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ヒグレのクニ  作者: L
三章 コグマ―のあつまれ!つぎはぎの森
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四十三夜「クマさんは一人①」

看板が立っていた。

『寂しさ』。

先ほどと同じような看板だ。

レイたちには、その言葉が何を意味しているのか、いまひとつ汲み取れなかった。


「なぁ。わざわざスタンプラリーにするのは、なんでだ?」


天谷が尋ねる。


「ふぅん。お前ら、さっきも言ったけど律儀だよなぁ」


毒島は頭を掻いた。

面倒そうに溜息をつきながらも、結局は話に付き合うつもりらしい。


「いいぜ、乗ってやる。どうせスイカも、こういうのを楽しみながらやるタイプだろ。先にいってんだろうしな」


そう言って、毒島は周囲を見渡した。


「ヒグレのクニは、クニの主の心象風景だ。だから、そこにある物事には全部意味がある」

「……全部?」

「そう。お前らも経験あるんだろ?」


毒島がレイたちを見る。


「前の主は、どんなクニだった?」

「……ビル群でしたね」


氷月が答える。

レイも、あのクニを思い出した。

ひたすらテレビが並んでいたビル群。

無機質な街並み。

その先にあったステージ。

そして最後に現れた、ラブの怪物。

無貌のドレスの女性。

あの姿を思い出すといまでも寒気がする。


「テレビとか、泥の怪物だったかな」

「随分と歪なクニに行ったもんだな」


毒島は苦笑する。


「まぁ、簡単に説明するなら……クニには大きく分けて、『拒絶型』と『受容型』がある」


聞き慣れない言葉だった。


「拒絶と……受容ですか」

「あぁ。ざっくりだけどな」


毒島は指を二本立てる。


「八割が拒絶で二割が受容、ってこともあれば、その逆もある。まぁ要するにクニの主が、外から来たものを受け入れるか、拒むかって違いだ」


氷月が確認する。


「では、毒島さんの感覚でいうなら……ここは『受容型』?」

「そう。ビンゴ」


毒島が指を鳴らす。


「こいつは、ルールを使ってクニに訪れた奴を案内するタイプなのさ」


そう言って、毒島はスタンプラリーの一つ目の看板を指差した。


『寂しさ』。


「逆に『拒絶型』なら、クニに入った瞬間、真っ先に敵と相対することもある」

「……」

「お前らは、前のクニに入った時はどうだった?」


レイは、ラブのクニに入った時のことを思い出した。


ビル群を少し歩いただけだった。

それなのに、すぐに泥の怪物と出会った。


「確かに……クニの『住民』と会いました」

「なら、そいつは『拒絶型』だったって話だ」


毒島はそう言って、再び歩き始めた。

レイはもう一度、看板を見る。

『寂しさ』。

このクニでは、これすらも何かの意味を持っている。

そう考えるとさっきまで意味不明だったスタンプラリーが、少しだけ違って見えた。


「それにしても森ねぇ……あんまり森っていうのは想像がつかねぇな」


天谷が周囲を見渡す。

確かに、ラブのクニがビル群だったことを考えれば、この森にも必然的な意味があるはずだ。


「……鹿……熊……とか?」

「随分とワイルドなクニの主ね」


天谷の連想に、氷月が呆れたように額を押さえた。

だが、レイは今の天谷の言葉に、何かが引っかかった。


「あ、あのさ!」


レイが声を上げる。


「ラブのクニで会った……あの男の子! コグマー!」

「……あっ」


氷月が目を見開く。


「あーーーー」


天谷も、ようやく思い出したらしい。


「え? なに? お前ら、もしかして知ってんの?」


毒島が怪訝そうに三人を見る。


「ええ。僕ら、前のクニの主と戦ったときに……強い敵と会ったんです」


レイの脳裏に、あの姿が蘇る。

中性的な顔立ち。

どこか幼さを残した身体。

そして、大切そうに抱えていた熊のぬいぐるみ。

一見すれば、ただの少女にしか見えなかった。

けれど、その正体は、決して普通の人ではなかった。


「コグマー……」


レイが、その名前を呟く。

あのときは敵だった。

ラブのクニを守るように立ちはだかった、強大な存在。

『パッチワークモンスター』。

大量のぬいぐるみを生み出し、それらを自らの兵士として操る能力。

あのとき、いったい何体のぬいぐるみを相手にしたのか。

思い出すだけでも、ぞっとする。


「……森」


レイは、もう一度周囲を見渡した。

どこまでも続く木々。

重なり合う枝葉。

その向こうには、薄暗い森の奥が続いている。

もし、この森にもクニの主の心象が反映されているのなら。


「もしかして……コグマーと、何か関係があるんじゃ……」

「おいおい」


毒島が口を挟む。


「まだ決まったわけじゃねぇだろ?」

「……そうですけど」

「そいつは、どんな能力なんだ?」

「ぬいぐるみです」


レイは少し考えてから答える。


「熊のぬいぐるみを生み出して、それを操って戦うような能力で……」

「ふーん。なるほどなぁ」


毒島は顎に手を当てる。

何かを考えているようにも見えたが、それ以上は何も言わなかった。

ただ、ゆっくりと森の奥へ視線を向ける。


「だったらさ」


毒島が、口元をわずかに吊り上げた。


「答え合わせに行ってみるか?」


そして、先ほどの看板を指差す。


「まずは一つ目のスタンプラリーだ」


森を進んでいくと、開けた場所に出た。

そこには、五体のぬいぐるみが並んでいた。

どれも大きさはほとんど変わらない。

けれど、種類だけが違う。


うさぎ。

ねこ。

いぬ。

きつね。

そして――クマ。


それぞれの胸元には、小さな名札がついている。


『うさぎさん』

『ねこさん』

『いぬさん』

『きつねさん』

『クマさん』


「……ぬいぐるみ?」


天谷が目を細め、じっと睨みつける。

だが、近づこうとはしなかった。

罠かもしれない。

あるいは、あのぬいぐるみ自体が攻撃手段なのかもしれない。


「賢明な判断ね。貴方にしては賢いわ」

「はぁ!? なんで俺、煽られたの!?」

「二人とも、今はちょっと……」


レイが二人を制しながら、改めて周囲を見渡す。

ぬいぐるみの他には、古びた黒板と机が置かれていた。

どこかの小学校を、そのまま森の中に持ってきたような光景だった。


「……うーん。読めんな」

「何が起こるんですかね?」

「今は待ちだ」


毒島が、ぬいぐるみたちを見つめながら答える。


「スタンプラリーのルールに違反した場合、何が起こるのか分からねぇ。迂闊に触るのはやめとけ」


レイは五体のぬいぐるみを見た。

なぜだろう。

その五体が並んでいるだけなのに、ひどく嫌な感じがした。

まるで、誰かの記憶を切り取って、ここに並べているような。


「……何か、始まるのかな」


その瞬間。

カタン。

誰も触れていないはずの黒板から、小さな音が響いた。

五体のぬいぐるみが、ゆっくりと動き始めた。



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