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裏切られた元聖女は、天才王子と魔獣共存計画を始めます!  作者: 青空一夏


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「ですが、まだ怪我をしている方がこんなに……」

「わかっている。でも、ここから先は医師と看護師たちに任せよう」

 グレンヴィルは治療を待つ人々へ目を向けた。

「傷を消毒して、薬を使って、きちんと手当てをすれば治る人たちだ。聖女の力がなくても助けられる」

「ですが、わたくしが治したほうが早いのでは?」

「確かに早い。でも、それではいつまで経っても聖女に頼りきりになってしまう」

 エリーゼは思わずグレンヴィルを見つめた。ポワブール王国ではそれが当たり前だったので、思わず首を傾げた。

「人にはもともと傷を治す力がある。それを医師や薬が助けるんだ。聖女にしか救えない命なら、もちろん君の力を借りたい。でも、そうでない人まで聖女が治してしまったら、医術も薬学も育たないだろう?」

 グレンヴィルはそこで少し表情を和らげた。エリーゼも確かにその通りだと頷く。

「それに、聖女だって一人の人間さ。何もかも背負わせるべきじゃない。人を救うのは聖女だけじゃないんだよ。医師も看護師も、薬を作る者もいる。皆でできることを分担すればいい。前にも言ったよね?」

 その言葉に、エリーゼはグレンヴィルを見つめた。

 あまりにも当たり前のことのようにグレンヴィルは言う。聖女なのだから人々を救って当然だと言うのではない。力があるのだから、すべてを引き受けろと言うのでもない。自分にしか救えない者のために力を使えばいい。そして、それ以外の人々は医師や看護師、薬を作る者たちが支えていく。

 それは聖女であるエリーゼにとって新しい考え方であると同時に、この国の未来にとって必要なことだった。

 聖女一人の力に頼りきってしまえば、医術も薬学も進歩しない。トリストン王国が目指すのはそこではないのだ。

(素敵だわ。そんな国を作ろうとしているなんて。私も、この方が目指す国づくりに力を貸したい)

 魔獣をただ恐れて排除するのではなく、ともに生きる道を探す。聖女にすべてを背負わせるのではなく、医師や看護師、それぞれが力を合わせて人々を救う。

(グレンヴィル殿下は、魔獣にも民にも、聖女である私にも優しい。それぞれが無理なく生きられる国を作ろうとしているのね)

 胸の奥に、じわりと熱いものが広がっていく。

「……わかりましたわ。グレンヴィル殿下のお考えは、とても素晴らしいと思います。私、どこまでも応援しますわ」

 そして、込み上げる気持ちのままに続けた。

「あなたは本当に、わたくしの理想です!」

「え……?」

 なぜかグレンヴィルが固まった。

 少し間を置いてから、

「……ああ。そう言ってもらえると、嬉しいよ」

 と答える。

 その頬がわずかに赤くなっていたことに、エリーゼは気づかなかった。

 治療を終えたエリーゼたちは、村人たちに何度も感謝の言葉をかけられながら、グレートイーグルの背に乗った。

「聖女様、本当にありがとうございました!」

「グレンヴィル殿下も、皆様も、どうかお気をつけて!」

 村人たちが総出で見送る。医師や看護師たちも、それぞれ行きと同じようにグレートイーグルの背に乗った。孤立した村での治療はひとまず終わり、あとは村にいる者たちで対応できるところまで落ち着いていた。

「それじゃぁ、戻るぞ」

 グレンヴィルの声を合図に、一羽、また一羽とグレートイーグルが地面を蹴る。十羽もの巨鳥が一斉に羽ばたけば、凄まじい風が巻き起こった。

 エリーゼたちを乗せたグレートイーグルはぐんぐん高度を上げ、やがて村は眼下に小さくなっていく。

 帰りの空路も速かった。ほどなくして王都が見え始め、王宮が近づいてくる。

「まあ……!」

 エリーゼは、庭園に積まれたものを見て目を丸くした。大きな魚が、山のように用意されている。

 出発前、トリストン国王がグレートイーグルたちへの褒美として用意しておくと言っていたものだ。

 魚を見つけた途端、それまでおとなしく飛んでいたグレートイーグルたちが、色めき立った。

 ――クァァッ!

 一斉に歓喜の声を上げる。十羽とも翼をばさばさと動かし、今にも魚の山へ駆け寄りそうな勢いだ。

「わっ、待って――」

 まだ背中にはエリーゼたちや医師、看護師が乗っているのだ。


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