カナデスイーツ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
残念とされる所以の1つは確認済み。
理緒の1個下。
カナデスイーツ
べたべたに甘くて
私を満たす
これで足りないなんて
誰が言える?
「堂々としてればいいから」
「…?」
退院から約3週間。
喉もかなり良くなって、お米もそのまま食べれそうな程に回復。
そんな日に京都から戻ってきていた私は、奏とのデートを満喫していた。
来たことのない、都会のど真ん中。
その時のセリフである。
唐突すぎてよくわからないけど、堂々と…?
「…はい、乗って」
エレベーターが開く。
言われるままに乗り込み、きょとんとしていた私の頬を、奏はむに、と摘まんだ。
「ほあ?」
「ふふ」
ちーん。
…がーーーっ
「っ!!?」
……ドアが開いたその時、私は全てを理解した。
ちょ、ちょ、ちょっと!!!
言ってよ、連れてきてくれるなら!!
そこは芸能人御用達の超高級焼肉屋の、超高級ライン店だったのだ。
…席に通されると、なんと着物の女性が前掛けを取り付けてくれる。
失礼します、とか言って、ねえ!
そ、それくらい自分で結べますから!
そわそわしてやばい。
それなのに、奏は済ました顔でエプロン結ばれてるし、必死で私もそれに倣う。
それでも、心の中はひーひーしていた。
ドレスコードは無いらしいが、私のカジュアルスタイルと言ったら…。
奏はそれなりにきっちりしていて…まぁいつも品があるわけだけど…紳士然としているし。
どうしよ…私釣り合ってない…。
悶々としている私をよそに、さらさらと注文を済ませ、人がいなくなると奏は微笑んだ。
「セレブ気分味わえるよね」
「ほあぁ…私は必死だよ奏~~」
「や、俺だってこんなとこ来ないからね?…エプロン付けてくれんだよ、びっくりだよね」
「何か慣れてるみたいに見えた…奏はセレブだよぉう~」
「庶民です」
ぴしゃりと言って、とりあえず、とメニューを見せてくれる。
「理緒食べてみたいのある?今日は退院祝い、退職祝い、早いけど引越し祝いとかもろもろだから、何か選びなさい」
私は少し考えて、一品、甘えるべきと判断した。
奏が私のためにしてくれてるのを、無下にするのは失礼だし…その気持ちが嬉しかったから。
「あ、これ美味しそう」
「頼んだ」
「じゃあこれ?」
「頼んだ」
「……こ、これ…」
「…たーのーんーだー」
「ええ~、食べたいの先に頼まれてるようー」
「あ、じゃあこれ行く?1枚でこのお値段、どーん」
見せられたお肉に、私は驚愕した。
「ぶっ…何その高級お肉…!」
「理緒、食べたい?」
「た、た、食べたい以前に高すぎて」
震えます、震えちゃいます。
「……」
奏は思案げに私を眺めてうんうんと頷いた。
そこにまずはサラダがやってくる。
その店員さんを呼び止めると、奏ってば!
なんとさっきのお肉を頼むじゃないか!
「…っ」
ぱくぱくしていると、目が合った奏が微笑んだ。
「いいの食べよう。理緒はいろいろ頑張っててえらかったよ」
「……!」
「だから、ご褒美」
そんな、そんなことない。
きゅーっと胸が苦しくなった。
私を頑張らせてくれるのは、奏だ。
奏が私の背を押してくれるから…。
「そんなに、甘やかしたらだめなの」
嬉しくて、恥ずかしくて、甘やかされるのに慣れなくて。
思わず目を逸らし、頬を覆う。
「甘やかされたらよろしい。それが普通になったら困るけど」
「なっ、ならないよっ」
「ならよい。こういう時は甘えさせてあげるよ。理緒が頑張ってるから」
そう言ってから、とろけそうな甘い声で、奏は続けた。
だから、甘えておいで。
俺の可愛いお姫様。
かぁーっと血が熱を帯びる。
うわ、どうしよ、何これ。
こんな甘やかされたら、どうしていいかっ…。
「姫違うの…」
呻くように言ったら、タイミングいいのか悪いのかお肉が運ばれてきた。
奏は店員が出て行くのを待って、意地悪そうな笑みをこぼす。
「顔が紅いよ理緒?」
「火が熱いんですー」
ぷんと口を尖らせれば、楽しそうで満足そうな笑顔。
その花がほころんだような笑顔は、営業スマイルじゃなく、ホントの奏の表情だ。
私はつい嬉しくなって、一緒に笑ってしまった。
可愛い可愛いと連呼しながら、甘やかし攻撃をやめない奏。
その手はお肉を取り分けてくれて、私に手伝わせる気が無いらしい。
「あのう、奏」
「おひめは待っていればよい」
「まだ何も言ってないもん…」
「言ってみてもいいよ」
「私もお肉焼き…」
「だめです」
「まだ途中…」
「だめです」
「むー…」
何故かお見通しである。
そんなにわかりやすいかなぁ…?
ちょっと悔しいので、ポーカーフェイスをすることにした。
仕事モードをオンにして、いわゆる外面をかぶれば、私だって…!
「おひめ。お肉を食べなさい、冷める」
「ふあ!?は、はいっ」
撃沈である。
不意打ちである。
「もー、ずるいー」
「そんなにお肉欲しいの?よしよし乗せてあげるね」
「違うってばあ!」
こんな日常が、もうすぐやってくるのだろうか。
堪能しながら、そんなことを思った。
「引越しいつ?」
「んとー来週の水曜午前中かな」
「その日休む」
「は、え?」
「ん?」
「何で…?」
「お手伝いとかいるかなーって」
「だ、だめだよ、大丈夫だよ?1人でも…それに私、今までも1人でやってきたし…」
「……なら休んでゲームする」
「あっ、それいいね、そうしなー?」
「……」
「あの…」
「……」
「…甘えるの慣れてないよう…。あの、それじゃ、あの、いてくれたら助かる…から、お願いしてもいい、かな」
「よろしい」
い、言わされたーー。
奏はよしよしと髪を撫でると、笑った。
「届かないとこも、俺なら届くよ」
「う、うんっ」
べたべたに甘くて
私を満たす
これで足りないなんて
誰が言える?
これが普通になることは、一生無いな、と思った。
理緒が京都から帰ると、
奏との関係が少しずつ変化。
恋愛って常にそんなものですよね。
次回はその一端を。




