ドクソウノコトワリ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
残念とされる所以の1つは確認済み。
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
ドクソウノコトワリ
独りで奏でるのは、
強くあるための理由。
グゥ、ググ…
「っは…ふあ…」
苦しくて苦しくて目が覚めた。
吸っても吸っても空気が満たされない肺は、酸素を求めている。
簡単に言えば、ストローで飲み物を飲みたいのに、その真ん中辺りを常に指で挟まれているような。
しかも今の音…。
喉の上の方を両手で押さえる。
熱は下がったけど、扁桃は腫れたまま。
それが苦しさの原因なのは察していたけど…。
今のは、自分のいびきであると気付いていた。
「…ねえ、私、いびきかいてない?」
いつものようにルームシェア。
家の契約などをしに関東に戻っていた私は、奏とおきちゃんに聞いた。
すると奏はうー、と唸り、おきちゃんが言った。
「あれ、お前だったの?奏かと思ってた」
「や、やっぱり!?…あのさ、前からだった??」
「いや?…ここ最近じゃないか?」
「でしょ!?あぁ…どうしよう」
奏を見たら、ちょっと困ったような顔して首を竦めた。
「奏、いびきかいてたら私のこと起こすとか転がすとかっ…言ってくれる?多分これ、扁桃腫れてるからだから」
「そーいやお前、昔からそういう時あったな、すげー熱が出るんだろ?」
「うん…でも今回ちょっと変なの、ずっと息が苦しくて…吸えてないんだよ…」
「…かわいそう」
奏がよしよしと髪を撫でる。
…あう…。
照れていると、奏は優しく微笑んだ。
「…うん、確かにこれは…扁桃が大きいですね。あとはいびきがあるんですか?」
大きめの病院で見てもらうと、先生はふむーと唸って、聞いてきた。
「取ります?」
「!…はいっ」
即答である。
調度仕事も終わる。
扁桃が腫れて熱が頻繁に出る私には、願ったり叶ったりであった。
<手術しようと思う>
<そうなの?>
<うん、苦しくて>
<そっか。手術でデメリットはあるの?声が変わるとか>
<滅多に無いみたい。でも…もし変わっちゃったらやだなあ>
<…中身が理緒なら、俺は嫌いになんてならないよ>
<あ、うー、ありがと、奏…!>
<よしよし>
とんとんと話が進み、あっという間に手術が決まって、実家も近いため関東で1週間、入院することになった。
まだ京都の部屋は残っている。
荷物整理は少し延びてしまうが、背に腹は変えられない。
実際、眠れなくて日に日に疲れていく。
もうだんだん体力が落ちてきたのかなぁ…。
いやいや、まだまだだしっ。
そんな風に思って、気を取り直した。
……
入院前日、しばらく固形物が食べられないため、食べ納めだと奏がご飯に連れて行ってくれた。
「苦しいの治るといいね」
「うんー…正直眠れてないし、困っちゃうー」
「よしよし…好きなもの食べよう。何がいい?」
優しいなって思って、思わず顔がほころぶ。
「なんでそんな優しいの?」
「普通です」
「普通じゃないですー」
「普通です」
「えー、そんな人いなかったよー」
「それは理緒の男運が無いだけ」
「うぐ…」
「ここどう?」
「あ、美味しそう」
「美味しいよ。俺は同期と…沖とも結構来る」
そこは焼肉屋さんで、奏のお墨付き。
じゃあ、と決めて中に入ると、落ち着いた空間で、居心地が良さそうだった。
「いいね」
「でしょ」
席に通されると、奏は私に聞きながら、お勧めなどを一通り頼んでくれた。
「理緒が帰ってきたら」
「うん」
「たくさん美味しいもの食べさせてあげる。理緒を連れて行ってあげたいとこ、めっちゃあるからね?」
奏が楽しそうにお店を羅列する。
ラーメン屋さん、お好み焼き屋さん、イタリアン、和食、海鮮、中華。
「パンケーキもあるよ」
「えっ、私パンケーキ大好き」
パンケーキ、クリームブリュレ、アイスクリーム、ザッハトルテ。
帰ってきたら、きっと楽しいことばかりだ!
私は頑張ろうと決意を新たにした。
そして、思っていたことをこぼす。
「ねえ奏」
「うん?」
「幸せすぎて溶けそう」
素直に笑えば、奏もにこりと笑う。
愛おしいこの気持ちは、いつもいつも変わらない。
「退院まで1週間だっけ」
「そだね、でもご飯食べられるまで治るのはきっともうしばらくかかるー」
「だろうね。…お見舞い行く」
「!…あ、ありがとうっ」
喉が良くなって、いびきも治ったら…
また一緒に寝ようねー?
