FRAME01「日比野ソノ」
Character Story #01
本編では語られない、彼らの心に触れる短編シリーズ。
第一弾は、日比野ソノ。
「レイって据え置きのゲームとか、パソコンぐらいはもってるよね?」
「……まぁ」
いままで天谷としかやる機会のなかったものだ。
起動ボタンをぽちっと押す。
バイトや、お年玉をコツコツとためて買ったもの。
だが、fpsを最低限やるには十分だろう。
ファンが回っていく音が広がる。
「ゲームする前にひとついい?」
「ん?なんだ?」
ソノの言葉は、いつもより慎重な気がした。
何かを気遣うような。
これをいったら何かが壊れるのではないか。
そんな躊躇いだった。
「私ね、今でもラブちゃんのことすき」
「……」
まぁ、そうだろう。
僕らにとってのラブは敵だ。
初めてのヒグレのクニの主。
そして多くの行方不明や意識喪失を生み出した張本人。
決して善人であるとはいえない。
「別に文句はないよ」
「……そんなことないでしょ」
「……」
一瞬の沈黙が起きた。
「天谷君もかなり複雑な顔をしていたし、凛ちゃんだって肯定したわけじゃない」
「まぁ、そうだね」
「箱根さんからはそれは依存だと指摘された」
「……」
あの人もそんなことをいうんだ。
でもまちがっていない。
日比野は、ラブに依存している。
初めてであったそれを「特別」だと勘違いして。
お互いの傷を舐め合っている。
それはきっとラブも同じはずだ。
心から自分のことを褒めてくれたファン。
それを超えたなにか。
それを「特別」だと依存しただけ。
ソノが言わなければ、また別の誰かだった。
それだけの関係。
久遠にはそう思えた。
「最後に、ラブちゃんは私に力を渡してくれた。その中身がなんなのか。今でも自分でもわかっていないけど。最後の彼女は心から私のことを思って。プレゼントを渡してくれた」
「うん」
何も反論できなかった。
あの瞬間、あの場所でおきたのは二人だけの空間だった。
ソノは涙ぐんでいた。
「否定できないよっ……キライになれない。彼女が最終的に人間をやめて人を害するものであっても私にとっては大好きな人なんだもんっ……」
「それでいいと思うよ」
「えっ……?」
驚いたような息遣いが聞こえた。
「愛とか依存とか、呼び方はいろいろある。でもさ」
少しだけ言葉を探す。
久遠の言葉は、日比野にとって予想外のものだった。
「愛とかさ、距離感とかはいろいろあるけど。あの時、君ら二人に嘘があったとは思えない。そんな心からの関係を否定するほど僕は愚かではないよ」
「……っ!」
受話器の向こうで、小さく息を呑む音がした。
「……ありがとう」
その一言だけで十分だった。
ソノは、心からの感謝を久遠に述べた。
「……うん」
それ以上いわなかった。
ただ受け止めた。
過剰な言葉はいらないと気が付いていた。
「話、変わるんだけど……結局ラブちゃんの話なんだよね」
「聞くよ。いや聞かせて」
「昔ね、犬を飼ってたの。茶色い柴犬」
脳裏に、よくある和風の柴犬が浮かぶ。
「名前はポチだったんだけど、私だけ勝手にポチタローって呼んでた」
「ははっ……」
思わず少し笑ってしまう。
ソノは可愛らしいセンスを持っていたようだ。
「みんな不思議がってた。でも私は、それだけで幸せだった。ポチタローは宝物だったから」
優しい声だった。
「愛情って宝物なんだね。ずっと残るんだ。あげたことも、もらったことも、忘れられない」
小さく笑う。
「ラブちゃんも、一緒なんだ」
言葉が出なかった。
過去に縋っているのかもしれない。
でも、人は誰だって、大切だった誰かを簡単には手放せない。
「あはは……私、何が言いたいんだろ」
「伝わったよ」
その一言だけ返した。
少しの沈黙。
「……ほんと?」
ソノはきき返した。
だが、その内面には疑心は宿っていなかった。
「……うん!そうだよね」
小さく笑う声が聞こえた。
笑っている。
それなのに、泣いているのも分かった。
笑いながら泣いている。
ソノは随分器用なようだ。
「ああ……そうだよ」




