カナデノワルツ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
残念とされる所以の1つは確認済み。
理緒の1個下。
カナデノワルツ
奏でるのはワルツ
一緒に踊ればほら
世間はクリスマスに向けて、色とりどりのライトで夜を飾り始めた。
扁桃の手術と退院から5日程。
これは喉はまだ痛くて、痛み止めは手放せない…そんな冬の話。
奏の仕事帰りに、都会のど真ん中のイルミネーションを案内してくれる約束になっていた。
そもそも、私と奏は夏の終わり…8月末日に出会った。
そこからおきちゃんちでルームシェアしている内に、簡単に落っこちてしまったわけなんだけど。
時間に換算すれば、実にたった4日。
その4日は密度が高く、そう、半年や1年を共にするような…そんな質の高い時間であった。
その時間から、約3ヶ月。
私と奏は着々とお互いを知り、共に歩み寄っていた。
私の好きなカフェは緑と白のマークのあのお店。
奏のオフィスがある高層ビルの1階にも店舗があり、そこで奏を待つことにする。
値段は安くはないが、甘くて濃い味、生クリームの追加、チョコソースの追加などなど、自分好みにカスタマイズ出来るのが素晴らしい。
お気に入りはホワイトチョコのモカ。
特にホットが良い。
…けれど、今の喉はかさぶたが出来始めた状態で、熱いものはダメ、まして固形っぽいと刺すような痛みに襲われるほどで、とてもじゃないが飲めない。
…残念に思うけど、寒い日なのもあって、ぬるいのなら…と欲もあった。
だがしかし。
いざ頼んでみたらやっぱり痛い。
こりゃダメだ…。
痛み止めを飲んで隅っこの小さな席に座り、激痛に目を閉じて耐える。
もうすぐ奏が来るので、痛い顔はしてられない。
心配かけないよう笑顔でいたかった。
<終わったよ>
<お疲れ様ー!どこにいたらいい?>
普段通りを装うが、やはり喉は痛い。
乾燥すると辛いため、マスクも常備している。
…ああ、痛い…。
飲み物は殆ど飲めていない。
私は半分泣きたいような気持ちでふと顔を上げた。
…そこには…。
「……、…!」
かっ、か、奏っっ!?
がばっと立ち上がる。
奏が目の前にいて、こっちを見降ろしていたのだ。
「ゆっくりでいいのに」
「だ、だめだよ!声かけてくれたらいいのに」
声はまだ掠れて、音量はそんなに出せなかった。
どちらかと言えば声は出さず、相槌がわりに頷く方が楽なのだが、折角奏がいるのにそれじゃ味気ない!
慌ててバッグを手に取る。
ど、どうしてここにいるのばれたんだろう?
「喉痛いの?」
「あっ、ちょっとだけ!」
「とりあえず移動しようか。珈琲持てる?」
「ちょっと待ってね」
店員さんに飲めなくて申し訳ないと謝り、カップを手渡す。
奏のところに戻ると、飲んでもいいのに、と微笑んでくれた。
…実は激痛で飲めないのです、とは言えない。
「行こうか」
気を取り直したように辺りを見回すと、奏は踵を返す。
私はその後をついて歩いた。
「っわあー!すごいよ、綺麗ー!」
そこはセレブの街。
あちこちにイルミネーションが煌めいて、心なしか歩く人達も浮かれているようだった。
もちろん私だって例外ではなく、喉が痛いのも忘れそうなほど。
ケヤキにかけられた電球達がまるでダイヤモンドみたいで、それが集まって並べば白銀の雪の世界のよう。
並んで歩きながら、ふとスーツにコートの奏は触れると暖かいことに気付く。
ぎゅっと腕を組んで堪能していると、奏はふと身体を引いて、エスカレーターに乗った。
…余談なんだけど、奏はエスカレーターで必ず下に乗る。
こんなとこもジェントルさんで、私はその時は奏の方を向いてしばし同じくらいの高さになる目線を楽しんでいた。
…で。
あまり人はいなくて、上にも何かあるのかな?と思った時。
ちゅ。
「!?」
突然だったので反応は遅れたが、奏のフレンチバニラの香り。
しかも、それっ…マスクの上からで!
かーっと血が登る。
「マスク越しもなかなか悪くない」
「う、ううーー」
恥ずかしい。
何だこれと思った。
「響の香り…」
「足りない?」
「…たっ…足りな…」
いわけない、と言おうとしたら、先にマスクを降ろされ、キス。
引っ掛けた指でマスクを直されて、それがまた恥ずかしくて硬直。
「…外でいちゃいちゃしちゃいけません」
いきなりそう言う奏に、目を見開く。
「そ、それっ…自分で言う…??」
思わず笑うと、奏も笑った。
そんな風に……恥ずかしいやらなんやらでそわそわしながら、イルミネーションを周る夜の散歩は続く。
すごくすごく綺麗だ。
「……」
見とれながら、段々と痛みが増す喉に口数が減る。
話すだけで切り刻まれてるみたい。
こんなに綺麗なのに…。
「疲れた?大丈夫?理緒」
「!…あ、ううん、元気なの……ん、…ただ、ちょっと、喉が…」
「やっぱりか。お腹は?固形物は食べれるの?」
「うどん…とか、お粥…なら」
「あ、お茶漬け屋さんある」
「わ、それなら」
気遣ってくれる奏に、小さくごめんねと言ったら、聞こえたのか、奏の手が髪を撫でていった。
「………」
ヤバイ、というのが正直なところ。
痛い、飲み込めない。
お米を出来るだけ咀嚼し、ほんの少しを大量の水と共に流し込む。
そうしていても、喉に触れた瞬間の激痛は耐え難い。
美味しいのに…!!
「…理緒、無理しない。ちょうだい、俺が食べるから」
「……ご、め」
涙が出そう。
音量も出せなくなって、奏の話に微笑んだり頷いたり。
奏はそんな私を気遣ってくれた。
<ありがとう>
別れ際、殆ど声は出なくなっていた。
奏からしたら、不安だったかもしれない。
今日は退院してすぐのため、実家に戻るのである。
エスカレーターでちょんとコートを引けば、奏は唇を寄せてくれた。
<…綺麗だった、幸せよ>
「理緒も綺麗だよ」
<うう、きれいくなーいー!ばかー!>
むうっとふてながら照れていると、お決まりのようによしよしと撫でられた。
「元気なったら」
<うん>
「まずはいい焼肉屋にお連れしましょう、姫」
<焼肉と姫って、あははっ何それ変な組み合わせ!>
「楽しみにしてな、きっと美味しいよ」
<…はい>
手を繋いで、笑って見せる。
奏は優しく微笑むと、踊るように腕を振り、最後は頬をひと撫でした。
奏でるのはワルツ
一緒に踊ればほら
世界が微笑む。
まだまだマンネリ化はしないようです。
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