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「レティシア様は……どちらに?」
「さあね」
ジェイムズは答えながら、扉へ手を伸ばした。
――カチャリ。
鍵のかかる音だった。
エリーゼの背筋が凍りつく。
「……なぜ、鍵を閉めたの……ですか?」
ジェイムズがこちらへ歩き出す。その瞬間、エリーゼはソファから立ち上がり、距離をとろうとした。
「……っ!」
けれど、足に力が入らない。膝が崩れ、身体が再びソファへ沈み込んだ。
「そんなに警戒しなくてもいいだろう。少し君と二人で話したかっただけだよ」
(どうして……身体が……動かないの?)
頭がふわふわして、手足がひどく重い。
逃げなければ。そう思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。
「誰か……!」
必死に声を上げる。
「誰か、来て!」
「無駄だよ。ここは宮殿の最奥の部屋で、普段は使ってないんだ」
ジェイムズの声が返ってきた。エリーゼは震える手でソファの端を掴み、少しでも距離を取ろうと身体を後ろへずらした。
「いや。……近づかないで」
声を張り上げたつもりなのに、小さな呟きにしかならない。
怖い。逃げたい。それでも、身体が動かない。
扉まではほんの数歩しかないのに、そのわずかな距離が途方もなく遠く感じられた。
(助けて。誰か)
そこまで思った瞬間、エリーゼの脳裏に浮かんだのは、たった一人だった。
(グレンヴィル殿下……)
どうして彼の顔が浮かんだのかなど、考える余裕はない。
ただ、会いたかった。
ここへ来てほしかった。
あの琥珀色の瞳を見たかった。
いつもの声で、自分の名を呼んでほしい。
「グレンヴィル殿下……助けて。お願い……ここへ来て……」
縋るようにその名を呼ぶ。
今、自分のそばにいてほしい人は、グレンヴィル殿下ただ一人。
ジェイムズの足音が、すぐ目の前で止まった。
「ふっ。グレンヴィルがそんなにいいのか? どいつもこいつも弟ばかりを褒めやがって……まぁ、いいさ。聖女様は俺がもらった」




