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(まぁ、なぜフィリシアさんとバートンさんが?)
「エリーゼさん、とても綺麗よ。そのドレス、グレンヴィル殿下からの贈り物でしょう? すごく似合っているわ」
フィリシアが顔をほころばせた。
「やあ、フィリシア、バートン。間に合ってよかったよ。これで皆で楽しく観られるね」
グレンヴィルは嬉しそうに笑ってから、ふとエリーゼを見た。
「ところで、エリーゼ。何を言おうとしたんだい?」
「あっ……えぇっと。少し頭痛がしてきたので、帰ったほうが良いかと……」
「まあ、大変。でも安心して。頭痛薬を持っているわよ」
フィリシアはバッグから小さな錠剤を取り出した。
「私もよく頭が痛くなるから、いつも持ち歩いているの。すごく効くから飲んで。水なしで大丈夫よ。さあ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「頭痛か……それは心配だな」
グレンヴィルはエリーゼの顔を覗き込んだ。
「じゃあ、エリーゼを真ん中にして、俺とフィリシアが両側に座ろう。もし我慢できないほど具合が悪くなったら、そのときは俺が連れて帰るよ」
「そうね。エリーゼさん、辛くなったらすぐに言って。でも、その薬を飲めばたぶんすぐに楽になるわよ。劇が始まったら、頭痛なんて忘れちゃうかもしれないし」
「そうだな。エリーゼ、ほら座って。せっかくだから、君には楽しんでほしいんだ」
「……はい」
そこまで言われては、帰るに帰れない。エリーゼがそっとレティシアへ目を向けると、その瞳には隠しきれない苛立ちが浮かんでいた。
「……どうしてフィリシアさんとバートンさんがいらっしゃったのかしら? グレン様、どういうおつもりですの?」
「三人で観るより、五人で観たほうが楽しいだろう? エリーゼはこういう場所へ来るのが初めてだと言っていたし、七歳の頃から神殿で暮らしていたから、親しい友人もいなかったそうなんだ。せっかくの初めてなんだから、一人でも多くの人と笑って過ごせたほうが、きっと楽しい思い出になるだろう?」
グレンヴィルは悪びれる様子もなく答えた。
エリーゼは自分のために二人を呼んでくれたのだとわかり、思わず温かい気持ちになった。
「……ま、まあ。さすがグレン様ですわ。たかが部下にまでそれほどお気遣いなさるなんて、理想の所長ですわね。皆様、グレン様に感謝なさるべきですわ」
「もちろん、感謝してますよ。グレンヴィル殿下のもとで働けて、本当にありがたいです」
「まったくですね。グレンヴィル殿下の研究施設で副所長を務めるのは楽しいですし、やり甲斐もあります。なにしろ部下思いですからね」
二人が素直に感謝の言葉を口にするので、嫌みのつもりで言ったレティシアの笑みが、わずかに引きつっていくのだった。
グレンヴィルはレティシアの機嫌の悪さなどまるで気づいていない様子で、ただエリーゼの体調を気にかけてくれる。
幕が上がった瞬間、エリーゼは目を見開いた。華やかな衣装をまとった踊り手たちが音楽に合わせて舞い、次々と景色を変える舞台に、瞬きをすることさえ惜しくなる。
こんなものを見るのは初めてだった。
神殿にいた頃は聖女としての務めに追われ、その後は王太子妃になるための教育が待っていた。
誰かの役に立つわけでもない。ただ美しいものを眺め、心のままに楽しむ。
そんな時間がこの世にあることを、エリーゼは初めて知ったのだ。
「……楽しい」
思わず口から出たその言葉に、エリーゼ自身が驚いた。
幕が下りても、エリーゼは惜しむように舞台をじっと見つめたままだ。
「もう終わってしまったのですね……」
「そんなに気に入った?」
「はい! とても素晴らしかったです。あんなに素敵なものを見たのは初めてですわ」
思わず興奮して答えると、グレンヴィルが満面の笑みを浮かべた。
「そんなに素直に喜んでくれるなら、連れてきた甲斐があったよ。エリーゼ、ずっと楽しそうにしてたからさ。俺まで嬉しくなった」
そう言われて、エリーゼは少し恥ずかしくなった。夢中になりすぎていたかもしれない。
「……舞踏劇が大好きになりました」
「じゃあ、また来ようよ」
「また……?」
「うん。次は演奏会でもいいし、歌劇もいいと思う。これからいろいろ行けばいいよ。俺と一緒に行こう」
にこりと微笑みかけられた途端、エリーゼの鼓動がひときわ大きくなる。
(なにかしら、ドキドキするわね……)
エリーゼは胸元にそっと手を当てた。




