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裏切られた元聖女は、天才王子と魔獣共存計画を始めます!  作者: 青空一夏


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叙爵式の後には、王宮の大広間で盛大な祝宴が催された。それは単に新たな爵位を授かった者を祝うためだけの宴ではない。今回成し遂げられた、人と魔獣との協力。それが国にとってどれほど画期的な出来事であるかを広く示し、その功績を公に称えるための祝宴でもあった。

 王族をはじめ、大臣や有力貴族たちが集まり、長いテーブルには色とりどりの料理が所狭しと並べられている。

 その中に、一か所だけ妙に様子の違う席があった。

 巨大な皿に山盛りになった肉。

 そして、その隣には籠いっぱいの真っ赤な林檎。もちろん、スノウの席である。しかもその席は国王の隣だ。どうやら国王自ら、そこをスノウの席に指定したらしい。

『林檎!』

 それを見つけた途端、スノウの尻尾が勢いよく振られた。

 国王が愉快そうに笑う。

「遠慮せず食べるが良い。今日の主役の一人だからな」

『王様、良い人!』

「そうかそうか!」

 国王はすっかり上機嫌だ。

 エリーゼはその様子を見ながら苦笑した。

「スノウったら……」

 ポミエ男爵になったというのに、本人が喜んでいるのは爵位ではなく、目の前に積まれた肉と林檎である。そんなスノウを見守っていた貴族たちの表情も、和らいでいた。

 恐ろしい魔獣。

 人間に害をなす存在。

 そう思っていた者は多い。

 けれど今、国王のすぐ隣の席に飛び乗り幸せそうに林檎を頬張る姿に、かつての恐怖を重ねる者はもういなかった。

『王様、これおいしい!』

「そうか。ならばもっと持ってこさせよう」

『ほんと!? 王様、大好き!』

「ははは! そうかそうか!」

 いつの間にか、国王とスノウはすっかり仲良くなっていた。

「父上……ずいぶん楽しそうだな。まるで孫を可愛がるお爺ちゃんだな」

 グレンヴィルが呆れたように呟く。

「ふふっ。スノウも楽しそうですわ」

 エリーゼも笑った。

 それからしばらくして、グレンヴィルがエリーゼを呼ぶ。

「エリーゼ、見て」

「はい?」

 グレンヴィルに言われて振り向いたエリーゼは、思わず目を丸くした。つい先ほどまで山のような料理が積まれていたスノウの皿は、すっかり空になっている。そして当のスノウはというと。

『……スゥ……スゥ……』

 満腹になったらしく、国王の長椅子で、気持ちよさそうに眠っていた。

「まあ……あんなところで寝てしまって」

 エリーゼが慌てて迎えに行こうとすると、国王が手を上げてそれを制した。

「良い、良い。寝かせておいてやれ」

「ですが、あちらは国王陛下の……」

「構わん。スノウは可愛い。城では好きなところで寛げば良い。余が許可する 」

 そう言うと国王は満足そうにスノウを見つめた。

「よく働き、よく食べ、よく眠る。実に立派な男爵ではないか」

「ふふっ……そうですわね」

 エリーゼは笑った。周囲からも、くすくすと楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 人間の王がいて、人間の貴族たちがいて。その中心で、一匹の魔獣が男爵として祝福され、安心しきって眠っている。かつてなら、考えられなかった光景だ。

 けれど今、それを奇妙だと咎める者はいなかった。エリーゼはグレンヴィルと顔を見合わせ、そっと微笑み合う。

 グレンヴィルがずっと願っていた、人と魔獣が共に生きる未来。その未来がまたひとつ、目の前で形になったような気がして、エリーゼの胸は温かな喜びで満たされていた。

 祝宴はその後も賑やかに続いた。

 今回の功績を称えられたグレンヴィルの周囲には、ひっきりなしに貴族や重臣たちが集まっている。被災地を訪問した夜にも宴が開かれたが、こちらのほうが遙かに規模が大きい。

 次から次へと話しかけられ、さすがのグレンヴィルも身動きが取れないようだった。

 少し離れたところからその様子を眺め、エリーゼはくすりと笑った。

 助けを求めるようにこちらを見るグレンヴィルと目が合う。けれどエリーゼは、にっこり笑って小さく手を振った。

(頑張ってくださいませ、グレンヴィル殿下)

 そんなことを考えていると、いきなり後ろから声をかけられた。

「エリーゼ様」

「あら、レティシア様」

 振り返ると、レティシアが飲み物の入ったグラスを手に立っていた。

「ずっとお話をされていたでしょう? 喉が渇いたのではありませんか?」

「まあ、ありがとうございます。ちょうど何かいただきたいと思っていたところですの」

 何の疑いもなく、エリーゼは差し出されたグラスを受け取った。

 冷たい飲み物が、乾いた喉に心地よい。

「美味しいですわ」

 そう言って微笑み、もう一口飲む。

「……あら?」

 しばらくして、足元がぐらりと揺れた。

 エリーゼは思わず近くのテーブルへ手をつく。

 おかしい。

 先ほどまで何ともなかったのに、急に身体から力が抜けていく。頭にも薄い靄がかかったようで、周囲の話し声まで遠く聞こえ始めた。

「エリーゼ様? どうなさいました?」

「なんだか……少し、目眩が……」

「まあ、大変。少し休んだほうがいいですわ。控え室までお連れします」

「申しわけ……ありません……」

 レティシアに支えられ、エリーゼは大広間を後にした。その頃にはもう、自分がどこを歩いているのかさえ、はっきりとはわからなくなっていた。

 長い廊下をいくつ曲がったのだろう。華やかな祝宴の音は、いつしか遠く消えていた。

「こちらで少し休みましょう」

「はい……ありがとうございます……」

 扉が開き、エリーゼは室内へと連れていかれる。

 控え室なのだろう。そう思っていた。

「ご迷惑をおかけして……すみません、レティシア様……」

 ふわふわとした意識のまま、エリーゼはソファへ体を預けた。

 やがて、ぱたんと扉の閉まる音がした。

 しばらくして、再び扉が開く。

「……レティシア様?」

 重たい瞼を持ち上げ、扉のほうへ目を向ける。しかし、そこに立っていたのは、レティシアではなかった。

「やあ、エリーゼ嬢」

「……ジェイムズ殿下?」

 どうして彼がここにいるのだろう。

 ぼんやりとした頭で辺りを見回してみるが、レティシアの姿はどこにもない。

 おかしい。

 朦朧としていた意識の奥で、警鐘が鳴った。

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