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「……第二妃でございますか? 魔力を失ったわたくしが、どのようなお役に立てるのでしょうか?」
「王太子を支える方法は、聖女の力だけではあるまい。フランシスは日々、多くの執務を抱えておる。エリーゼが傍らで手を貸してくれれば、どれほど助かることか」
国王は、エリーゼの不安を和らげるように優しく微笑んだ。
「父上のおっしゃる通りだ。私の執務室に届いた報告書を内容ごとに仕分けたり、必要な資料を揃えたり、目を通すべき箇所をまとめたりするだけでいい。ほかにも、手紙の下書きや視察の日程の確認など、エリーゼに頼みたいことはいくらでもある」
フランシスも、優しい声音で言葉を添えた。
「そのようなお仕事を、わたくしに? 確かに聖女の仕事の合間に王太子妃教育も受けており、フランシス殿下のお仕事の内容も少しは把握しているつもりですが……」
「せっかくの知識を無駄にしてほしくない。第二妃として、エリーゼには日々の仕事を支えてほしい。これからも私の側にいてくれるね? 愛しているのは君だけだよ」
フランシスは変わらぬ愛を誓うようにエリーゼを見つめた。
「フランシス殿下……」
エリーゼは胸が熱くなった。魔力を失っても、まだ自分を必要としてくれる。そう思えたことが、何よりも嬉しかったのだ。
「愛している。一番大事なのはエリーゼだ」といつも口にし、まっすぐな好意を向けてくれたフランシスを、エリーゼは嫌うことなどできない。
そのため、第二妃と言われても腹立たしい気持ちにはなれず、今までと同じように側にいて良いのだと思うと、安堵する気持ちのほうが勝っていた。
それからしばらくは和やかな会話が続き、やがて帰る時間となった。
王たちに挨拶をしてサロンを退出し、マルベール公爵家の馬車が待つ馬車止めへと向かう。その途中、色鮮やかな薔薇が咲き誇る庭園を通りかかったところで足が止まった。 エリーゼの魔力がなくなってから帰る場所は、神殿ではなくマルベール公爵邸だ。
(このまま屋敷へ帰りたくないわ。婚約破棄され、そのうえ第二妃に望まれたと告げたら、お父様やお母様になんと言われるか……)
エリーゼ自身は、国王たちの言葉に納得していた。
魔力を失った自分では、王妃になれない。それでもフランシスの側にいられるのなら、それでいい、と。
だが、両親は違う。マルベール公爵家は筆頭公爵家。由緒ある名門である。その娘が第二妃になるなど、到底受け入れられるはずがない屈辱なのだ。
きっと父は顔をしかめ、「マルベール公爵家の娘として情けない」と言うだろう。
母は、社交界で何と言われるかを真っ先に気にするはずだ。
弟もまた、以前のように笑いかけてはくれず、失望と軽蔑の入り混じった眼差しを向けるに違いない。そう、エリーゼは考えた。
魔力が失われていくにつれ、屋敷でのエリーゼの居場所は少しずつなくなっていった。
今日もまた、冷たい視線と言葉を向けられると思えば、帰る足が前へ進まないのも当然だった。
薔薇の甘い香りが風に乗って漂う王宮の庭園を、エリーゼはあてもなく歩きベンチに腰掛け、ぼーっとしていた。
どれほど時間が経ったのか、不意に聞き覚えのある声が耳に届いた。
「エリーゼが聞き分けの良い、おとなしい娘でよかったですわ。フランシスの初恋はヴィヴィアンですもの」
王妃殿下だ。思わず振り返る。彼らの姿はまだ見えないが、国王たちが庭園へ出てきたのだ。
とっくに帰ったと思われているのに、こんなところで鉢合わせしては気まずい。エリーゼは、とっさに薔薇の生垣の陰へ身を寄せ、息を潜めた。
(フランシス殿下の初恋が、ヴィヴィアン様? 嘘よ。彼は、わたくしが初恋の女性だと言ってくれたわ)
ヴィヴィアンは王妃の姪で、幼い頃から頻繁に王宮を訪れ、フランシスとも仲が良い。それはエリーゼも知っていたが、この二人が恋愛関係にあるなどとは想像すらしていなかった。
「それにしても、生まれつき魔力がない子を産んだ時は、どうしようかと思いましたわ。でも、陛下から魔力移植の話を聞いた時は、本当に安心いたしました」
(……え? 生まれつき魔力がない子? 誰のことを言っているの?)
「遙か昔から伝わる禁忌の魔法だ。エリーゼの魔力をフランシスへ移した。かなり時間はかかったがうまくいったな。この魔法には、奪われる側に膨大な魔力がなければならないという難点があった。だからこそ、聖女であるエリーゼを選んだのだが……まあ、仕方あるまい。聖女はいずれまた現れるさ」
国王が明るい声で答える。聖女を失う国の損失よりも息子を選んだ、と言っているようなものだ。
(魔力移植……? わたくしの魔力を……移した? フランシス殿下へ?)




