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裏切られた元聖女は、天才王子と魔獣共存計画を始めます!  作者: 青空一夏


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22 side グレンヴィル

翌日、グレンヴィルはジェイムズから邪魔された研究の続きに取りかかる。


「エリーゼの浄化魔法だけが持つ特徴を知りたいんだ」


 グレンヴィルは昨日と同じようにエリーゼの腕にリングをはめる。水晶板の周囲に埋め込まれた小さな調整具を、指先で順に動かしていった。


「これで昨日より細かな反応が出るはずなんだよ。エリーゼ、もう一度浄化魔法をお願い」


「はい」


 エリーゼが浄化魔法を発動すると、水晶板に無数の数値と光の線が浮かび上げる。グレンヴィルは食い入るように見つめた。


「……なるほど。」


「何かわかったのですか?」


「浄化の力はいくつもの段階を経て発現しているようだね。この反応を術式で再現できれば、浄化魔法の魔導具を作れるかも」


 グレンヴィルは机の上の紙を引き寄せ、魔力の流れや出力を示す記号を書き込み始めた。エリーゼは紙いっぱいに並ぶ見慣れない記号を見つめる。


「それが……術式なんですね」


「そう。魔力をどう流し、どう働かせるかを書き表した、設計図みたいなものだよ」


「設計図……。今のわたくしには、まったくわかりませんわ」


「エリーゼはわからなくていいよ。光魔法を使えるだけでも十分すごいんだから」


「いいえ、わたくしもわかるようになりたいです!」


 思いがけない言葉に、グレンヴィルはわずかに眉を上げた。


「グレンヴィル殿下の夢は、わたくしの生き甲斐になるかもしれないほど素晴らしいものです。だから、殿下がなさっていることを、わたくしもきちんと理解できるようになりたいんです」


 グレンヴィルは一瞬、言葉を失った。術式を教えてほしいと言った女性など、これまで一人もいなかった。まして、自分の夢を生き甲斐にしたいとまで言ってくれた人も。社交界では、第二王子という肩書きに興味を示す令嬢はいくらでもいた。だが、エリーゼの瞳に浮かんでいるのは、そんな打算とはまるで違うものだった。


 自分の研究を知りたい。自分の夢を理解したい。

 そこにあるのは、ただまっすぐな尊敬だった。

 グレンヴィルは、胸の奥がくすぐったくなるような、妙な感覚を覚えた。


「……そこまで思ってくれるの? なら、いろいろ教えてあげるよ。……エリーゼは俺の初めての弟子ってところかな。今まで誰かと一緒に研究するってなかったからね。思いついたら自分でどんどん進めちゃうからさ。弟子なんて作ろうと思ったこともないし。でも、エリーゼとなら面白そうだ。一緒に頑張ろうね」


 嬉しさのまま、グレンヴィルはいつものようにエリーゼをハグしようと手を伸ばした。だが、その手は途中で止まった。


(……あれ?)


 今までなら、こんなことを気にしたことなどなかった。嬉しいときに相手をハグするのは、トリストン王国ではごく普通のことだ。

 なのに今は、なぜかエリーゼに気軽に触れてはいけないような気がした。

 大切なものを扱うときのように、少し慎重になってしまう。そんな感情を誰かに抱いたのは初めてだった。

 グレンヴィルはそんな自分の気持ちの変化に首を傾げながらも、術式を書き終え静かに羽ペンを置いた。


「ひとまず形になった。組み込んでみるね」


 グレンヴィルは新たに術式ペンを手に取る。これは魔力を通す特殊な鉱石をペン先に用いた、術式を書き込むための専用器具だ。手のひらに収まるほどの白い立方体の魔道具の表面へ、ペン先を滑らせた。

 描かれた光の線は消えることなく金属へ染み込み、術式として定着していく。


「よし……魔力を流すよ。」


 手のひらを魔道具へ添え、ゆっくりと魔力を注ぎ込む。一瞬、術式が青白く浮かび上がったが、すぐに揺らぎ、ふっと消えた。

 魔道具は静まり返ったまま、何の反応も示さない。


「駄目か……いけると思ったんだけどなぁ」


「参考になるかどうかわかりませんが、わたくしが浄化の魔法を使う時は、大量の水を一気に浴びせて、丸ごと清めるようなイメージなんです。ポワブール王国に有名な滝があるのですが、あの滝の勢いですべてを押し流すような感じですわ」

「えっ? 術式にイメージを反映させるって新しいな。だったら、水魔法と風魔法を組み合わせて再現すれば……」

 グレンヴィルは何かを閃いたように、勢いよく顔を上げた。


 彼はまたもや、紙の上へ新しい記号を書き加えていった。複雑な術式が次々と組み上がる。 

「よし! できたぞ……これなら大丈夫かもしれない」

 グレンヴィルは先ほどと同じように、術式を魔導具へ定着させると、慎重に魔力を流し込んだ。

 すると、魔導具を淡い光が包み、表面に刻まれた術式が青白く浮かび上がる。しばらくして光が収まると、グレンヴィルは魔導具――魔導浄化器を目の高さまで掲げ、満足そうに微笑んだ。


「完成だ。実際に魔獣を相手にしてみなければ結果はわからないけどね」

「すごいです! グレンヴィル殿下ならできると思っていました。信じていましたわ!」


「ありがとう、エリーゼ。君のお陰だよ」

 いつもならエリーゼをハグするところのはずが、ここでもグレンヴィルはそれができないのだった。


ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

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