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 シャン、シャン、シャン。一定のリズムで鈴の音が聞こえる。決して大きくはないけれど、その音が響くたびに、窓を叩く音は少しずつ弱まっていった。


 やがて、窓を叩く音は完全に消え、鈴の音だけが夜に響く。その鈴の音も、次第に遠ざかるように小さくなり、やがて聞こえなくなった。


 いったい何が起こったのか。まったく分かっていない私とは違い、叔父さんや冬子さん、秀くんは何が起きたのか察しているらしく、ほっとした表情を浮かべていた。


「あいつら、消えたの?」

「あぁ、たぶんな」

「天野宮様が追い払ってくれたんだ」


 天野宮様って……陽仁?


 まさか、陽仁があいつらを追い払ってくれたのだろうか。



 トントン。


 再び窓が叩かれ、居間に緊張が走った。


 しかし、次いで聞こえてきた人の声に全員が安堵の息を吐いた。


「天野宮である。上妻、無事か」



 叔父さんは躊躇いなくカーテンを開け、外にいる陽仁を見ると窓も開けて平伏した。


「陽仁様、上妻家はみな無事でございます。ありがとうございました」


 いつの間にか冬子さんと秀くんも叔父さんの後ろにいて、3人そろって頭を下げた。



 置いてけぼりの私は、立ったままぽかーん、だ。


 なんでそんなに平伏してるの? 天野宮様が助けてくれたから?

 陽仁のその格好はなに? コスプレ?


 陽仁は和装していて、平安貴族みたいな姿だった。でも、教科書で見たようなたっぷりと布を使った感じではなくて、平安時代の服を現代的・実用的にアレンジした感じ。後で聞いた話によると、狩衣というものを動きやすくアレンジした、天野宮家独自のものらしい。


 紫色の袴に白い上衣、金色の飾り紐がついていて、全体に家紋のような模様が施されていた。

 そして何より目を引くのは、腰に差した刀だ。太刀と脇差を携えている。


 外にいたのは陽仁だけじゃなかった。


 後ろに控えるように、男の子が2人。陽仁と同じくらいの年齢で、同じような服を着ていた。ただ、こちらは陽仁よりもシンプルで、模様はなく無地、飾り紐もついておらず、袴の色は水色だった。


 陽仁は叔父さんたちに一声かけてから、こちらを見た。


「ひなみ」

「陽仁……不思議なことって、これのことだったの?」

「あぁ。だが予想よりも多かった。来るのが遅れてすまない」

「ううん、陽仁が追い払ってくれたんでしょう? ありがとう」

「礼にはおよばない。無事で良かった」


 陽仁はふわりと優しく笑って、私の頭にぽんと手を乗せた。


 あまりにも綺麗な笑顔に、心臓がドキリと大きく跳ねた。


「明日、説明するから、家に来い」

「明日? 明日はでも秀くんと、」

「ひなみちゃん! 明日じゃなくて明後日にしよう! 俺はいつでもいいからさ!」

「え、」

「ではひなみ、明日10時に迎えに来る。今日はもう休め」


 陽仁は勝手に約束をとりつけると、2人の男の子と一緒に帰っていった。


 叔父さんたちは陽仁が見えなくなるまで頭を下げ続け、ようやく頭を上げたと思ったら、はぁぁぁあっと長いため息をついた。


「陽仁様が来てくださって本当によかった……」

「そうねぇ、陽仁様相変わらずかっこいいわ〜」

「ひなみちゃん、俺と出掛けるのは明後日ね」

「あっ、そうだよ秀くん! なんで勝手に! 秀くんとランチの予定だったのに!」


 明日は秀くんと商店街に行って、絶品だという定食屋さんでランチする予定だったのだ。その後は今日行けなかった駄菓子屋さんにも行こうと思っていた。


「陽仁様が明日と言ったら明日なんだよ」

「そうだな。ひなみちゃん、本当は叔父さんか秀がついて行ってあげたいところだが、呼ばれたのはひなみちゃんだけだ。くれぐれも、失礼のないようにな」



 私の予定を勝手に変えられて、納得はできなかったけど頷いておく。


 さっき起きたことも、陽仁が追い払ったということも気になるし。



 それから私たちは居間に布団を敷いて4人一緒に寝た。


 もう大丈夫だろうとは分かっていたけれど、自分の部屋で1人で寝たくなかったし、3人も同様だったようで、身を寄せ合って眠りについた。



 しかし、さっきの目が脳裏に焼き付いていて、もし寝てしまったら怖い夢を見てしまうんじゃないかと思うと、なかなか寝付けない。


 目を閉じていると陽仁の顔が思い浮かぶ。コスプレのような格好をした陽仁。堅苦しい話し方と凛々しい雰囲気をした彼によく似合っていた。


 腰に差していた刀を使ってあいつらを追い払ったのだろうか。刀を構えた姿を想像する。


 間違いなくかっこいい。



 ふと、頭に乗せられた手の温もりと、綺麗な笑顔を思い出す。目尻を下げて、柔らかく笑った陽仁。


 そしたらなんだか心が落ち着かなくて、そわそわしてしまって、寝返りをうつ。


「……」



 目の前に大きな口を開けてイビキをかく叔父さんが見えて、陽仁の顔は打ち消された。


 明日も会えるし、ね。


 布団を頭まで被って再び目を閉じる。すーっと眠気が襲ってきて、身を任せた。



 怖い夢は見なかった。

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