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――ウォゥッ!
その時、スノウが鋭く鳴いた。
ぴたりとグレートイーグルたちのざわめきが止まる。
スノウはもう一度、言い聞かせるように声を上げた。するとグレートイーグルたちは、仕方がないとでもいうように静かに着地し、エリーゼたちが下りやすいようにその場で身を低くした。
「ふふっ。スノウが、先にみんなを降ろしなさいって言ってくれたみたいですね」
エリーゼたちに続いて、医師や看護師も次々と地面へ降りる。最後の一人が背中から降りた途端。
――クワァッ!
待ってましたとばかりに十羽が魚の山へ駆け出した。
「あっ、待って。そんなに慌てなくても、たくさんありますわ!」
思わずエリーゼが声をかける。グレートイーグルたちは聞いているのかいないのか、大きな嘴で魚をくわえ、夢中になって食べ始めた。
つい先ほどまで人々を背に乗せ、勇壮に大空を飛んでいた巨鳥たちとは思えないほどのはしゃぎようだ。
「ふふっ。本当にお魚が好きなのですね」
エリーゼが笑うと、隣に立ったグレンヴィルも頬を緩めた。
「父上もずいぶん奮発したみたいだな」
「これだけあれば、十羽でもお腹いっぱいになれそうですわ」
一羽が大きな魚を丸ごとくわえると、隣の一羽が羨ましそうに首を伸ばす。けれど、そのすぐそばにも同じくらい大きな魚があることに気づき、今度はそちらへ飛びついた。そんなグレートイーグルたちの姿に、帰還した医師や看護師たちからも笑い声が零れる。
エリーゼもその光景を眺めながら、ようやく肩の力を抜いた。
エリーゼは隣に立つグレンヴィルをそっと見上げた。
視線に気づいた彼がエリーゼを見つめる。
「どうかした?」
「……今日、少しわかったような気がしますの」
「うん、何がわかったんだい?」
「以前、グレンヴィル殿下がおっしゃっていたことですわ。何もかも聖女一人に押しつけたくない、と」
エリーゼは魚を食べているグレートイーグルたちへ目を向けた。
「今日は私だけではありませんでした。医師や看護師、それにグレートイーグルたちも、それぞれができることをしてくれました。だからこそ、あれほど多くの方を助けることができたのだと思います 」
「ああ、そうだね。誰か一人が限界まで頑張る必要はないんだ。皆でできることを分け合えばいい」
その答えを聞いて、エリーゼも微笑んだ。グレンヴィルが思い描いていた未来のほんの一端を、今日は自分も一緒になって作ることができた。そう思うと、なんともいえない充足感に満たされた。
ほどなくして、トリスタン国王も庭園へ姿を現した。
「皆、無事に戻ってきてくれて何よりだ」
安堵した様子でそう告げると、国王はまずグレンヴィルや救助に向かった者たちから現地の状況を聞いた。
川の氾濫によって街道が寸断され、村が孤立していたこと。
グレートイーグルたちのおかげで医師や看護師がすぐに治療に取りかかれたこと。
重傷者にはエリーゼが治癒魔法を施し、それ以外の負傷者には医師たちが治療を行ったこと。
一つ一つの報告に耳を傾けていた国王の表情が、次第に安堵へと変わっていく。
「そうか……。皆、本当によくやってくれた。多くの民を救ってくれて、心から感謝する」
そしてトリスタン国王は、少し離れたところで魚を食べているグレートイーグルたちを見つめた。
「彼らには、大きな力を貸してもらったな」
「はい。彼らがいなければ、あれほど早く村へたどり着くことはできませんでした。グレートイーグルは、もう俺たちの仲間ですよ。村人たちを前にしてもおとなしかったです」
「そうか」
国王は感心したように頷いた。
「スノウ。彼らに余の言葉を伝えてもらってもいいだろうか? この国の民を助けてくれてありがとう、と」
『いいよ!』
スノウは国王の感謝をグレートイーグルたちへ伝える。一羽が魚から顔を上げ、応えるようにひと声鳴いた。
その姿を見つめていた国王の口元に、柔らかな笑みが浮かんだ。
やがて魚を食べ終えたグレートイーグルたちは、思い思いに羽繕いを始めた。
「エリーゼ、そろそろ帰ろうか。グレートイーグルに頼んで、ついでに研究所まで乗せていってもらおう」
「待ってくれ。今夜は城に泊まっていってくれないだろうか? せっかくのこんな日を、何事もなかったように終わらせるのは惜しいからのぉ。今日、力を尽くしてくれた皆への労いも兼ねて、ささやかな宴を開きたいと思うのだ」
「ああ……面倒だな。俺は帰りたい」
「グレンヴィル殿下。せっかく国王陛下がそうおっしゃっているのです。そのようにいきなり断るのは失礼ですわ」
「おお、さすがは聖女様じゃ。スノウにもおいしい物を食べさせてやりたいのだ」
『えっ! 林檎ある?』
スノウの耳がぴんっと立った。