言いたかったけど、お肉が運ばれてきたので辞めにする。
「…じゃ、無事を祈って〜」
「うん!かんぱーい!」
お肉は柔らかくて、すごく美味しかった。
こうやって、奏が見てきたものを、聞いていたことを、一緒に感じられること。
これは、私が今まで感じたこととは違って…何故だろう。
とても尊いものに思えた。
……
<それじゃあ!手術いってくるよ!>
<うん、また後でね理緒>
スマホをしまって、手術室までは歩いていく。
2〜3質問があって、いよいよ台に横になる。
「ちょっとひやっとした液体が入りますけど、その頃には寝ちゃいますからね!」
看護師さんがそう言うと、腕に通した針から言葉通りの冷たいものが入ってくる。
これは麻酔だそうだ。
その液体が腕を通り広がっていくのを感じ…気が付けば……。
「…はーい、終わりましたよー」
先生の声で目が覚めた。
…まだ眠い。
「ちょっと癒着があったりして、これは苦しかったと思いますよー」
……そうかぁ。
「あとは…麻酔が効きにくかったですね」
……何その眠り耐性みたいなの。
「それじゃあ部屋戻りますね」
いろいろ考えてはいたが、眠い。
私が部屋に戻ってやったことと言えば、まずは奏に報告…。
<終わったよ、喉はちょっと痛い、そんで眠い>
そして…全身の怠さ、喉の痛みに意識を失うことだった。
……目を覚まし、巡回の看護師さんと話そうとしたら声が掠れて出なかった。
まだ手術したばかりだからだろう。
時計を見れば14時。
手術は朝1番だったので、3時間は寝たようだ。
スマホを出してみたら、奏から。
<よかった。今日はゆっくり休むんだよ>
<ありがと>
身体は気怠いままで、熱があるようだ。
あとは喉の痛みが増している。
これは麻酔が切れたからかな…。
こうして3日がすぎ、世間では休日がやってきた。
奏が来てくれる日だ。
シャワーが解禁された私はいそいそと身だしなみを整えて待っていた。
3日ぶりのお風呂とあって、気分はすこぶる良かったし、踊りたい気分である。
<お見舞い何がいい?>
<ガーナ!食べれるかわからないけど!>
<了解である>
奏からのLINEにうきうきする。
少しは固形物も食べれるようになった…とはいえ、白湯が重湯になった程度だった。
声の方は掠れたままで、先生いわく、少し声帯を傷めたかもしれないとのこと。
治るものというので特に気にしていない。
日に3度の痛み止めが無ければ激痛で呻く程だけど、この痛み止めが優秀で、これがあればとりあえず通常運転が可能だった。
「理緒」
「!っ…!」
奏、と呼ぶ。
奏は少し眉をよせ、カーテンを引くと私の隣に座った。
ちなみに、大部屋のためカーテンで仕切られているだけなのである。
「よしよし…」
囁いて、奏の手が髪を撫でる。
その感触は優しくて、大好き、と心の中で呟いた。
<まだあんまり声出ないけど、治るものだってー。だから、平気>
囁きにすらならない音量だったけど、奏はうんうんと頷いてくれる。
「……」
奏の手が伸ばされる。
おずおずそばに寄れば、ぎゅうっとされて。
奏の香りでいっぱいだ。
「理緒…」
呼ばれ、視線を上げる。
奏の瞳がとても綺麗で…微笑まれたらもうだめ…。
そっと…触れるだけのキスが落とされて。
きゅんとして、もっと欲しくなった。
「理緒のその表情好き」
<え?>
「その、もっと欲しそうな、スイッチ入ったカオ」
<っ…!>
バレてる!!
思わず身を引こうとするけれど、やはり先読みされている。
奏は私の髪に指を絡ませ、そのまま唇を重ねた。
「は……。帰ってきたら、もっとあげるよ、理緒」
吐息と共に奏が離れる。
<あぅぅ>
もう恥ずかしくて悶えるレベルである。
顔を覆う私に、奏の楽しそうな笑い声が聞こえた。
その後、ガーナが差し出されて大喜びする私に、奏が色々話してくれた。
会社のこと、後輩のこと、同期のこと。
あまり聞いたことのない話で、嬉しくて一生懸命頷いた。
仕事上のクール奏の言動や振る舞いが、私にはとても不思議で。
「そんでね、俺、そことそことそこは矛盾してますよねって指摘しちゃったの」
<うんうんっ>
「当然上にはお前はかわいくないって言われたね」
<あははっ>
淡々と話しながらも、奏の表情は明るくて、何だかんだ言いながらも仕事好きなんだなって思った。
そして。
「…理緒」
<うん?>
「俺ね、仕事嫌いだけど…仕事はやらなきゃじゃん?」
<うん>
「…仕事で忙しくなる時もある。特に来年はヤバイ。本当に残業ばっかりで、休日出勤ばっかりになる…」
<うん>
「そんな時ね、仕事とどっちが大事って…聞かないでね」
びっくりして奏を見上げた。
<私が?奏に??>
「うん…言われたらさ、どうしていいかわかんないしさ。それと…俺いっつも眠そうだけど、つまらないとかじゃなくてさ?…ちょっと緩んでるっていうか…いや、眠いのはいつもなんだけど」
ははあ。
納得がいって、苦笑する。
<…元カノさんに言われたんだね>
「……うん…あの、比べてるとかじゃないんだよ?…たださ、不毛じゃん」
<……私、奏にそんなこと言わないよ。奏を応援してる。けど…そうだなぁ…忙しい時に私をかまわなくてもいいけど、当たり前みたいに思わないでね…。蔑ろにされるのは好きじゃない>
「うん…それはわかってる」
<なら好きにするといいのよ。私、奏の味方なの>
「うん。……いいこ」
<普通です>
「いいこです」
<普通ですー>
ぷんとそっぽを向くと、堪えてたように奏が吹き出した。
「かわいいなぁもう」
<な、何故っ>
奏は夕方、夕飯が出てくるまで一緒にいてくれて、その時間はとてもとても幸せだった。
私は…奏が忙しくなって会えなくなることも増えるだろうその時、不安になるだろうか。
…奏は…私を蔑ろにしないだろう。
独りで奏でるのは、
強くあるための理由。
私は大丈夫。
貴方となら、きっと。
恋愛にはいろいろなことがつきまといますよね。
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小躍りして喜んでいます。




