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さらに寝袋と、魔獣討伐騎士団が野営で使用する丈夫な金属製の食器一式も購入し、バッグへ収めた。
こうして必要な物をすべて揃えたエリーゼは、人目を避けるように王都を離れ、静かに魔の森へと足を踏み入れた。
魔の森と聞けば、枯れ木ばかりが立ち並ぶ不毛の地を想像する者も多い。だが実際は違う。
陽光を受けた木々は青々と茂り、色鮮やかな花が咲き、小鳥のさえずりまで聞こえてくる。初めて訪れた者なら、ごく普通の森だと思うだろう。だが、その奥には人を容易く殺せる魔獣たちが息づいている。
だが、エリーゼがこの森を訪れるのは今日が初めてではない。聖女となってからは、騎士団の魔獣討伐に何度も同行したことがある。
魔獣が増えすぎれば餌を求めて人里へ下り、農作物や家畜に甚大な被害をもたらすため、ポワブール王国では定期的に討伐隊を編成し、その数を調整していたのだ。
あの頃は、常に騎士たちが前後を固めてくれていた。魔獣の気配がすればすぐに剣が抜かれ、エリーゼへ近づく前に討ち払われる。森を歩くことに恐怖を覚えたことは、一度もなかった。
けれど今日は違う。護衛は誰一人いないので、自分の身は自分で守るしかないのだ。小さく息を吐き、周囲へ視線を巡らせながら歩を進める。枝葉を揺らす風の音に足を止め、茂みがかすかに揺れれば思わず身構える。
木の上では鳥がさえずり、小さな獣が落ち葉を踏みしめて駆けていく。そのたびに肩の力が入り、何でもないとわかると胸を撫で下ろした。
気づけば陽は少しずつ西へ傾き始めていた。今から王都へ引き返すつもりはない。ならば、日が落ちる前に野営できそうな場所を見つけなければ。そう考えながら歩いていると、背後の茂みが大きく揺れた。
ガサッ
ガサガサ
反射的に振り返ったエリーゼは、息を呑んだ。
純白の毛並みに銀色の瞳を持つ一匹の狼。
大型犬ほどの体がゆっくりと身を低くし、獲物を狙うように彼女を見据えていた。
次の瞬間、その姿が膨れ上がった。骨が軋むような音とともに筋肉が盛り上がり体長は三倍近くまで巨大化する。低く唸る声だけで体が震えた。
ダイアウルフは群れで行動することもある大型の狼型魔獣だ。
(逃げられない)
そう悟った瞬間、巨体が一直線に飛びかかってきた。
「っ……!」
エリーゼは反射的に両手を突き出す。魔力なんて残っていないのはわかっている。それでも長年染み付いた癖は、勝手に浄化魔法を紡いでいた。彼女は聖女として負傷者の治療を担う一方で、凶暴な大型魔獣には浄化の魔法を放ち、騎士達が魔獣を討ちやすくしていたのだ。
「浄化――ピュリファイ……!」
なんと、手のひらから放たれた白い光がまっすぐにダイアウルフへ向かった。
(えっ? なぜ使えるの? 昨日までは、すっかり魔力がなくなっていたのに?)
ダイアウルフの動きが鈍り、着地を誤って地面へ転がった。やがて立ち上がったダイアウルフは、先ほどより興奮状態が収まり攻撃性が薄れたように見えたが、その鋭い牙はなおエリーゼへ向けられていた。
魔力を失う前なら、もっと長く浄化を続けられた。浄化の魔法をかけ続ければ、魔獣を消滅させることさえできたのに。
「そんな……!」
ダイアウルフは低い唸り声を響かせながら、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。さらに浄化魔法を試みるも、エリーゼの手からはなんの光も生み出せなかった。
エリーゼは震える手で魔導収納バッグからナイフを取り握り締めたのだった。




