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目の前には高い石壁がそびえ、それが広大な敷地を取り囲むように左右へ長く続いていた。その一角には大きな門が設けられている。
一行が門へ近づくと、門番の騎士たちが一斉に姿勢を正した。
「グレンヴィル殿下、お帰りなさい!」
「ただいま。いつもご苦労様! 今日は暑いからさ、ちゃんと水分を取って、交代で休んでいいからね」
「はい! ありがとうございます、グレンヴィル殿下!」
騎士たちに向ける口調も、エリーゼに話しかけるときと変わらない。王子とは思えないほど気さくで、親しみやすい。
(もしかして、わざとなのかしら。身分に関係なく交流しやすいように、あえてこんな話し方をしているのかも……)
そう考えると、王族らしくないと思っていた彼の話し方も、少し違って聞こえてきたのだった。
門をくぐると、研究施設の全貌がはっきりと見えてきた。
白い石造りの建物が何棟も並び、その間を多くの職員が忙しそうに行き交っている。
大きな扉が開け放たれた工房では、職人たちが金属を加工している様子が見えた。
その隣では革製品が作られ、さらに別の工房では、色とりどりの生地が織られている。
敷地のあちこちには見たこともない魔導具が設置され、淡い光を放っていた。
「これが……研究施設なのですか? あの敷地にある魔導具はいったいなんですか?」
「あれは魔獣が入ってこれない結界を生み出している魔導具だよ。凶暴性のない穏やかな魔獣は、はじかないように設定している。ここにあるものはすべて俺が開発したものさ」
「……すごい」
てっきりエリーゼは、もっと小規模な建物で数人の研究者が研究を続けているものだと思っていた。けれど、目の前に広がる光景はまるで一つの町のようだった。
ポワブール王国にも王立の研究所は存在する。だが、ここまで設備が整えられている場所はない。
まして結界などは、ポワブール王国では聖女しか使えない魔法なのだ。
「俺の研究について説明するよ」
グレンヴィルは歩きながら、施設について説明してくれた。
ここでは魔獣との共存について研究するだけでなく、魔導具の開発も行われている。
トリストン王国では、魔法を使えるのは王族だけだ。そのため、民の暮らしを豊かにするための魔導具の開発に、グレンヴィルが力を注いでいるという。
エリーゼはグレンヴィルの説明を聞きながら、なるほど、と頷いた。
「あ、エリーゼが持ってる魔導収納バッグも、俺が開発したものだよ。ここで作ってるんだ。使ってくれてありがとう。なかなか便利だろう?」
「えっ!? ……こ、これを開発したのもグレンヴィル殿下なのですか?」
エリーゼは驚いて、肩に掛けていた魔導収納バッグへ目を落とす。
「すごい……。天才ですわ」
そのとき、こちらへ駆け寄ってくる白衣姿の女性がいた。彼女はグレンヴィルの傍らを歩くスノウに気づくと、驚いたように声を弾ませる。
「すごい! グレンヴィル殿下、ダイアウルフと仲良くなれたのね! 素晴らしいわ」
穏やかな笑みが印象的な女性で、白衣姿にもどこか親しみやすさがあった。
「いや、フィリシア、違うんだよ。開発中の魔導具はグレートイーグルにはまったく効かなくてさ。襲われそうになったところを、こちらの聖女様に助けてもらったんだ。いやぁ、危機一髶だったよ。聖女様の名前はエリーゼ、この子はスノウ。今日から俺たちの仲間だよ 」
「え!? 聖女様ですって? じゃぁ、浄化の魔法でダイアウルフやグレートイーグルを落ち着かせたの?」
フィリシアはダイアウルフの様子を確かめるように観察した。
「この子はとてもおとなしいし、栄養状態も良いみたいね。私は医師のフィリシアよ、よろしくね。ここで働く人たちの健康管理が主な仕事なの」
フィリシアはにっこりと微笑み、エリーゼへ向かって軽く会釈した。エリーゼも慌てて頭を下げる。
「また夕食のときに会いましょう」
そう言い残すとフィリシアは、もと来た方向へ戻っていった。
グレンヴィルは建物のひとつを指さし、居住スペースだと説明する。一階は食堂になっており、二階から四階がここで働く人たちの居住区画になっていた。
グレンヴィルに続いて階段を上がり、廊下を進んでいくと、彼は一つの扉の前で足を止めた。
「ここがエリーゼの部屋だよ」




