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「きゃっ……!」
不意を突かれ、エリーゼは思わず息を呑んだ。
「グレンヴィル殿下。私はトリストン王国の習慣に慣れてないんですよ。いきなり抱きつくのはやめていただけませんか? 本当に心臓に悪いです」
「ごめんよ。エリーゼがそんなふうに言ってくれたのが嬉しくて、つい反射的に……。でも、この国じゃ親しい相手とハグし合うのは珍しいことじゃないんだ。まあ、無理に慣れる必要はないよ。嫌だったら突き飛ばしてくれて良い」
「いえ、突き飛ばすほど嫌というわけでは……」
思わず答えてから、エリーゼは口をつぐんだ。
突き飛ばすほどではない。むしろ、ドキドキする。だから困っているのだ。
(まったく……油断も隙もない方だわ。ハグされる前に避ける方法ってないのかしら?)
その日の夕食の席で、エリーゼは向かいに座るフィリシアに小声で尋ねた。グレンヴィルはちょうど飲み物を取ってくるところで隣にいない。
「フィリシアさん。トリストン王国では、その……親しい方とはよくハグし合うものなのですか?」
「そうね。挨拶でもするし、嬉しいことがあったときなんかも普通にするわよ」
「やっぱり、そうなのですね……」
エリーゼは少し考えてから、声を潜める。
「グレンヴィル殿下も嬉しいことがあるとすぐハグしてくるのです……フィリシアさんにもそうしますか? その時は、どうされているのですか?」
「どうって?」
「その……平気なのですか? あんなに綺麗なお顔をした男性にハグされて、緊張するとか……動揺したりとかはしないのですか?」
「ああ、しないしない。全然よ」
あまりにもあっさり返されて、エリーゼはきょとんとした。そんなエリーゼの顔を、フィリシアは悪戯っぽく見返す。
「だって、グレンヴィル殿下みたいな綺麗な顔は好みじゃないもの。私はもっとこう、がっしりしていて男らしい人が好きなのよね。グレンヴィル殿下って美しすぎて、中性的じゃない?」
「そうなのですか……」
「ドキドキするなら、バートンさんにハグされたときかしら。私、彼が好きなのよ。ふふっ、内緒よ」
そう言ってから、フィリシアは意味ありげにエリーゼを見る。
「女性って、気になる男性のことほど妙に意識しちゃうものなのよ」
「そ、そういうものなのですね……」
エリーゼは曖昧に頷く。
しかし、その話題はお終いというように、スノウが声を上げる。
――ウォフ!
足元から、おかわりを催促したのだ。見れば、スノウの前に置かれたトレイからは、林檎だけが綺麗になくなっている。
「もう、スノウったら。林檎ばかり食べて」
それでも期待に満ちた目で見上げられ、エリーゼは仕方なく林檎を追加してやった。




