38 sideレティシア
祝宴の中で、レティシアもまた面白くない思いを抱えていた。
グレンヴィルの隣に立つエリーゼへ、不満げな視線を向ける。
水色の髪に、アクアマリンを思わせる澄んだ瞳。透き通るような清らかさをまとったその姿は、どこか神秘的で聖女らしい美しさだった。そしてそれは、レティシアとはまるで正反対の魅力でもある。
(確かにあの女は綺麗ではあるわよ。でもあんな冴えない色の髪と瞳になんの価値があるの? わたくしの方が遙かに美しいはずよっ!)
レティシアは燃えるような赤い髪に、深い紅玉色の瞳を持つ。人目を奪う艶やかな顔立ちに、豊かな胸元とくびれた腰。どこにいても自然と視線を集める、華やかな美貌だ。どちらが男の目を惹くかなど、レティシアにとっては考えるまでもない。もちろん自分に決まっている。
「グレンヴィル殿下とエリーゼ嬢は本当にお似合いですな」
「あのように楽しそうに話しているところを見ると、ずいぶん仲がよろしいようだ」
「殿下があれほど楽しそうに女性と話しているのは、珍しいのではありませんか?」
近くにいた大臣たちの弾んだ声が耳に入り、レティシアは扇を握る指にわずかに力を込めた。
(何がお似合いよ! わたくしの方がよほどグレンヴィル殿下にふさわしいわよっ!)
グレンヴィルは、この国でも指折りの美貌を持つ王族だ。美しい銀髪に琥珀色の瞳。加えて、彼が開発した数々の魔導具は国内のみならず他国でも広く使われ、その莫大な利益によって、王族の中でも桁外れの資産を持っている。
それでいて、本人は華やかな社交界にはほとんど興味を示さず、研究に没頭する日々を送っている。
美しく、地位があり、財産がある。そのうえ結婚したところで、妻の行動にいちいち口を出すような男でもないだろう。
夫として、これほど申し分のない男性がほかにいるだろうか?
幼い頃からその美貌で人々の視線を集めてきたレティシアは、自分には誰もが羨むような男性こそふさわしいと思っていた。
それなのに、今夜、皆が見ているのは自分ではない。
あちらこちらから「グレンヴィル殿下にお似合いだ」と言われているエリーゼだ。
(聖女か……忌々しいわね)
これまでもエリーゼの存在を疎ましく思ってはいた。けれど、グレンヴィルを奪えるほどの女だとは思っていなかった。それが今では、周囲から彼の隣に立つのにふさわしい女性として見られ始めている。
(……なんとかしないと)
扇子の陰で、レティシアの唇が歪んだ。




