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まずはこの国を出る。だが、正規の街道から国境を越えることはできない。エリーゼが姿を消せば、フランシスたちは必ず捜索を始めるだろう。当然、国境の警備も一層厳しくなるに違いない。
となれば、魔獣が生息する魔の森を抜け、トリストン王国へ向かうしかない。もちろん、それがどれほど危険なことかは理解している。魔力をすべて奪われた今のエリーゼが、魔獣に遭遇すれば命はないかもしれない。
それでも、この国に残ってフランシスに利用され続けるくらいなら、無事に森を抜けられるわずかな可能性に賭けたほうが、よほどましだった。
そうと決めたエリーゼがクローゼットの中を見ながら、換金できるような物を探していた時だった。
「失礼します、お嬢様。お目覚めですか? 朝のお支度を整えに参りました」
侍女の声が扉の向こうから響いた。
「ええ。着替えを手伝ってちょうだい。今日は思いっきりお洒落をしたいの」
クローゼットにあるもっとも高価なドレスを手に取り、着替えさせてもらう。ありったけの宝石を身につけて、マルベール公爵邸を出ようとした。
しかし、その姿を見たマルベール公爵夫人から呼び止められる。彼女は、エリーゼが今日もフランシスのもとへ向かうのだと決めつけた。
「そんなに着飾って、まだフランシス殿下のもとへ行くつもりなの? 第二妃にするなどと言われて浮かれているなんて……エリーゼ、あなたにはマルベール公爵家の娘としての誇りがないのですかっ!?」
「王命ですもの。いくら筆頭公爵家の娘といえど、逆らうわけにはまいりません。それにわたくしは、どのような扱いを受けてもフランシス殿下をお慕いしております。今日は王宮でディナーをご一緒する予定ですし、遅くなればそのまま泊めていただくかもしれませんわ。ですから、本日中に戻らなくてもご心配なさらないでください」
これまでにも王宮へ泊まることは何度かあった。そのためマルベール公爵夫人はなんら疑うことなく、不満げな表情のままエリーゼを送り出したのだった。
その後エリーゼが向かったのは王宮ではない。まっすぐ城下町へ向かうと、質屋でドレスと宝石をすべてお金に換えた。町娘が着るような服へ着替え、魔導具店で万能ナイフを買う。なんでも切れるというナイフだったが、これで魔獣を倒せるとは思っていない。それでも、丸腰で森へ入るよりは、心強いだろう。
魔導収納バッグもそこで購入し、パンやミルク、ソーセージにハム、それからたくさんの林檎を買い、無造作に放り込んだ。このバッグはかなり高価だが、時間停止機能まで備わった優れ物だ。温かい物は温かいまま、冷たい物は冷たいまま保存でき、食べ物が腐ることもない。その便利さから、今では多くの国に広く普及していた。
魔法を扱えるかどうかは国によって異なり、民の誰もが魔法を使える国もあれば、まったく使えない国もある。
エリーゼが住むポワブール王国では、平民が使えるのは簡単な生活魔法に限られ、貴族になれば属性魔法も扱える。さらに王族ともなれば、強大な魔力を持つ。
しかし、それほど魔法が身近な国でさえ、魔導収納バッグのような高度な魔導具を作れる者はいなかった。
「誰が作ったものか知らないけれど、天才的な魔導具開発者だわ。一度、会ってみたいわ」
エリーゼは魔導収納バッグを眺めながら、一人感心して呟いた。まさかその後、出会うことになるとも知らずに――




