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おとなしくグレンヴィルの膝の上でデザートを食べさせてもらう。
それから研究室へ戻り、その日の研究を終える頃には、窓の外はすっかり暗くなっていた。夕食の席でも、グレンヴィルの態度は相変わらずだった。隣にぴったりと座り、料理を取り分け、何かとエリーゼの世話を焼いた。
食べ終わるとグレンヴィルは優しくエリーゼの髪を撫でながら言った。
「今日はもう休んだ方がいいよ」
「そうしますわ。さすがに少し疲れました」
(いろいろな意味でぐったりだわ……)
「部屋まで送るね」
「すぐそこですわよ?」
「送るよ」
「……はい」
もう反論する気にもならなかった。
食堂を出ると、グレンヴィルが手を差し出してくる。
エリーゼも自然に、その手を取った。
指と指が絡み合う。
たった一日でこの温もりに慣れてしまった。
並んで廊下を歩き、自室の前までやってきた。
「おやすみ、エリーゼ」
そう言って、グレンヴィルが顔を寄せてくる。
髪に、柔らかな唇の感触が落ちた。
「……」
朝にもされたし、研究室でもされた。なんなら応接室でも廊下でも。
それでも、これはまだ慣れない。
エリーゼはどう反応していいかわからず、何も言えなかった。
グレンヴィルは蜜のように甘く微笑む。
「じゃあ、また明日ね。いい夢を見てね。スノウもおやすみ、また明日な!」
「……お、おやすみなさいませ」
『うん、グレンヴィル。おやすみー』
自室へ入り、扉を閉める。
途端に、エリーゼは扉へ背中を預けた。
「…………は、恥ずかしいぃ……」
エリーゼは呟いた。
明日もきっと甘やかされる。
そう思うだけで胸のドキドキが止まらない。
それに、昼間の出来事はあまりにも刺激が強すぎた。
今夜は絶対に眠れそうにない。
グレンヴィルとの甘い時間は、ずっと続いた。
廊下を歩けば、いつの間にか手を繋がれる。
研究室では気づけば隣にいる。
食事をすれば、自分の皿から食べさせようとしてくる。
少し疲れた顔を見せただけで休めと言われ、髪を撫でられたり、腰を抱き寄せられたりすることも当たり前になっていた。
今日も、グレンヴィルはエリーゼに呼びかける。
「エリーゼ」
「はい?」
エリーゼは呼ばれてグレンヴィルの顔を見上げる。
「なんでもない。呼んでみただけ」
「……なんですの、それ?」
「だめ?」
キラキラとした笑顔に、エリーゼは何も言えなくなってしまう。
「だめでは……ありませんけれど」
「よかった」
そう言って、手を握られた。
本当なら、こんなふうに手を握られていてはいけないのかもしれない。自分は仕事をするためにここへ来たのだし、グレンヴィルは上司なのだから。
そう思うのに、その手を振りほどくことはできなかった。
むしろ胸の奥には、花がほころぶような喜びがじんわりと広がっていく。
それから数日後、エリーゼが研究室で術式の復習をしていると、扉を叩く音がした。 その日はグレンヴィルとスノウがグレートイーグルに乗って王都へ出かけており、研究室にはエリーゼ一人だけだった。
「レティシア様がいらっしゃっています。エリーゼさんに会いたがっていますけど、どうしますか?」
顔を覗かせたバートンの言葉に、エリーゼは首を傾げた。
「レティシア様が?」
叙爵式でのことを考えれば、会いたい相手ではない。けれど、一度きちんと話をつけておいた方がいいのかもしれない。
「会いますわ」
ほどなくして、レティシアが研究室へ入ってきた。
「エリーゼ様、ごめんなさい」
開口一番、レティシアは悲痛な表情を浮かべた。
「まさか……ジェイムズ殿下が、あんなことをするなんて思わなかったの」
「……本当に、何もご存じなかったのですか?」
「もちろんよ!」
「あの飲み物をわたくしに渡したのは、レティシア様ですわ。睡眠薬が入っていたとグレンヴィル殿下から聞きました」
「それは……ジェイムズ殿下から、エリーザ様に持っていってあげてほしいと頼まれただけなの。中に何か入っているなんて、わたくしは知らなかったわ」
「…………」
エリーゼは黙ってレティシアを見つめた。とても信じる気にはなれない。だが、今さら問い詰めたところで、彼女が素直に真実を話すとも思えなかった。何より、もう関わりたくはない。
「……もう結構ですわ」
「エリーゼ様?」
「今回のことについて、これ以上レティシア様を責めるつもりはありません。ですが、もうお会いしたくありません。お話はそれだけです。お帰りください」
エリーゼは静かに告げた。
その瞬間、レティシアの顔から申し訳なさそうな表情が消えた。
「何よ、その態度! 被害者みたいな顔をしているけれど、悪いのはあなたでしょう!」
突然声を荒らげられ、エリーゼは目を見開いた。
「何をおっしゃっているの?」
「あなたが泥棒猫のような真似をするからよ! 私とグレン様は婚約しているのよ。それなのに、あとから現れたあなたがあの方に取り入って……図々しいとは思わないの?」
レティシアがエリーゼを睨みつける。
エリーゼの表情が強張った。
「……婚約ですって? グレンヴィル殿下と……レティシア様が?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「そうよ」
「そんなはずありませんわ。グレンヴィル殿下から、そのようなお話は一度も聞いておりません」
エリーゼはすぐに否定した。
「あなたに言っていないだけでしょう? だったら、証拠を見せてあげる」
レティシアは待ってましたとばかりに、持っていたバッグから一枚の書類を取り出した。
「ほら。これを見ても同じことが言える?」
「……これは?」




