4
シャン、シャン、シャン。一定のリズムで鈴の音が聞こえる。決して大きくはないけれど、その音が響くたびに、窓を叩く音は少しずつ弱まっていった。
やがて、窓を叩く音は完全に消え、鈴の音だけが夜に響く。その鈴の音も、次第に遠ざかるように小さくなり、やがて聞こえなくなった。
いったい何が起こったのか。まったく分かっていない私とは違い、叔父さんや冬子さん、秀くんは何が起きたのか察しているらしく、ほっとした表情を浮かべていた。
「あいつら、消えたの?」
「あぁ、たぶんな」
「天野宮様が追い払ってくれたんだ」
天野宮様って……陽仁?
まさか、陽仁があいつらを追い払ってくれたのだろうか。
トントン。
再び窓が叩かれ、居間に緊張が走った。
しかし、次いで聞こえてきた人の声に全員が安堵の息を吐いた。
「天野宮である。上妻、無事か」
叔父さんは躊躇いなくカーテンを開け、外にいる陽仁を見ると窓も開けて平伏した。
「陽仁様、上妻家はみな無事でございます。ありがとうございました」
いつの間にか冬子さんと秀くんも叔父さんの後ろにいて、3人そろって頭を下げた。
置いてけぼりの私は、立ったままぽかーん、だ。
なんでそんなに平伏してるの? 天野宮様が助けてくれたから?
陽仁のその格好はなに? コスプレ?
陽仁は和装していて、平安貴族みたいな姿だった。でも、教科書で見たようなたっぷりと布を使った感じではなくて、平安時代の服を現代的・実用的にアレンジした感じ。後で聞いた話によると、狩衣というものを動きやすくアレンジした、天野宮家独自のものらしい。
紫色の袴に白い上衣、金色の飾り紐がついていて、全体に家紋のような模様が施されていた。
そして何より目を引くのは、腰に差した刀だ。太刀と脇差を携えている。
外にいたのは陽仁だけじゃなかった。
後ろに控えるように、男の子が2人。陽仁と同じくらいの年齢で、同じような服を着ていた。ただ、こちらは陽仁よりもシンプルで、模様はなく無地、飾り紐もついておらず、袴の色は水色だった。
陽仁は叔父さんたちに一声かけてから、こちらを見た。
「ひなみ」
「陽仁……不思議なことって、これのことだったの?」
「あぁ。だが予想よりも多かった。来るのが遅れてすまない」
「ううん、陽仁が追い払ってくれたんでしょう? ありがとう」
「礼にはおよばない。無事で良かった」
陽仁はふわりと優しく笑って、私の頭にぽんと手を乗せた。
あまりにも綺麗な笑顔に、心臓がドキリと大きく跳ねた。
「明日、説明するから、家に来い」
「明日? 明日はでも秀くんと、」
「ひなみちゃん! 明日じゃなくて明後日にしよう! 俺はいつでもいいからさ!」
「え、」
「ではひなみ、明日10時に迎えに来る。今日はもう休め」
陽仁は勝手に約束をとりつけると、2人の男の子と一緒に帰っていった。
叔父さんたちは陽仁が見えなくなるまで頭を下げ続け、ようやく頭を上げたと思ったら、はぁぁぁあっと長いため息をついた。
「陽仁様が来てくださって本当によかった……」
「そうねぇ、陽仁様相変わらずかっこいいわ〜」
「ひなみちゃん、俺と出掛けるのは明後日ね」
「あっ、そうだよ秀くん! なんで勝手に! 秀くんとランチの予定だったのに!」
明日は秀くんと商店街に行って、絶品だという定食屋さんでランチする予定だったのだ。その後は今日行けなかった駄菓子屋さんにも行こうと思っていた。
「陽仁様が明日と言ったら明日なんだよ」
「そうだな。ひなみちゃん、本当は叔父さんか秀がついて行ってあげたいところだが、呼ばれたのはひなみちゃんだけだ。くれぐれも、失礼のないようにな」
私の予定を勝手に変えられて、納得はできなかったけど頷いておく。
さっき起きたことも、陽仁が追い払ったということも気になるし。
それから私たちは居間に布団を敷いて4人一緒に寝た。
もう大丈夫だろうとは分かっていたけれど、自分の部屋で1人で寝たくなかったし、3人も同様だったようで、身を寄せ合って眠りについた。
しかし、さっきの目が脳裏に焼き付いていて、もし寝てしまったら怖い夢を見てしまうんじゃないかと思うと、なかなか寝付けない。
目を閉じていると陽仁の顔が思い浮かぶ。コスプレのような格好をした陽仁。堅苦しい話し方と凛々しい雰囲気をした彼によく似合っていた。
腰に差していた刀を使ってあいつらを追い払ったのだろうか。刀を構えた姿を想像する。
間違いなくかっこいい。
ふと、頭に乗せられた手の温もりと、綺麗な笑顔を思い出す。目尻を下げて、柔らかく笑った陽仁。
そしたらなんだか心が落ち着かなくて、そわそわしてしまって、寝返りをうつ。
「……」
目の前に大きな口を開けてイビキをかく叔父さんが見えて、陽仁の顔は打ち消された。
明日も会えるし、ね。
布団を頭まで被って再び目を閉じる。すーっと眠気が襲ってきて、身を任せた。
怖い夢は見なかった。




