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「確かにその通りですわ。魔獣を殺すだけでは可哀想ですよね。スノウも私を助けてくれましたし、今では友だちのように思っていますもの」
グレンヴィルは驚いたように一歩前へ出た。
「えっ!? 魔獣が人を助けた!? 本当かい!? 詳しく聞かせて! ちょっと待って、順番に話して! すごいなぁ。魔獣と友だちになれた最初の人間が君ってことか……俺はその可能性を何年も研究しているんだよ」
「研究……?」
「そう。人と魔獣がお互いに利益を得ながら生きていける方法、共存できる世界を実現したい」
言葉は止まらなかった。
「力の強い魔獣はたくさんの荷を運べる。翼を持つ魔獣なら、人を乗せて長い距離もひとっ飛びだ。人間は安全な住処や十分な食料を彼らに分け与える。敵同士ではなく、仲間として生きられる方法が、きっとあるはずなのさ」
エリーゼは隣に立つスノウを見つめた。尻尾を揺らし、信頼しきった目でこちらを見返している。
この子と共存できる未来ならぜひ見てみたい、エリーゼはそう思った。
「……そんなこと、本当にできるんですか?」
「だから魔導具をいろいろ作って研究しているのさ。さっきは、グレートイーグルの鳴き声を分析して、『俺たちは敵じゃない。仲良くしよう』という意味だと考えた鳴き声をこの魔導通信録音器で再現してみたんだ。でも、どうやら解釈が違ったみたいで、かえって興奮させちゃった。この森を抜けたすぐ近くに研究施設があるんだ。魔獣と共存する方法を探し続けている場所だ。良かったら、君も働かない? いや、ぜひ協力してください!」
グレンヴィルは真剣な表情で片膝をつき、エリーゼへ手を差し出した。
グレンヴィルの言っていた夢の世界とは、魔獣と共存できる世界のことを言っているのだとわかり、エリーゼはホッとするものの、誤解されやすい表現をする人だなと少しだけ思ってしまった。
今も恋い焦がれる女性にするように跪き、自分と一緒に働いてくれなどと言っている。
(きっといちいち大袈裟な表現をする人なのかもね……)
エリーゼは他に行くあてはない。
もう恋愛は懲り懲りなので、なにか仕事を見つけて自分の力で生きていきたいと思っていたから、好都合だ。
それにスノウたちのためになるなら、これが自分の天職になるかもしれない。
「……その研究、本当に魔獣を傷つけずに共存することが目的なんですよね?」
「もちろんだよ。」
「それなら、お手伝いさせてください」
「やったぁ。これからよろしくね」
そう言いながらグレンヴィルが勢いよく抱きついてきた。
「きゃっ!?」
エリーゼは、すっかり動揺してグレンヴィルを見上げた。
「なっ、なにをするんですか! 私たちは初対面ですよ!?」
「ごめん。つい嬉しくて。トリストン王国では、挨拶や久しぶりの再会、それに嬉しいことがあったときなんかにハグをする習慣があるんだ。 恋人同士の抱きしめ合うとは意味が違う」
「そ……そうなのですね。私の国では男女で抱き合うのは特別な関係なので、少し驚きました。そうですか。普通なのですね……けれど、こういうのは困ります!」
「俺を男だと思わないで、仕事仲間だと思えばいいよ。俺も部下を女性と意識したりしないし」
そう言いながら、グレンヴィルはスタスタと前へ進んでいく。それに続いて、エリーゼも魔の森を歩き始めたが、どうにも釈然としない。
(男性と思わないでと言われてもね……戸惑ってしまうわ。それにしても、ずいぶん変わった方だわ)
グレートイーグルは大空へ羽ばたき去って行き、スノウは当然のようにエリーゼの隣を歩いていた。
「この子も一緒に来るみたいだね。大歓迎だよ」
「ありがとうございます。私の名前はエリーゼ、この子はスノウです」
「了解! エリーゼ、スノウ。よろしくね」
呼びかけられたスノウは、尻尾をゆっくり揺らしながら一声鳴いた。しばらくエリーゼたちは一列になって歩いていく。やがて木々がまばらになり、目の前がぱっと開けた。
「着いたよ。ここが俺の研究所」
「えっ……」
エリーゼは、思わず息を呑んだ。




