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ヒグレのクニ  作者: L
三章 コグマ―のあつまれ!つぎはぎの森
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白さん

また白い部屋にいた。

彼女はテレビを見ていた。

お笑い番組だろうか。

二人組の男性が、お互いに笑い合っていた。

何だろうか、うろ覚えだが何も考えないで見ていたテレビの内容だ。


「どーも!!ジャックポットでぇす!!!」

「ちゃりんちゃりんぃいうてねぇ!!!」

「こっちがジャックでぇ!!!こっちがポットです!!!」

「なんでポットだけなんや!!!給湯器みたいになったやろ!!!ジャックの方よこせや!!!」

「え……お前、ジャックの事そんな目でみてたのかよっ……」

「何でいきなり昼ドラみたいになんねん!?ジャックは人の名前やったんか!!?」

「じゃあ……俺とジャックのことはもう……諦めてくれる?」

「まだ引きずってんのかい!!?はよ、本題はいれ!!!」

激しい漫才が続く。


……いや、どういう状況だ。

なぜこの部屋にテレビがある。

前は、急須とテーブルがあったが。

なんか豪華になってきてない?

ふふっ、と隣で笑い声がした。

思わず視線を向ける。

笑うんだ、この人。

いや人なのか?


「お笑いすきなんですか?」

「んー、面白いのは好き」


随分残酷な答えをするなあ。と思った。

身もふたもない。

どう話を始めようか。

やはり最後に会った時の話か。


「ラブとの戦いのとき」

「うん」

「なぜ現れたんですか」

「……」


ラブが、能力を使用したとき。

一気に「住民化」が加速した。

自分の中にいる、住民としての力がラブにより活性化されたのだ。

当然天谷達もそれを防ごうとした。

だが、ラブはそのとき大量の住民たちで天谷達を妨害したのだ。


「なぜあのときにあらわれた?」


でもそんなときに、彼女は自分を助けた。

住民化を停止し、全ての怪物を打ち消した。

意図がわからない。

ラブは、彼女のことを知っている様子だった。

なんなら激情に走っていた。

最低限知りたいことがあるとすれば。

ラブとこの女性の関係は知りたい。

教えてくれるのであれば。


「……ありがとうって言われてない」

「え?」


女性は明らかに拗ねていた。

動揺してしまう。


「私褒められていない……」


口をとんがらせてそっぽを向いていた。

なんだ、大分心象が違うぞ。

最初に求められるのが、感謝なのか。

いや当然だけど、状況がこちらには全く理解できないのだ。


「……そうだね、ありがとう」

「…っ!ふふっ」


彼女は柔らかく笑った。

その姿は、世界の理から外れた存在には見えない。

ただ、どこにでもいるような、おとなしい女性だった。


「貴方って笑うんですね」

「笑うよ。私にだってそれぐらいの感情はある」

「……」


やはり自分はどこかこの女性を勘違いしているように思う。

最初は悪夢の原因だと思っていた。

だが関われば関わるほど、それが違うのではないかという確信を得る。


「……その前に」

「ん?」

「じゃあ、名前つけてよ」

「え?」


女性が出した提案は、随分唐突だった。

少なくとも自分自身には全く予期できるようなものではなかった。


「新しい名前。君に着けてもらうならどんな名前でも喜ぶから」

「え?……そう言われましても」

「名前つけてもらえないなら、これからずっと無視するから」

「脅しですか?」

「脅し」


即答だった。

理解ができない。

なぜこのタイミングで名前を付けることを求められるのだろうか。


「ラブちゃんから助けたお礼」


彼女は少しだけ首を傾げた。


「君に名前を呼ばれたいの」

「……」


確かにそうだ。

そういえば前に会ったときも、彼女の名前だけは聞き取れなかった。

ノイズが混じったように掻き消えてしまっていた。

助けてもらった借りもある。

借りは返そう。

名前を贈るくらいなら、安いものだろう。


「……白さん」

「白……?」

「うん、白い部屋にいるから白さん」


ぱぁと彼女の顔が明るくなる。

紅潮すらしていた。

初対面のときの、無表情さはどこにもない。

