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「ジェームス、余は戦などするつもりはないぞ。そなたが王位に就いたらグレンヴィルと協力して国を治めていくのじゃぞ。余計な争いを持ち込むことは許さん」
「ちっ。この大きなチャンスを生かさないなんて大馬鹿者だ」
ジェイムズは首を振りながらその場を後にした。
「困った奴じゃ」
トリストン国王はひとつため息をつくと気持ちを切り替え、エリーゼたちへ被災地に向かうよう改めて頼んだ。当初は食料や医薬品を届けてもらうだけのつもりだったが、グレートイーグルが十羽も集まったとなれば話は別だ。人を運ぶ余裕も十分にある。そこで急遽、負傷者の治療にあたる医師や看護師も同行することになった。
九羽のグレートイーグルは、エリーゼたちから少し離れた場所にいる。鋭い眼差しを向け、翼をわずかに広げて警戒していた。すると、浄化されたグレートイーグルが仲間たちに向かって何度か鳴いた。
「なんて言っているのかしら?」
エリーゼが尋ねると、スノウが答える。
『この人間たちは敵じゃない。手伝えば魚をくれる人間だって言ってる』
すると九羽のグレートイーグルたちが納得したように小さく鳴いた。
「すごい! つまり魔獣の一人と仲良くなれたら、その子が仲間を説得してくれるってことか? 友情の連鎖反応かな? これだと、どんどん仲間が増やせそうだ」
新たな発見をしたことを嬉しがるグレンヴィルに、エリーゼも自然と声を弾ませた。
「すごいですね! これは新しい発見ですわ。たくさんの魔獣を一頭一頭浄化しなくてもいいということですね? 仲間から敵ではないと教えてもらえれば、警戒を解いてくれる 」
早速、多くの食料や医薬品がグレートイーグルの背中に積まれ、医師と看護師たちもこわごわグレートイーグルの背に乗る。グレンヴィルとエリーゼ、スノウも同行し、いざ出発だ。
「頼んだぞ、グレンヴィル、エリーゼ嬢。それからグレートイーグルたちよ、力を貸してくれて感謝する。褒美の魚をたっぷり用意しておくからのう。スノウもありがとうな。おかげで話がまとまったわい」
トリストン国王は満足そうに頷くと、最後に「皆、気をつけて行ってくるのじゃぞー」と大きく手を振った。
その見送りを受けながら、エリーゼたちは被災地へ向けて飛び立った。
十羽のグレートイーグルは大きな翼で空を飛んでいく。
やがて、眼下に目的の村が見えてきた。川が氾濫し街道が寸断されたため、いまだ孤立している村だ。
グレートイーグルたちが高度を下げ始めた、その時だった。
「な、なんだ、あれは……!」
空を見上げた村人の一人が、声を上げた。その声につられて、周囲の人々も次々と空を仰ぐ。
「魔獣だ!」
「魔獣が来たぞ!」
「逃げろ!」
たちまち村中が騒然となった。無理もない。巨大な鷲の姿をした魔獣が、それも十羽も連なって、こちらへ向かってくるのだ。
子供を抱き上げて家の中へ駆け込む者。怪我をした足を引きずりながら逃げようとする者。近くにあった農具を掴み、震えながら身構える者までいる。
ただでさえ水害に見舞われたばかりだというのに、今度は魔獣の群れに襲われる。そう思ったのだろう。
先頭を飛んでいたグレートイーグルが、村の開けた場所へ降り立った。巨大な翼が巻き起こした風に土埃が舞い、村人たちから悲鳴が上がった。その背から、真っ先にグレンヴィルが降りる。
「皆、落ち着いてくれ! 俺たちは王都から救援に来た!」
よく通る声が響き、逃げ惑っていた人々の動きが止まった。
「あれは……グレンヴィル殿下じゃないか?」
「第二王子殿下……?」
戸惑いの声があちこちから上がり、恐怖一色だった村人たちの間にざわめきが広がっていく。
「安心してくれ! 街道が寸断され、この村が孤立していると聞いて救援に来た。医師や看護師も連れてきているし、医薬品と食料も持ってきた」
グレンヴィルはそう告げると、頭上のグレートイーグルたちを見上げた。
「あのグレートイーグルたちも俺たちに力を貸してくれている。皆を襲ったりはしないから安心して!」
王子本人の言葉に、村人たちの緊張がわずかに緩んだ。
それを確認してから、残るグレートイーグルたちも次々と降り立っていく。村人たちはそのたびに身を強張らせたものの、先ほどのように逃げ出す者はいなかった。
医師や看護師たちがグレートイーグルの背から降りると、すぐさま救護の準備に取りかかった。運んできた荷物も次々と下ろされ、村の一角に大きなテントが張られていく。
「怪我をしている方はこちらへ来てください。順番に診察します!」
その呼びかけに、ようやく村人たちが動き始めた。それでもグレートイーグルへの恐怖が完全に消えたわけではないらしく、巨大な魔獣をちらちらと窺いながら、おそるおそる集まってくる。
「よかった……。街道があんなことになって、もう誰も来てくれないんじゃないかと……」
安堵したように呟く声を耳にしながら、エリーゼも医師たちのもとへ向かった。
「重傷の方から診ます。動けない方がいたら教えてください」
エリーゼは医師たちとともに、負傷者の治療に取りかかった。濁流に流されて骨を折った者や、流木で深い傷を負った者など、医師の手だけでは治療が難しい重傷者を優先して治癒魔法を施していく。白い光が傷を包むたび、苦痛に歪んでいた人々の表情が和らいでいった。
「もう大丈夫ですわ。ですが、しばらくは無理をなさらないでくださいね」
そう声をかけると、エリーゼは周囲を見回した。ひとまず、急を要する重傷者の治療は終わったようだ。
だが、まだ治療を待っている者は大勢いる。腕に傷を負った者、足を引きずっている者。重傷ではないとはいえ、できるだけ早く楽にしてあげたい。
「次の方を診ます。こちらへ――」
「エリーゼ、君はここまでだ」
背後から聞こえたきっぱりとした声に、エリーゼは振り返った。




