けた。
翌日、やや寝不足ながらもいつも通り起床した俺は朝食を取りに広間に行く。
既に殆ど皆集まってるようだ。居ないのはアイナとアリシアとライオスさんとベルゼだけだ。
「おはようみんな」
「あぁレイア、ベルゼを見なかったか?」
エンヴィにベルゼの所在を聞かれて何故か緊張する。なんか変な汗かいてきた。
取り敢えず真実を告げるのは状況的にも同じ男としてもやめておこう。
「い、いや、まだ見てないな」
「そうか、あのベルゼが、戦いで骨を折っても必ず朝食を食べに治療院を抜け出したあいつが朝食に遅れるなどありえん。なにかあったのだろうか・・・」
エンヴィが少し深刻な顔をして悩む顔を見ると・・・物凄く居た堪れない。
骨折してでもガッツリ食べたくて抜け出したらしいベルゼ、そんなあいつが遅い理由が女遊びであると、よりにもよってエンヴィに言うのは、辛すぎる。
俺は昨日、何も見なかった。ベルゼと別れて帰って寝た。そう言うことにしよう。
俺がなんとか嘘で押し通そうと考えていると、最悪のタイミングでアホが帰って来た。
「ふぁ〜あぁ・・・悪りぃ、遅れたわ」
うっわぁ、すっげえニヤニヤしながら帰って来たなぁ。
「ーっ!ベルゼ!お前どこに行っていたんだ!?部屋に居ないしレイアも知らないと言うから心配したんだぞ!?」
頼むベルゼ、何も言うな。
「おお!昨日の帰りにレイアと色街に寄って行ってな!そこで兎の獣人の姉ちゃん見つけたんだが、すっげえ巨乳でよ!それで・・・グヘヘへ」
「・・・はぁ」
俺はもう何も知らないぞ。
俺は何も見なかったし聞かなかったことにして食事を再開しようとするが、そう上手くはいかなかった。
「レイア!お前ベルゼが何処に行っていたか知っていたな!?」
「レイア貴方!色街に行ったわけ!?何やってるのよ!!」
「お兄様、きちんと事情をお話しになってください!な、何かの間違いですよね!?」
「・・・・・・・・・・・」
「ちょっ、待って!何でこっちに矛先が向くの!?」
いつかのようにエンヴィが俺にヘッドロックをかけてくる。そしてアリシアごソフィが両脇から揺らして来てアヴァールがエンヴィと俺の間に立って無言で見てくる。
一応、弁明しておくか。
「エンヴィ、何処に行ったかは知ってたが、その後何してたかまでは知らなかったから黙ってただけだ。
アリシア、ソフィ、俺はベルゼと雑談しながら歩いてたらいつの間にか連れてかれてただけだ。俺はすぐ帰ったがベルゼはどっか行ったから1人で帰って来た。
アヴァール、何か言ってくれ・・・」
自分でも驚くくらい焦ることなく答えられた。何と言うか、状況把握が得意になった気がする。
だがしかし、説明をしても止まらないのがこいつらだ。
「だが!お前は止めなかったのだろう!?どうせツッコミはするのにそこまでしかしなかったのだろう!?興味津々で色街に繰り出したのだろう!?」
「いっ!いや、そんな事はないんだぞ・・・?」
そんなにジロジロ見てたりしてなかった・・・はずだ。
思わず目を逸らしてしまうが、他意はないんだぞ?変な汗が頬を伝うけど、これも違うんだぞ?口調が変なのも違うんだぞ?
「何だその答え方はぁぁぁ!!!」
「うぇっ!?ちょ、エンヴィ・・・!」
「レイア!しっかり目を見て話して!」
「目よりも・・・意識が・・・!!」
「そうですお兄様!何か後ろめたい事でもあるんですか!?」
「はやく・・・助けて・・・」
「レイア・・・・・・」
「も・・・むり」
「おぉぉぉい!俺の身代わ・・・・相棒ぅぅぅ!!」
ベルゼ後でボコボコにする
そう誓って俺は気を失い、その間に馬車に運ばれて出発した。
悪夢への道を、着々と歩んでいった。




