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裏切られた元聖女は、天才王子と魔獣共存計画を始めます!  作者: 青空一夏


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43/55

43 sideグレンヴィル

エリーゼの姿が見えない。

 グレンヴィルがそのことに気づいたのは、貴族たちとの話がようやくひと段落したときだった。先ほどまで彼女がいた場所へ目を向ける。

 いない。

 会場を見回しても、あのレモンイエローのドレスはどこにも見当たらなかった。

(どこへ行ったんだ?)

 化粧室にでも行ったのだろうか。最初はそう思った。

 だが、しばらく待っても戻ってこない。

 胸の奥に、ざわりと嫌な予感が広がった。

 グレンヴィルは人の輪を抜けると、国王の長椅子で眠り込んでいたスノウのところへ向かった。

「スノウ。起きろ。エリーゼがいないんだ」

『……エリーゼ?』

 まだ眠そうなスノウの目が開く。

「どこへ行ったのかわからない。匂いを追えるか?」

 その言葉を聞いた途端、スノウは立ち上がった。鼻先を動かし、辺りの匂いを探る。

『こっち』

 スノウが歩き出し、グレンヴィルもすぐにその後を追う。大広間を出て、いくつもの廊下を進む。華やかな祝宴の音が遠ざかるにつれて、グレンヴィルの胸騒ぎは強くなっていった。

「エリーゼが、こんなところまで一人で来るか……?」

『だって、エリーゼの匂い、するよ。絶対、この先にいる』

 スノウが足を止めた。

 王宮の最奥の部屋。

 人気もなく、廊下もどこか薄暗い。

 「エリーゼ!」

 グレンヴィルは取っ手を掴んだ。

 鍵がかかっている。

「くそっ……!」

 すぐさま手のひらを扉へ向けた。

「吹き飛べ!――ブロウ・アウェイ」

 凄まじい風が廊下を駆け抜け、扉を直撃した。

 ドンッ!

 腹の底まで響くような衝撃音。

 分厚い扉が大きく軋み、蝶番がわずかに歪む。

 それでも、扉は持ちこたえた。

「ちっ……!」

 そのとき、扉の向こうからジェイムズの声がした。

「無駄だ。この部屋は王族を一時的に幽閉するために造られたものだ。扉には魔法への耐性もある」

「兄上……!?」

「もっとも、お前が本気で魔力を叩き込めば、扉ごと部屋を吹き飛ばすことくらいできるだろうがな」

 嘲るような声が続く。

「だが、そのとき中にいる私とエリーゼがどうなるか。お前ならわかるだろう?」

「……っ!」

 グレンヴィルの顔色が変わった。

 グレンヴィルが本気で魔力を叩き込めば、おそらく扉を破壊することはできる。だが、この頑丈な扉を打ち破るほどの威力となれば、衝撃が室内にまで及ぶ可能性が高い。エリーゼが中にいる以上、そんな賭けには出られなかった。

「くそっ……!」

 そのとき、隣にいるスノウが目に入った。

「スノウ!」

『なに!?』

「大きくなれるよね?」

『もちろん、なれるよ!』

「この扉を破ってくれ! ただし、蹴り飛ばすんじゃない。扉が中へ飛んだらエリーゼが危ない」

『じゃあ、スノウが扉を押さえる!』

「頼む!」

 次の瞬間、スノウの身体が膨れ上がった。

 二倍。

 三倍。

 巨大化した身体が、廊下いっぱいに埋め尽くす。

 スノウは低く身構えると、真っ直ぐに扉を睨みつけた。

『エリーゼ、いま助けるー!』

 床を蹴る。

 巨体が弾丸のように扉へ飛びかかった。

 轟音。

 蝶番が弾けたが、扉は室内に向かって吹き飛ばされることはなかった。

 スノウの巨体が瞬時に覆いかぶさったからだ。


「エリーゼ!」

 グレンヴィルは飛び込んだ。

 そして、目に入った光景に息が止まった。エリーゼがどこか気だるそうに、ソファにもたれている。その傍らで、ジェイムズが突然の轟音に驚いたようにこちらを振り返っていた。頬や額には、何本もの赤い引っかき傷が走っている。

「なんて女だ。散々抵抗しやがって……お陰でなにもできなかった」

「兄上!」

 グレンヴィルの拳が、ジェイムズの頬を捉えた。

「ぐっ……!」

 ジェイムズの身体が床へ転がる。


 思いっきり強い力で殴った。

 どうしても許せなかったのだ。

 だが、今はジェイムズのことなどどうでもいい。

「エリーゼ!」

 エリーゼはぼんやりとした瞳でこちらを見上げた。

「大丈夫? エリーゼ、俺がわかる?」

「……グレンヴィル……殿下……?」

「うん、俺だよ」

 エリーゼはグレンヴィルに手を伸ばす。

 グレンヴィルはエリーゼをそっと抱き寄せた。

「怖かったね。もう大丈夫。俺がいるから」

 震える背中を支えながら、できるだけ優しく言った。

「……グレンヴィル殿下……もっと早く来てくださらないと。あなたはわたくしの側にずっといなきゃだめです……」

「うん」

 グレンヴィルはエリーゼを抱いている腕に力をこめる。

「もう兄上を近づけさせないよ、絶対だ」

「わたくしはグレンヴィル殿下が……いい……」

「……え?」

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