ゲームタイム
「うわぁ……」
すぐ目を覚まして、頭を抱えた。
白さん相変わらず一方的すぎるだろ。
「なんでこっちからは、意図的に夢を見ることができないのにアッチから斬ることはできるんだよ……悪質すぎるだろうが」
そんなことを悪態つきながらも、朝起きた。
「白。白さんね……」
昨夜見た彼女の笑みが、頭から離れない。
自分は彼女に名前を与えた。
それが、何か取り返しのつかないことをしてしまったような。
そんな不思議な感覚として胸に残っていた。
今日は休日だ。
何をしようか。
そんなことをぼんやりと考えていると、スマホが通知音を鳴らした。
「うん?」
名前を確認した。
いつもならそれは天谷の連絡だ。
だが、それは違っていた。
「日比野さんから……?」
届いていたのはゲームの誘いだった。
さらに続けて、『電話かけてもいい?』というメッセージも送られてきている。
すぐに了承すると、ほどなくして着信が鳴った。
「日比野さん?体は大丈夫?」
「うん、なんとか、百合さん……って人のお陰かな?疲労感なんかはかなり薄れてきているよ」
「へぇ?」
やっぱり回復能力って結構ずるいな。
まぁ、日比野は拘束期間もあったのだから猶更だろう。
百合さんの力は、日比野の体を順調に癒していたようだ。
「ていうかさ……久遠君?」
「ん?なんだ?」
「日比野さんじゃなくて、ソノでいいよ。もう私たち仲間でしょ?」
「……はい」
なんか圧を感じるな。
ここで素直に従わないと、痛い思いをみそうだ。
「その……よろしく。ソノ」
「うん、わたしもレイって呼ぶから。文句ないよね」
いや圧がすごい。
これ、反論したら絶対怒られるやつだ。
「あっ……うん。わかった」
素直に頷く。
こういうときは余計な抵抗をしない。
男子として生きてきた経験が、それが最善だと全力で訴えていた。
「もっと感激してほしかったけどなぁ」
電話越しでも、いかにも唇を尖らせているソノが、想像できた。
「女子からそう言われるのなんて初めてでどう反応すればいいかわからないよ」
「……そっか。初めてか」
少しだけ沈黙が流れる。
「……ふぅん。ならいいよ。許してあげる」
彼女の琴線に触れることには成功したみたいだ。
何がどう「ならいい」のかはさっぱりわからない。
それでも、どうやら彼女の機嫌はよくなったらしい。
「穴掘りモグラについて私も調べてみたんだ」
「まぁ、僕らの敵だからね。必要だと思う」
まさか夢から覚めて最初に聞く話が、それだとは思わなかった。
……そういえば。
昨日、白さんも"穴掘りモグラ"という名前に妙にこだわっていた。
もしかすると、この名前自体に意味があるのかもしれない。
「……ひとついいかな?」
「ん?どうしたの?」
唐突の質問に、ソノは不思議な様子だった。
でも、どうせだしここで聞いてしまおう。
「【喧嘩しないモグラ】って、何だと思う?」
「……え?」
「いや、モグラの生態の話。穴掘りモグラって名前をわざわざ付けた理由が気になってさ」
少しの沈黙。
それからソノが、小さく「ああ」と納得したように言った。
「実は私も気になって調べたんだ。普通のモグラについて」
「どうだった?」
「モグラってね、縄張り意識がすごく強くて、基本的には一匹で生活するんだって。同じ巣に二匹いると喧嘩しちゃうらしいよ」
「……一匹、か」
その言葉が妙に引っかかった。
もし「モグラ」という名前が、生態になぞらえて付けられたものだとしたら――。
穴掘りは、「日暮れのクニの発生」。
日暮れのクニを生み出す役割。
なら、モグラという名前にも意味があるはずだ。
モグラは……。
「……モグラは一匹じゃない?……ハンドルネームによって解釈を委ねている?」
「……まぁ、あり得るんだろうね」
ソノはすぐには否定しなかった。
「でも、それだけで決めつけるのは危ないかな。【穴掘りモグラ】っていう組織名なのかもしれないし、複数犯がそう名乗っているだけかもしれない」
ソノらしい考え方だった。
一つの可能性に飛びつかず、別の可能性もきちんと残しておく。
なんか僕より遥かにマルチタスク得意そうだしな。
「……確かに」
名前だけで正体までは断定できない。
それでも、敵の名前に意味があると考えるなら、一人で活動している可能性は頭の片隅に置いておく価値がありそうだった。
「……【穴掘りモグラ】が投稿してた掲示板、その周辺を探るっていう方向性もありかもね」
「うん。そのことなんだけど」
「ん?」
少しだけ声色が変わる。
何か思い出したような口調だった。
「ミヤコって人、覚えてる?」
「……ああ」
暴走列車みやこ。
あの掲示板で、ひときわ癖の強いハンドルネームだった。
「実は、私のネッ友なんだよね」
「え?」
思わず聞き返してしまう。
あの天谷がひたすら大爆笑していたハンドルネーム。
「かなり癖の強い人だから、個人的に通話したこととかはないんだけど。FPS……というか、銃を使うゲームで知り合ったんだ」
そういう繋がりだったのか。
ゲーム仲間。
言われてみれば、不思議ではない。
「そのミヤコが、掲示板で穴掘りモグラと結構やり合ってたんだ」
「……!」
単なる言い合いじゃない。
相手のことを知っている可能性がある。
「私たちの目的は、穴掘りモグラの正体を探って止めること、でしょ?」
「そうだけど……」
「だったら、一度ミヤコとゲームしながらチャットで話を聞いてみるのはどうかな」
「……ありかもしれない」
掲示板を漠然と探るより、実際に接点のあった人物から話を聞く方がずっと早い。
ソノの提案は、今ある手掛かりの中では最も現実的な一手に思えた。
「じゃあ決まり。時間になったら招待送るね」
どこか嬉しそうなソノの声が、受話器越しに弾んだ。




