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しばらくすると複数の足音が聞こえ、煌びやかな服を纏った男性が現れた。両脇に近衛騎士が控えている。
グレンヴィルと同じく銀髪に琥珀色の瞳だが、顔立ちは似ているようで受ける印象はがらりと違う。
グレンヴィルは柔らかな雰囲気で優しく知的、ふとした仕草が色っぽく中性的な美麗さがある。
一方、ジェイムズは凜々しいが、美しさはグレンヴィルに遠く及ばない。どこか神経質そうで傲慢な印象だった。
「やあ、弟よ。まだ魔獣と共存などという夢物語を追いかけているのか? いいかげん、諦めろよ」
揶揄するような口調で、唇の端をつり上げた。
「今ちょうど突破口を見つけたところなんだ。邪魔しないでくれるかな」
グレンヴィルは眉根に軽く皺を寄せ、シッシッと追い払うように手を振った。仲が良くないのは一目瞭然だ。
「突破口だって? ん? この女性は……ポワブール王国の聖女、エリーゼ嬢ではないか? なんでこんなところに。しかも隣にダイアウルフ?」
エリーゼは自分のことが知られていることに青ざめた。
「昨日から、エリーゼはここの研究員になったんだよ。このダイアウルフはスノウで彼女の友だち。エリーゼ、こちらは俺の兄、第一王子のジェイムズ。こうしてたまに研究所へ来ては嫌みを言って帰るんだ。気にしなくていいからね」
「気にしなくてって……そういうわけにはまいりません。トリストン王国の誇り、白銀の獅子たるジェイムズ第一王子殿下にご挨拶申し上げます。ところで……なぜ、わたくしのことを知っていらっしゃるのですか?」
「友だち? ……ダイアウルフを手なづけたのか。流石は聖女様だな。なぜ知っているかって……ポワブール王国とは一応友好国だからね。去年のあちらの建国祭に父上の代理で出席したのは私だ。その時、フランシス王太子の隣に君はいたな? 確か彼と婚約もしていたはずだが……なぜこんな所にいるんだい?」
面白がっているような視線が痛い。エリーゼの指先が冷たくなり微かに震えた。
「わ、わたくしは……そのぉ」
エリーゼは口ごもり、それ以上言うべき言葉が見つからなかった。気まずい沈黙が流れた。見かねたグレンヴィルが声をかける。
「エリーゼ。言いたくないことは言わなくて良い。兄上も失礼だろう? 彼女にはきっといろいろな事情がある。誰にも踏み込む権利なんてないよ」
グレンヴィルはわずかに目を細め、兄を制するような視線を向けた。
「ああ、まあそうだな。エリーゼ嬢、失礼した。謝るよ」
「ということで、もう帰ってくれよ。父上は俺の提案を受け入れて、魔獣の討伐を三年間保留にしてくれた。その間に、俺は共存が可能だって証明する。兄上につきまとわれるのはうんざりだ」
「ああ、父上は甘いからな。だが、俺が即位したら魔獣なんて一掃してやる。あいつらはこの世に存在してはいかんのだ」
「そんなことはありませんわ! 魔獣にだって生きる権利はあります。この世界は人間だけのものではありません」
エリーゼは思わず二人の会話に割り込んだ。
「ふーん。……やはり聖女様の心は、優しく清らかなのですね。ところで、こんな研究所などにいないで、私のところにいらっしゃいませんか? 実は私には婚約者がまだいません。ぜひエリーゼ嬢を妃に迎え……」
いきなり腕をぎゅっと掴まれ、エリーゼはぞくりと背筋が寒くなる。先ほどグレンヴィルに触れられた時とは、まるで違う嫌悪感だった。すると、研究室の空気が、ぴんと張り詰めた。ひやり、と頬を撫でる冷気に思わずエリーゼは息を呑む。床や机の縁が白く曇り、ガラス器具の表面には薄い霜が広がっていた。
「……兄上」
静かな声だった。だが、低く抑えた声音には隠しきれない怒気が滲んでいる。琥珀色の瞳は笑っていない。
「その手を放せ」




