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裏切られた元聖女は、天才王子と魔獣共存計画を始めます!  作者: 青空一夏


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44/55

44 sideグレンヴィル 

「わたくしはグレンヴィル殿下が……いい……」

「……え?」

 思わず聞き返した。

 エリーゼはグレンヴィルの胸元に顔を寄せたまま、掠れた声を続ける。

「わたくし……あなたじゃなければ嫌なんです……」

 グレンヴィルの心臓が大きく跳ねた。

 その瞬間、周囲の音が消えたような気がした。

 腕の中にいるエリーゼを見下ろす。

 彼女は自分の胸に縋りついている。

 俺がいい?

 俺じゃなきゃ嫌だ?

 それはつまり――

(……エリーゼは俺のことを……好き?)

 鼓動が急にうるさくなった。同時に、これまで自分でもよくわからなかった感情が、次々と胸の中に蘇ってくる。

 エリーゼが笑えば心が和んだ。自分の夢を理解し、素晴らしいと言ってくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。今まで気軽にハグしてきたのに、急に躊躇するようになった。

 彼女が危険な目に遭えば、何も考えられなくなるほど怖くなる。今は兄を一生許せないほど怒りに燃えている。

 ドレスを選んでいるときだって、彼女がそれを着た姿を想像して幸せな気分だった。今日、そのドレスを着て現れたエリーゼから、一瞬目を離せなくなったほどに見とれた。

(ああ……そうか。俺も……エリーゼが好きなんだ)

 ひどく単純な答えだった。そう気づいた途端、不思議なくらいすべてが腑に落ちた。

 そして腕の中にいる彼女も、自分を選んでくれた。

 こんな状況なのに、胸の奥に抑えきれない喜びが込み上げてくる。

(なんだ……両想いだったのか)

 グレンヴィルは、エリーゼを抱く腕にそっと力を込めた。

「エリーゼ。俺も君が大好きだ」

 コクンと頷いたような気がした。腕の中のエリーゼを見ると、グレンヴィルの胸に体を預けたまま目を閉じている。

『エリーゼ、大丈夫?』

 元の大きさに戻ったスノウが、心配そうに覗き込んでくる。

「ああ。心配ない。どうやら安心して眠ってしまったようだ」

 廊下から慌ただしい足音が響いてくる。

 先ほどの轟音を聞きつけたのだろう。騎士たちが次々と駆けつけ、蝶番ごと外れた扉を見て息を呑んだ。

「これは……いったい何が……」

 騒ぎはそれだけでは収まらなかった。

 祝宴の最中だったこともあり、何事かと様子を見に来た貴族たちまで集まり始めたのだ。

 やがて人垣を割るようにして、国王が姿を現した。

「グレンヴィル!」

 室内を見渡した国王の表情が険しくなる。

 床に倒れているジェイムズ。グレンヴィルの腕の中にいるエリーゼ。壊された扉。

「これはどういうことだ?」

 グレンヴィルはエリーゼを抱きかかえたまま、国王を真っ直ぐに見た。

「兄上がエリーゼに不埒な真似をしようとしました。俺が殴ったのは正当防衛です」

「なんだと?」

 周囲がざわめく。

「幸い、間に合いました。何もされてはいません。ですが、エリーゼは薬を盛られているようです。おそらく睡眠薬の類いでしょう」

 国王の顔から表情が消えた。

「……ジェイムズ。なんと愚かな……」

 低い声だった。

 ざわめいていた貴族たちが、一斉に口を閉ざした。

「王族たる者がこのような真似をするとは……なんと情けない」

「父上。俺は到底、兄上を許せません」

 自分でも驚くほど、低い声が出た。

 エリーゼがどれほど怖かったか。

 考えただけで、体の奥から再び怒りが込み上げてくる。

「エリーゼはこの国のために尽くしてくれた聖女様です。俺の大事な女性なんだ。それを……こんな目に遭わせるなど、絶対に許せない」

「……わかっている」

 国王はしばらく無様に床に伸びているジェイムズを見つめ、それから近衛騎士たちへ命じた。

「ジェイムズを連れていけ! 沙汰があるまで地下牢に閉じ込めろ。一歩も出すな」

 第一王子を前に一瞬の躊躇はあったものの、国王直々の命令だ。やがてジェイムズは部屋から連れ出されていった。

「父上。エリーゼを医師に診せます」

「ああ。すぐに連れていけ」

『スノウも行く!』

「ああ。一緒においで」

 腕の中のエリーゼを抱きしめる腕に、わずかに力がこもる。

 もう二度と、こんな目には遭わせない。

 グレンヴィルはそう心に誓いながら、その場を後にした。


 エリーゼを別室へ運ぶと、すぐに侍医を呼んだ。

 寝台に寝かされたエリーゼを診察した侍医は、やがて安堵したように息をついた。

「ご安心ください。飲まされたのは、それほど強い睡眠薬ではないようです。特に心配はないでしょう」

「そうか……よかった」

 グレンヴィルはようやく肩の力を抜いた。

「念のため、目を覚ますまではここで休ませてあげてください」

「ああ。そうするよ」

 グレンヴィルは眠っているエリーゼへ視線を向けた。

 穏やかな寝息を立てている姿を確認し、ようやく胸を撫で下ろしたのだった。

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