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陽仁は約束の時間ぴったりに迎えに来た。
昨日着ていたようなコスプレみたいな服じゃなくて、普通の洋服。白Tにシャツを羽織って、下は黒のパンツにスニーカー。
昨日とは打って変わって、かなりラフな格好だ。
一方、私はというと、既に卒業したというのに中学校の制服を着ていた。
普通の洋服で行こうと思ったら、叔父さんに止められたのだ。天野宮様のお屋敷に伺うのであれば、正装するべきだと。
学生の正装は制服。そして今日は3月30日。
まだ中学生として扱われる時期だからと、もう袖を通すことはないと思っていたセーラー服を着ることになったのだ。
「おはよう、ひなみ」
「おはよう、陽仁! お迎えありがとうございます」
「あぁ。よく眠れたか?」
「うん、ちゃんと眠れたよ。今日は、昨日のこと説明してくれるんだよね?」
「もちろんだ。これから俺の家に向かう。
ーーーーところで、それは中学の制服か?」
「うん、外森第一中の。叔父さんが、学生の正装は制服だからって」
外森第一中学校の制服は、一般的なセーラー服だ。紺色の襟に白いライン、赤いスカーフ。
シンプルだけど定番の可愛さがあって、気に入っていた。
陽仁は私の制服を眺め、目を細めた。
「可愛らしいな」
「……えっ!? あ、制服ね! 可愛いでしょ? けっこう人気あったんだよー」
「そうなのか。では、そろそろ行こう。ひなみ、こちらへ」
「あ、うん」
陽仁が後部座席のドアを開けてくれて、私は「よろしくお願いします」と言いながら、運転席の後ろに乗り込んだ。
陽仁が助手席の後ろへ乗ると、車はゆっくりと走り出す。
……びっっっくりした!!
可愛らしいとか、いきなり言わないでほしい!
まだドキドキする心臓を押さえながら、深呼吸した。
陽仁はきっと制服のことを言ったんだ。そう、勘違いしちゃいけない。
そう自分に言い聞かせて、何度も深呼吸して、胸の高鳴りを押さえ込む。
ちらりと隣に座る陽仁を見ると、ばっちり目が合った。
陽仁は「なんだ?」とでも言うように首を傾げた。その表情はいたって普通で、こんなにドキドキしている私が馬鹿みたいだった。
ほら、陽仁は特に何も考えずに感想を言っただけ。勘違いしちゃだめ。
めちゃくちゃかっこいい男の子に可愛いなんて言われたら、たとえ服のことだとしてもドキドキするのは当たり前!
そう! 別に陽仁にドキドキしたわけじゃない!
胸を押さえながら深呼吸を続けていると、陽仁は私の顔を覗き込んで、心配そうな顔をした。
「どうした? 苦しいのか?」
「全然! 大丈夫! そ、それより、運転してるのは陽仁のお父さん?」
運転しているのは40代くらいの男性だった。陽仁に似ているとは言えないが、年齢的には父親であってもおかしくない。
バックミラー越しに目が合うと、男性は微笑んで会釈した。
「母の側役の山園だ。俺の側役はまだ免許を持っていないからな」
「? そうなんだ」
よく分からないけど、運転手さんは山園さんね。
「上妻ひなみです。よろしくお願いします」
「はい、ひなみ様。山園武雄と申します」
「ひ、ひなみ様!?」
当たり前のように「様」をつけて呼ばれて、しかも明らかに年上の人から丁寧な敬語で話しかけられて、私は驚いた。
「えぇ、ひなみ様は若様の大事なお客様ですので」
側役って、部下ってこと? 上司の子である陽仁のお客様だから?
陽仁は山園さんと何度か言葉を交わしていたけど、普通にタメ口だった。むしろ、ちょっと偉そうというか、命令口調というか。
それは陽仁が天野宮だから?
そもそも、天野宮様って何者?
昨日、あいつらを追い払った陽仁。
陽仁に対して平伏していた叔父さんたち。
叔父さんたちは、陽仁があいつらを追い払ったことを当たり前のように受け入れていた。
陽仁のコスプレみたいな格好にも驚いていなかったし、助けを求めようとした時も、真っ先に天野宮の名前を出していた。
天野宮家は、神森村でいったいどんな存在なのだろう。
「若様、ひなみ様、到着いたしました」
「あぁ。行こう、ひなみ」
「うん」
昨日のあいつらのこと、陽仁のこと、天野宮家のこと。
分からないことだらけだけど、陽仁はちゃんと説明すると言ってくれた。
今日聞くことは、きっとこれから神森村で生活していく上で大切なこと。
私は気持ちを引き締め、聞いたことをひとつも聞き逃さないようにしようと心に決めた。




