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「エリーゼ・マルベール公爵令嬢……私は君に、婚約破棄を告げなくてはならない」
フランシスはそこで言葉を詰まらせ、苦しげに息を呑んだ。
黄金のように輝く金髪に、澄んだ碧眼。多くの令嬢が一目見るだけで頬を染めるポワブール王国の王太子だ。
けれど今、その端正な顔には見る影もないほど深い悲しみが滲んでいた。眉根を寄せ、何かに耐えるように唇を引き結ぶ。エリーゼを見つめる碧眼は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「……ごめんよ、本当に、すまない……」
絞り出すような声だった。
婚約を破棄されたのはエリーゼのはずなのに、まるで自分のほうが捨てられたかのような顔をしている。
「だが……これだけは信じてほしい。私の心の中にいるのはこれまでも、これからもエリーゼだけだ。君を愛する気持ちは、何ひとつ変わらない」
その言葉や眼差しに、嘘があるようには見えなかった。
エリーゼは思わず「そのようなお顔をなさらないで」と言って抱きしめたくなったほどだ。
「エリーゼ、あなたのことは実の娘のように思っていたのですよ。わたくしも、本当に心を痛めているのです。あなたが王太子妃となる日を、どれほど楽しみにしていたことか……。けれど、魔力を失ってしまった以上、それは叶いません。どうか、わかってちょうだいね」
王妃は申し訳なさそうに眉尻を下げ、そう告げた。
この国では、すべての子どもが七歳になると魔力測定を受ける。
そこでエリーゼは、膨大な魔力と光魔法の才能を認められ、聖女に選ばれた。
それ以来、神殿で聖女としての務めを果たし、同じ七歳の年にフランシスの婚約者となった。しかし、彼女の魔力は年々減少し、十八歳となった今では、すっかり失われてしまった。
その結果、王家の下した結論がこの婚約破棄だった。
魔力が日に日に失われていくことに、エリーゼ自身も不安を抱えていた。なので、この話はどこかで覚悟していたことでもある。
ポワブール王国では、王族も貴族も魔力の強さを何より重んじる。
魔力を失ったエリーゼが王妃として相応しくないと判断されるのも、仕方のないことなのだ。
「……はい。そのようなご判断になるのも、当然のことでございます。では……わたくしはこれで失礼いたしますわ」
婚約当初から、フランシスはいつも優しかった。聖女の務めに追われ王太子妃教育で心身ともに疲れ果て挫けそうになった時も、誰よりも近くで励まし支えてくれた。
だからこそ、王妃になれないこと以上に、もう彼の隣にいられないことが何よりも辛かった。
込み上げる涙を必死に堪えながら、エリーゼは美しいカーテシーを披露する。一刻も早くこの場を去らなければ、人前で泣き崩れてしまいそうだった。
踵を返し、王宮のサロンを立ち去ろうとした時だった。
「待て、まだ話は終わっておらぬ。エリーゼは聖女としてよく務めを果たし、王太子妃教育でも極めて優秀であった。それにフランシスも、そなたを心から愛しておる。そこでだ。我が国に新たに第二妃という身分を設け、エリーゼを迎えようと思う。さすれば、そなたはこれからもフランシスと共にいられる」
ポワブール国王はエリーゼを見つめると、まるで特別な褒美を授けるかのように、穏やかな口調で告げた。
これはエリーゼにとって青天の霹靂だった。
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