ゲームタイム②
ゲームをダウンロードしていく。
「ハンドルネーム?なにそれ?」
レイにとって、それはあまり聞き馴染みのあるものではなかった。
少なくとも高校生活のなかで、ハンドルネームというものが必要になる機会はなかったのだ。
「うん、ネット上での名前みたいなものかな。【穴掘りモグラ】とかまさにそれでしょ?みんな偽名を使うの」
「名前ねぇ……」
自分自身の中で咀嚼する。
なるほど。
確かに本名でやる必要はない。
あえて名前をつけて、匿名という仮面で楽しんでいるのか。
だが、あまりこういったものに触れてきたことはない。
どのようなものをつかえばいいのだろうか。
「ゲストでも遊べるけど、アカウントは作っといた方がいいよ。信用されやすいし。なにより蹴られない」
彼女の語る言葉には説得力があった。
数多のオンラインゲームを通ってきた経験だろう。
「いままでどんなゲームしてきたの?」
「…………いえないぐらいには」
やめよう、なんか地雷な気がする。
「ぷそ煮とかってわかる?メイプルとか」
「煮?メイプル?」
「やっぱいいや!!」
逆に気になるだろうが。
一体彼女は何を通ってきたのだろうか。
「ソノは?」
「sonarって名前でやってる」
うーん、判断しづらい。
英単語ひとつってやっぱり無難なのかな。
「……僕の名前はなににしよう」
中々思いつかない。
ネーミングセンスなんて自分にはあると思えない。
白さんの名前でも借りるか?
ホワイト?
うーん、単純。
安直すぎる。
「ソノがきめてくれるかな?よくわからないや」
「じゃあ【†エンドレスゼロ†】さんにしよう」
「待て」
いくら自分でもそれはまずいとわかる。
あれだな。
右手がうずくてきな。
「……え?」
にやにやしている顔が、画面越しで伝わる。
こいつ、確信犯だ。
「わざとやってる?」
「うん」
声が弾んでいる。
「うんじゃないんだよなぁ」
「その名前にする?」
「いやだ」
「なにっ」
ぴこーんと通知音がなる。
ゲームのダウンロードが完了したようだ。
「ダウンロードが完了ってでたけど」
「おっ、早いねぇ。まぁ三人制のfpsだからそんなに固くならないでね。カジュアルマッチだし。みやこはそんな切れるひとじゃないから」
「へぇ……まぁ、ソノに任せるよ。あまり口ださないようにする」
「うんうん、基本的に意図的な不愉快な言動でなければいいよ。わたしが援護するから!」
「ははっ……まぁ頼りにするね。ソノ」
「……っぅ。うん!頼りにしてね」
ゲームのダウンロードが終わると、画面にはログイン画面が表示された。
「おっ、できたね」
先ほどの時間で、登録したアカウントを入力する。
名前は「ZERO」。
まぁ、ソノと似たようなものだ。
本名にゆかりのあるものを微妙に取り入れただけの英単語。
いくらでも誤魔化しようがある。
「じゃあフレンド登録するから、このID検索して」
ソノから送られてきた文字列を入力すると、アッシュグレーの狼のアイコンが表示される。
「これがソノ?」
「ソノダヨー」
「いや知ってる」
思わず吹き出すと、ソノは小さく笑った。
「招待送るね」
通知を開くと、そのままロビーへ移動する。
そこにはもう一人、小柄な少女のアバターが立っていた。
「この子がみやこ。わたしのゲーム友達」
「はじめまして、ゼロです」
少し緊張しながら挨拶する。
心臓バクバクだ。
オンラインなのに、なぜか高揚感がある。
「よろしくー。ソナから話は聞いてるよ。初心者なんだって?」
ボイスチェンジャーをつかったノイズの入った声。
だがどこか穏やかな声に肩の力が抜ける。
「うん。今日は操作も怪しいと思う」
「大丈夫大丈夫。カジュアルだし、最初は撃たれて覚えるゲームだから」
「ひどい説明だなぁ」
「事実だもん」
笑うソノにつられて、レイも苦笑する。
「じゃ、三人そろったし行こっか。わたしが援護するから、ゼロは好きに動いて」
「了解。……頼りにするよ、ソナー」
一瞬だけ息をのむ気配。
「……うん!」
少し弾んだ返事とともに、三人の最初のマッチが始まった。
マッチが始まると、三人は近未来的な街へ降り立った。
耳元では銃声と爆発音が途切れることなく響いた。
レイは思わず身を縮める。
「うぉ……なんか酔うな」
「うわー初心―。かわいいーゼロきゅーん」
ボイスチェンジャー越しだが、その人物が心からそう思っていることが伝わった。
「ゼロ、焦らなくていいよ。わたしの後ろついてきて」
ソノの声に導かれるまま路地を進む。
角を曲がった瞬間、敵の姿が視界をよぎった。
「いたっ!」
赤い輪郭が一瞬だけ壁の向こうに見えた。
慌ててマウスを動かす。
しかし、敵ではなく天井に向かって弾をばら撒いていた。
「大丈夫、初めてはみんなそんなもんだって」
その直後、ソノが軽やかに敵を倒し、みやこが援護射撃を重ねる。
息の合った二人の連携に圧倒されながら、レイは深く息を吸った。
もう一度ライフルを構える。
「っ!!?」
後ろからの攻撃に気が付かなかった。
あっという間に、hpバーが削れる。
「落ち着いて、ドーム張る」
何もない場所に、半透明の壁が展開された
「バッテリー使用して、十字キーおせばいいから」
結果は、惨敗。
なんかよくわからないうちに、死んでいた。
「あちゃー、まぁしかたないねぇ。これも醍醐味よ」
「ゼロくん、今の動きは百点中三点!」
「低い!」
ぼろぼろじゃないか。
「でも初戦なら百点!」
「一緒にやってて楽しければいいの」
うん、意味が分からない部分は多々あったが楽しい。
チームワークや連携。
これらの部分は、ヒグレのクニでの戦いと共通するかもしれない。
「うーん、落ち着くためにちょっと休憩するか。最初のマッチして疲れたでしょ?」
「あー、そうだ。今日はみやこにききたいことがあったんだ」
「うんうん、なにかなー?」
「【穴掘りモグラ】ってどんな人だった?」
今回の本題。
ようやく本筋にはいった。




