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夜が明ける頃には、森の中にも柔らかな朝日が差し込み始めていた。エリーゼは大きく伸びをすると、魔導収納バッグを開き、中からパンとソーセージ、それから林檎を一個取り出した。
「朝ご飯にしましょうか」
声をかけると、ダイアウルフは嬉しそうに尻尾を揺らす。昨夜の焚き火に枯れ枝をくべると、赤く残っていた熾火がぱちぱちと音を立てて燃え上がる。細い枝を折り、ソーセージを刺して火にかざした。じゅうっと脂が弾け、香ばしい匂いが辺りへ広がる。その匂いに、ダイアウルフが期待したように尻尾を揺らす。
「ちょっと待ってね。ちゃんと炙ったほうがおいしいのよ」
昨夜と同じように周辺の木から大きめの葉を一枚取って、その上に温めたパンとソーセージを載せて差し出すと、ダイアウルフは一度エリーゼを見上げてから、おいしそうに食べ始めた。ミルクもまだたっぷりあって、二人で喉を潤した。
林檎も半分に割って分け合う。ダイアウルフは目を輝かせ、林檎を味わうように少しずつ食べていく。食べ終えたダイアウルフは、じっとエリーゼのお皿の林檎を見つめていた。
「……林檎が気に入ったの? そんなに凜々しい風貌なのに、食の好みがとても可愛いのね」
エリーゼは笑いながら、魔導収納バッグからもう一つ林檎を取り出す。ダイアウルフへ差し出すと、彼の尻尾がぶんぶんと揺れた。
「ふふっ。わたくしも林檎が好物なのよ。あなたのように皮付きでかじるのを真似してみようかしら? あら、おいしい! こうして豪快に丸かじりをするのは、初めてよ」
魔の森とは思えないほど鳥のさえずりは美しく、木々の間を吹き抜ける風も心地良い。食事を終えると、使った食器を水魔法で軽く洗い流す。最後に風魔法で水滴を払い魔導収納バッグへ戻した。
これまでのエリーゼは、筆頭公爵家の令嬢として、王太子の婚約者として、そして聖女として、与えられた役目をおとなしく受け入れ、言われるがままにこなしてきた。今にして思えば、まるで誰かに操られる人形のような人生だった。
けれど、これからは違う。
誰かに決められた道ではなく、自分で選んだ道を歩きたい。
自分が正しいと信じたことを、自分の意思でやり遂げたい。
たとえ残された時間がわずかだとしても、もう二度と、自分の人生を誰かに委ねたくはなかった。
荷物をまとめて歩き始めると、ダイアウルフも当然のように後ろをついてきた。
「まあ……一緒にいてくれるの? ありがとう。とても心強いわ」
話しかけると、小さく尻尾を振った。その姿に思わず笑みを浮かべながら、エリーゼは再び森の奥へと足を進めた。
いつの間にか、ダイアウルフはエリーゼの少し前を歩き、ときおり立ち止まっては、辺りの匂いを確かめている。
危険を感じるたびに耳をぴくりと動かし、周囲を見渡してから再び歩き出す。その姿はまるで森の案内人で、エリーゼを守っているようだった。
木漏れ日が揺れる森の中を、ゆっくりと進んでいく。昨日は魔獣に襲われるのではないかと怯えてばかりだった。
けれど今は違う。頼もしい相棒がいる。その安心感だけで、エリーゼの足取りはずいぶん軽くなっていた。
やがて太陽が高く昇り、空腹を覚え始めた頃だった。急にダイアウルフが足を止める。耳を立て、鼻をひくひくと動かしたかと思うと、森の奥へ勢いよく駆け出していった。
「えっ、どうしたの? 待って、戻ってきて」




