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そこにいたのは、馬に似た大型魔獣だった。
ただし、その体は普通の馬とは比較にならない。背丈だけでも大人の男性をはるかに超え、筋肉に覆われた胴体は巨大な岩のようだ。背中は広く、太い四肢が地面を踏むたび、周囲に土埃が舞う。長くしなやかな尾が四本伸びていて、それぞれが別の生き物のようにゆらゆらと動き、近くの枝や草を払いのけていた。こちらに気づくと、太い前脚で地面を掻き、鼻から荒い息を噴き出す。
「敵意を示しています! 危険です」
護衛騎士の一人が剣を抜こうとする。
「だめだ。攻撃するな」
グレンヴィルが片手を上げて制止する。
「グレンヴィル殿下、しかし――」
「こちらから近づかなければ、襲ってこないだろう。魔導浄化器を試すチャンスだ」
グレンヴィルは魔導収納バッグからそれを取り出した。
スノウはエリーゼを守るように一歩前へ出て、鋭い牙を覗かせている。グレンヴィルもスノウと一緒にエリーゼの前へ立つ。護衛騎士たちはグレンヴィルを挟んだまま警戒している。魔導浄化器はグレンヴィルの手のひらの上だ。
「術式を起動する!」
グレンヴィルが魔力を流し込んだ瞬間、白い光が溢れだしフォーテイルドホースへ向かった。フォーテイルドホースは驚いたように頭を振ったが、すぐに動きを止めた。地面を掻いていた前脚が下ろされ、伏せられていた耳も、わずかに起き上がる。
「凄い。効いているわ……」
エリーゼが呟いた。
荒々しかったフォーテイルドホースの呼吸が、少しずつ穏やかになっていく。
グレンヴィルの顔にも喜びが浮かんだ。
「成功したのですか?」
「わからない。まだ浄化が甘いかな。あともうちょっと――
――キィィン
魔導浄化器が、甲高い音を立てた。
「っ!?」
一瞬明滅すると、ぷつりとフォーテイルドホースに向かっていた光が消えた。
「どうした!?」
グレンヴィルが慌てて魔導浄化器を確認する。
「……どうやらこれには限界があるようだ。まずい……!」
フォーテイルドホースは怒ったように首を振ると、大きくいななきを上げた。
――ブルルルルッ!!
四本の尾が激しくうなり、地面を叩く。
フォーテイルドホースは暴れながらこちらへ突進してきた。
やはり浄化が不十分だったのだ。
「くっ……!」
グレンヴィルは右手を前へ突き出す。
手のひらに膨大な魔力が集まり始めた。キラキラと輝いているのは氷の結晶。氷属性の攻撃魔法を放つつもりなのだ。
放てば、フォーテイルドホースを止められる。だが、その代償は大きい。この距離からでは、魔獣を生かしたまま制圧することはできない。それほどグレンヴィルの魔力は強い。
「氷の矢よ――アイスアロー……」
グレンヴィルは低く呟き、氷魔法を放とうとした。
「待ってください!」
エリーゼがその腕を掴む。
「そんな魔法を使ったら、この子は死んでしまいます! 魔獣共存計画はどうなるのですか!」
「しかし、このままでは……」
「大丈夫です! 後はわたくしが引き受けますわ。聖女ですもの、任せてください」
エリーゼは両手を前に突き出し、浄化の魔法を放つ。




