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「エリーゼさん、グレンヴィル殿下からドレスの贈り物ですよ。着替えを手伝うように言われてます。入ってもいいですか?」
女性職員が入ってきて、リボンのかかった大きな箱を差し出す。中にはアイスブルーのシルクを幾重にも重ねた、優雅なAラインのドレスが入っていた。胸元と袖口には銀糸の繊細な刺繍が施され、歩くたびに裾が水面のような光沢を揺らめかせる。
箱の中には同じ色合いの靴とリボンも収めてあり、至れり尽くせりだ。女性職員に着替えを手伝ってもらい、艶やかな水色の髪も丁寧にブラッシングされハーフアップに結ったところをリボンで飾る。
身支度が終わったちょうど良いタイミングで、グレンヴィルが扉の向こうから声をかける。
「どうかな? サイズは多分ぴったりだと思うんだけどさ。その生地、俺が開発したものだよ。着る人に合わせて大きさが変わるから、ぴったりでしょう? トリストン王国の仕立屋は、ほとんど俺の生地でドレスを作ってるんだよ。あらかじめ寸法をはからなくていいし、誰でも着られるからね 」
扉を開けてエリーゼが出てくると、グレンヴィルは大きく目を見開いた。
「思ってた以上に似合っているよ。綺麗だ」
「すごく素敵です……でも、こんな高価な物をいただいてよろしいのですか? それにしてもグレンヴィル殿下はやはり天才なのですね。生地まで開発するなんて。わたくし、尊敬します。グレンヴィル殿下は素晴らしいです」
(そういえば、最初にここに来たとき、工房で生地を織っていたわね)
「いや、ドレス生地の糸に自動伸縮機能を付与しただけなんだけどさ。案外、便利で皆喜んでいるみたい。さて、お手をどうぞ」
エリーゼはグレンヴィルの手にそっと指先を重ねた。
鼓動が急に速くなる。
グレンヴィルは、白銀に近いアイボリーの礼装に銀糸の刺繍を施した上着を纏っていた。ゆるやかなウェーブを帯びた銀髪がさらりと額にかかり、端正な顔はいっそう麗しく輝いて見えた。
エリーゼはグレンヴィルと共に馬車に乗る。魔の森をトリストン王国に抜けるまでの道は綺麗に整えられていて安全だ。魔獣を寄せ付けない結界魔導具が両脇に等間隔で設置されているからだ。
やがてトリストン王国に入ると、まず驚いたのは石畳が綺麗に整備されていることだった。魔石灯(街灯)が夜になると自動で灯り、水路や噴水があり街全体が明るい。街路樹や花壇も多かった。
「とても綺麗な国ですね」
「ありがとう! そんなふうに褒められると、やはり王族としては嬉しいよ。今日の舞踊劇はかなりの人気らしいよ。楽しめるといいね」
途中から具合が悪くなって退席するように言われているエリーゼは、何とも答えられず ただにっこりと笑って頷いた。グレンヴィルに心苦しくて、胸の中がもやもやした。
魔の森にほど近い王都の一角に、劇場がある。そこに着くと、着飾ったレティシアがグレンヴィルだけに声をかける。まるでエリーゼを見ていない。レティシアは自分が中央の席に座り、グレンヴィルに右隣に座らせると、レティシアを左に座らせた。
ざわざわと観客がやって来る中、レティシアはエリーゼの耳元で囁いた。
「さあ、今ですわ。頭痛でも腹痛でも、なんでもよろしくてよ。具合が悪くなったとグレン様に伝えて、帰ってくださらない? 乗ってきた馬車を使ってくださって構いませんわ。グレン様はわたくしの馬車でお送りしますから」
エリーゼは小さく頷くと、意を決して立ち上がった。
「グレンヴィル殿下。申し訳ありません。わたくし……」
「はぁー、間に合いましたね。すみません、グレンヴィル殿下。私たちまで誘っていただいて」
「いやぁ、グレンヴィル殿下。舞踏劇なんて子供の頃以来ですよ。なんとも楽しみです」
突然背後から聞こえてきた声に、エリーゼは振り返った。そこにはフィリシアとバートンが立っていた。
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