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裏切られた元聖女は、天才王子と魔獣共存計画を始めます!  作者: 青空一夏


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そう言われて、先ほど勢いに任せて口にした言葉が鮮明によみがえった。

『わたくしも、グレンヴィル殿下が好きですもの』

 あのときは夢中だったから言えたのだ。こうして改めて本人から指摘されると、途端に恥ずかしくなってくる。

「……それは、その……」

「今度はちゃんと覚えてるよね?」

「もちろん覚えていますわ」

 思わず言い返してから、エリーゼはますますいたたまれなくなって顔を逸らした。

「じゃあ、改めて。告白するね。俺はエリーゼが大好きだよ」

 グレンヴィルが真っ直ぐ自分を見つめて、好きだと言っている。

 嬉しさが、じわじわと胸いっぱいに満ちていく。

「エリーゼは?」

「……恥ずかしいです。わかっているくせに……何度も告白なんてできません」

「ふっ…可愛い」

 そう言って、グレンヴィルは頬を緩めた。

「もぉ……」

 

 その夜、しっかりと手を繋いで食堂に現れたエリーゼとグレンヴィルを見て、フィリシアとバートンは揃って胸を撫で下ろした。

「ああ、よかった。仲直りしたのね」

「何よりですね」

『グレンヴィルとエリーゼ、仲良しが良いよ。スノウ、ハラハラしちゃった』

「皆、心配かけてごめんなさい」

 エリーゼが答えると、スノウも安心したように尻尾を揺らした。

 その日を境に、エリーゼはグレンヴィルから以前にも増して甘やかされ、大切にされるようになった。

 それからしばらくして、再びレティシアが研究所を訪れた。ちょうどグレンヴィルは必要なものを取りに倉庫へ行っており、研究室にはエリーゼだけが残っていた。

 

「どうしてまだあなたがここにいるのよ!」

 レティシアはエリーゼを睨みつける。

「言ったでしょう? グレン様は私の婚約者なのよ! 早くここから出ていって!」

 だが、今度のエリーゼは動じなかった。軽く片眉を上げただけだ。

 そこへ、慌てた様子のバートンが追いかけてくる。

「レティシア様、勝手に入られては困ります!」

 そう言ってから、申し訳なさそうにエリーゼを見た。

「すみません、エリーゼさん。お止めしたんですが……女性相手に力ずくというわけにもいかず。やはり女性の門番も必要ですね 」

「バートンさん、大丈夫よ」

 エリーゼは落ち着いて答えると、レティシアへ向き直った。

「レティシア様。出ていくのは、あなたのほうですわ」

「なんですって?」

「グレンヴィル殿下からすべて伺いました。あの書類には二枚目があったのでしょう? 条件付きの取り決めだったそうではありませんか。それも、グレンヴィル殿下ご自身は署名すらなさっていないと」

「それは……」

「しかも、条件となっていた魔獣との共存計画はすでに成果を上げています。ゴミ同様の紙切れで、わたくしを騙したのですね?」

 レティシアが言葉に詰まった。

 エリーゼは冷ややかに彼女を見つめる。

「もう、あなたには騙されませんわ。あのような嘘をついて、恥ずかしくありませんの?」

「なっ……!」

 レティシアは一瞬言葉を失ったが、すぐに険しい顔で言い返した。

「嘘じゃないわ! 陛下だって、わたくしとグレンヴィル様の結婚を――」

「レティシア」

 倉庫から戻ってきたグレンヴィルが、静かに研究室の扉を開けた。

 その声に、いつもの柔らかさはない。

「もうやめてくれないか。俺は君と一度だって婚約した覚えはない。それに、エリーゼを騙して傷つけたことも許せない」

「でも、わたくしはずっとあなたを――」

「今後、研究所への出入りは禁止する。もうここには来ないでくれ。幼なじみだからと大目に見すぎたよ」

 グレンヴィルはきっぱりと言い切った。

 レティシアの顔から、さっと血の気が引く。

「わたくしを……閉め出すの?」

「そうだよ」

「私がどれだけあなたを想ってきたと思っているの!?」

「俺が好きなのはエリーゼだよ。君の気持ちを一方的に押しつけられても迷惑だ」

 レティシアの顔が強張った。

「それに、レティシアが好きなのは俺じゃないだろう? 金持ちで顔のいい男が好きなだけだ。たまたま俺が条件に合ってたから、固執してるだけじゃないの? 」

 レティシアの顔が怒りに歪んだ。

「……私を振ったこと、絶対に後悔させてあげるんだから!」

 震える声で吐き捨てると、今度はエリーゼを鋭く睨みつけた。

「あなたもよ! 今に見てなさい!」

 勢いよく踵を返す。

 扉が壊れそうなほどの勢いで閉まり、足音が遠ざかっていった。

 嵐のようなレティシアが去ったあと、研究室には妙な静けさが残った。

「……今に見ていろ、とおっしゃっていましたけれど」

「放っておけばいいよ」

 グレンヴィルは気にした様子もなく答えた。エリーゼも、レティシアが何を企んだところで、もう自分が傷つくことはない、そう思っていた。


 ところが、それからしばらく経ったある日のこと。

 研究所の正門に、再びレティシアを乗せた馬車がやってきた。

 当然、レティシアは門前を守る騎士に止められた。ほどなくして、バートンがエリーゼたちのもとへ知らせに来た。

「また、レティシア様がいらっしゃいました。エリーゼさんに会わせろと、門の前で騒いでいます」

「……エリーゼに? わかった、俺が行くよ」

「あっ、グレンヴィル殿下。わたくしも行きますわ」

 エリーゼたちは門に向かった。スノウも二人の後をついて行く。

「どうして入れないのよ!」

「グレンヴィル殿下から、レティシア様を研究所内へお通ししないよう申しつかっております」

「だったら、エリーゼ様をここへ呼びなさい!」

 エリーゼとグレンヴィルが正門に着くと、新たに門番として配置された女性騎士に行く手を阻まれ、食ってかかるレティシアの姿があった。

「また来たのか? 懲りない人だね」

 グレンヴィルが呆れたように言う。

「もう来るなと言っただろう? こんなことを繰り返すようなら、俺にも考えがあるよ。レティシアがエリーゼにしたことを許したわけじゃないんだぞ」

「今日は私だけじゃないわ」

 レティシアは勝ち誇ったように口元を歪めた。

「エリーゼ様に会わせたい人を連れてきたのよ」

「会わせたい人?」

「ええ」

 レティシアが馬車を振り返った。

 嫌な予感がした。

 やがて、馬車の扉がゆっくりと開き、中から一人の男が降りてきたのだった。


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