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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
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三十五夜「リザルト」


風景が変わっていく。

絢爛と輝いていたステージは、忽然と消えていた。


「どこ?」


自分たちが、移動しているのはわかる。

だが、どこに移動しているのだろうか。

そこにあったのは、テレビに囲まれた路地だった。

テレビが、壁のように並んでいる個所もある。


「……ここは?」


僕達が入った出入口だろうか。

久遠は不思議に思った。

ラブが生み出したクニは、消滅したのではないか。

ならばここはどこなのだろう。


「……説明するから……抱えてくれ」

「あっ!!不動さん!」


不動は、既に体の限界だった。

地面に顔をつけて伏している。

もう顔なんか埋まっているとすら思えた。

もはや体を起こす気力すらない様子だった。

久遠は、不動に肩を貸した。


「すまんな……久遠、最後の最後まで」

「気にすることないですよ。不動さんの一撃で助かりました」

「あれは、俺が一発ぶん殴りたかっただけだ」

「……」


多分これは、本音なのだろう。


「ラブちゃん……」


日比野は、体育座りで茫然としていた。

未だに、ラブとの別れを受け入れることができていないようだ。

心ここにあらずといったところか。


「日比野さん?」


氷月が、日比野の前で手を振る。

しかししっかりと視認できていないようだ。

反応が鈍い。


けっと、いった感じで天谷が不満を漏らす。


「まだいってんのかよ。あんなや……つぅう!?」

「ちょっと静かにしてなさいよ」


天谷は、ラブのことが大嫌いだ。

日比野がなぜそこまでラブに愛着を持っているのか理解できなかった。

だからそれを口に発しようとした。

まぁ、それは氷月に妨害された。

天谷の脇腹に、日本刀の柄が突き刺さる。


「それ!?すげぇ!いてぇからな!!?」

「貴方が悪い」


ふんと鼻を鳴らす。


「あぁん!?」


不動は、二人の喧嘩の様子をみて呆れていた。


「怪我に響く……頼むから大声を出すなよ……」

「はっ……」

「やべっ」


二人は、焦りながら顔を見合わせた。

久遠は仲裁をしようと試みる。


「まぁ、落ち着こうよ。二人とも。不動さん、それでここはどこなんですか?」


最も気になることは、それだ。

この居場所がどこなのかわからなくては、行動しようもない。


「……端的にいえば、ここはもうヒグレのクニじゃない」

「え?」

「かといって、現実でもない」

「ん?」


不動の説明は、要領を得るものではない。

随分と不明瞭だ。

もっと具体的に教えてほしいものだが。

そう考えていると、その空間に入るものがいた。

テレビのすぐ傍に、黒い穴が開く。


「!!?」

「誰?」


当然、天谷と氷月は即座に警戒に移った。

だが不動は、焦っていなかった。

それは、彼自身が呼んだ客だったからだ。


「やぁ」

「箱根さん!?」


彼の茶髪が、軽やかに揺れる。

後ろからはひょことっ、百合さんが顔をだした。


「私もいるよー」

「百合さんも?」


百合は、即座に不動に近づいた。


「きょうへーが無理することはわかってたからね。いつも、こうして回復の時間があるんんだ」


彼らにとっては、それは馴染みの光景のようだった。

不動の戦闘スタイルは、耐えきってからのカウンターだ。

確かに百合の力がなければ、その維持は難しいのだろう。


「……はぁっ……助かった百合」


不動の体の傷が、少しずつ塞がっていく。

ラブとの戦闘でも思ったが、不動の身体の回復機能は人間のものではない。


「お前のお陰で、救われてる」


ぽんと不動は、百合の頭に手をのせる。

穏やかに口を丸め、百合は笑った。


「いいんだよ、いつものことじゃん」


百合は、自分自身が頼りにされていることをむしろ誇らしげにしていた。

その光景をみて、久遠たちの胸にはなにか温かいものが広がった。


「俺らの仕事は、なかったようでなによりだよ。四人全員の回収なんて正直諦めるだろうしね」


よかったよかったーと、気楽そうに箱根はテレビの上に座る。

本当に真剣に考えていたのか、この人。


「ここはなぁ……【スポット】っていうんよ」


箱根が、この場所について説明を始めた。

その言葉は、久遠たちには聞き馴染みのないものであった。


「スポットですか?」

「黄昏は、時間の境目。ならば必然的に、ヒグレのクニと、現実を分ける境目もある。ここは、その境目。現実でもなく、ヒグレのクニでもない。だが……まぁ……」



周囲を広く見渡す。

明らかにラブの影響を受けて居るのは確かだ。


「元々、所有していた影響かな。その【クニの主】の影響があるようだね」

「……うん」


初めて、ヒグレのクニと入ったときと全く近似した光景。

薄暗い路地に、テレビの並んでいる。

その雰囲気は、どこか退廃的であり暗闇を纏っていた。

ラブの心象とは、このような形なのだ。

光を浴びることのない路地。

そして、誰かに見られることが前提なテレビ。

だが、もうすでにそれは何も映していない。

映すものは、もうすでに消えてしまったから。


「全員集合ってことでよろしいかな。百合ちゃんから回復をうけるのが、一つ、二つ、三つ、四つと……全員だね…あははっ……?」


ん?

箱根の表情が、固まった。

指を折り、もう一度数を数えなおす。


「氷月ちゃーん」

「……はい」

「天谷君―」

「うっす」

「久遠きゅーん」

「その呼び方なんですか」


箱根の視線が、ゆっくりと最後の一点に止まる。

そこには、体育座りをした日比野がいた。


「……だれぇ!!!?誰なのこわいよぉ!!?」

「お前、依頼を覚えてんのか!!!???」


不動が大声を張り上げて、箱根を怒る。

はっと気が付いたように箱根は、日比野の元へ駆け寄った。


「あれ!!!?日比野さんですか!!!?」

「気づいてなかったんですか……」

「うわぁ……」


正直引いた。

マジかよ、この人。


「いや違うよ!!!?そんな目で見ないで!!?」

「元気だったら一発ぶん殴りたかったよ……」


不動が、イライラとしながら悪態をついた。

百合は日比野の様子をじっと見る。


「……強いストレスを受けたみたいだね。なにか思い当たることはある?」

「クニの主と色々……としか」


日比野さんは、ラブきゅんのファンになってアンチになりました。

ややこしいややこしい。

いまここで、べらべら話すのも気が引ける。

百合は、久遠の説明を聞いて困惑する。


「その色々が聞きたいんだけど……」

「よしっ!!!」


箱根が強く手を叩く。


「百合、とりあえず依頼者に端的な報告。いまは、保護状態にあることを一時間後に伝えてほしい。一時間でこの状態が、戻らないならそれはしゃーない」

「了解……立てる?」


百合は、日比野の肩を揺らしながら安否を確認する。

箱根は満足そうに頷き、満面の笑みでこちらを振り向いた


「クニの主を、退治して……行方不明者まで確保!!君ら最高の仕事よ!!!」

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