花開くように明るくなった。

目を見開き、頬までわずかに赤くなる。

あの姿が嘘のようだった。


「白さん……」


彼女はその名前を口の中で転がす。


「白さん……白……さん」


グーパーと、手を握りながら何度もそれを繰り返した。

何度も。

何度も。

確かめるように。

嬉しそうに。

そこにいたのは、ただの純粋な乙女だった。


「ふふっ」


自然と笑みがこぼれていた。


「安直だなー君は」

「じゃあ、変えますか?」

「嫌だ」


即答じゃないか。


安直だなんてひどい。

ネーミングセンスに自信がないのは認めるけど。


「でもいいよ。白さんね、私の事白って呼んで」

「はい、白さん」

「ふふー」


満足げに彼女は頷いた。

本当に、同じ人物なのだろうか。

そう思うほど機嫌が良かった。


「じゃあ」

「?」


少し声が固くなる。


「ラブとどんな関係でした?」

「んー、それもたぶん言えないんだよね」

「なんで?」

「君は既に知っているけど、記憶を失っているから」


『なんでやねん!!!』

漫才のツッコミの男性の言葉が、やけにその部屋に高く響く。

部屋中に響き渡るツッコミ。

その声が、妙に状況に合っていた。


「……は?」


間抜けな声が漏れる。

それしか発することができなかった。


「ラブちゃんと、君には関わりはないよ」


白は平然と続ける。


「でも、ヒグレのクニと君には深い関わりがある」

「でも……それは」

「私も同じ」

「っ?」


白はテレビから視線を外さない。

まるで天気の話でもするような口調だった。


「私は君の記憶を利用して存在している」

「記憶を……利用?」

「君の記憶にはちゃんとファイルがあるの」


彼女は指で空中に四角を描く。


「でも中身のデータが壊れてる。だから君自身も読めない」

「……なるほど」


理屈はわかった。

理解したくはないけど。

ちょうどそのとき、テレビの番組が切り替わった。


『私たちィ!! キャンディトライです!!!』


三人組の女性ユニットが大きな声をだす。

元気な挨拶が流れる。

白は食い入るように画面を見ていた。


「……なんでそんなにテレビに釘付けなんだ?」


純粋に感じた疑問、それに対して表情を変えず白は答えた。


「私はレイがみたもの、感じた物しか体験できない」

「っ……!?」


それは驚愕の事実だった。

心臓がはねた。

『君には多くの苦難が襲う。だから乗り越えて、成長して。人とかかかわることで君はまた強くなれるから』。

その言葉が想起される。


「そういうことだったのか……」

「私がそれを知るたびに、過去を思い出すきっかけになる」

「そんな」

「だからレイ」


そこで初めて、白はテレビから目を離した。

真っ直ぐこちらを見る。


「たくさんの人と関わって」

「……」

「たくさんの経験を手に入れて」


その声は穏やかだった。

けれど、どこか切実でもあった。


「それがきっと黄昏の先を照らす光になる」


一瞬、言葉の意味が分からなかった。


「光?」


白は小さく頷く。


「光がなければ、モグラは見つけられないよ」


またその言葉だ。

【穴掘りモグラ】。

一体何なんだ。

白は少し考えるように首を傾げた。

そして本当に当然のように答える。


「文字通りのモグラだよ」

「……は?」


思わず聞き返す。

白は気にした様子もない。


「私を利用して穴を掘ってる」

「穴?」

「うん。何かを企んでる」


その言葉だけで背筋が冷えた。


「でも私は抵抗できない」

「……」

「だから君が必要なの」


白は静かに笑う。


「君という光が、過去を照らした時」


その笑みはどこか楽しそうで。

どこか不安そうでもあった。


「きっとモグラは悶え苦しむから」


沈黙が落ちる。

やがて白は小さく息を吐いた。


「これ以上は言えない」


テレビの光が横顔を照らす。


「その先は、私も思い出せないの」


そして。

まるで独り言のように呟いた。


「……喧嘩しないモグラもいるのかな」

「……どういう」

「じゃあねぇー」


意識が暗転した。

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