37 sideジェイムズ
(まずい……)
ジェイムズは、大臣たちに囲まれるグレンヴィルを睨むように見つめた。
グレンヴィルが優秀であることは、以前からわかっていた。
魔獣の研究だけでなく、これまでにも人々の暮らしを便利にする魔導具をいくつも開発し、国に貢献している。
だが、ジェイムズにとってそれは、あくまで魔導具開発者としての功績だった。どれほど優れた魔導具を作ろうと、研究室に籠もって開発に明け暮れている弟が、自分の立場を脅かすことなどない。そう高を括っていたのだ。
だが、今日の一件で状況が変わった。グレンヴィルが研究してきた魔獣との共存が、実際に多くの民の命を救った。
これまで夢物語だと考えていた大臣たちまでが、その成果を目の当たりにし、弟を見る目を明らかに変えている。
(このままではいけない 。魔導具開発者として評価されているだけなら良かった。だが、これでは……)
ジェイムズは周囲を見渡した。
グレンヴィルへ向けられているのは、珍しい魔導具を作った者への感心とは明らかに違う。国のために大きな功績を挙げた王族へ向ける、称賛と期待の眼差しだった。
ふと、父である国王へ目を向ける。国王はグレンヴィルと、その隣に立つエリーゼを眺めながら、ひどく満足そうに微笑んでいる。
その表情を見た瞬間、ジェイムズの胸の奥に嫌な予感が広がった。
トリスタン王国では、原則として長子が王位を継ぐ。だが、長い歴史の中で例外がなかったわけではない。
王族として目覚ましい功績を挙げ、臣下や貴族たちから次代の王として望まれる者が現れた場合、国王は長子以外の者を後継者に指名する場合があった。
そんなことは、自分には関係のない話だと思っていた。
王位を継ぐのは自分だ。
これまで一度たりとも、それを疑ったことなどない。
だが今や、大臣たちの関心はグレンヴィルの功績だけでなく、その傍らにいるエリーゼにまで向けられている。二人はお似合いだという声まで聞こえてきた。
(このまま、あいつに功績を重ねさせるわけにはいかないし、エリーゼとくっついたらますます求心力を得てしまう)
王位を弟に譲るつもりなど、ジェイムズには毛頭なかった。グレンヴィルが自分の地位を脅かす存在になるというのなら――。
(……何とかしなければ)
祝宴の中、ジェイムズは笑みを消し、静かにグレンヴィルを見つめていた。




