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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
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二十八夜「変貌①」

ラブはまず、目をぱちくりさせて数秒固まる。

先ほどまで高揚していたはずの顔は完全に冷え切っていた。

その言葉の意図を理解することに数秒必要としていた。

ステージのライトに照らされたその白い肌は、むしろ青ざめていた。


「え……?アンチ……?」


わずかに、その声は掠れていた。

可愛い声で繰り返すが、瞳の奥の光が一瞬で冷たく消える。

その後、笑顔は保ったまま、でも声のトーンが少し低く感じる。

一瞬、ステージのライトが彼女の瞳を黒く染めたように見えた。


「ふふ……そのちゃん、冗談だよね?嘘つかないでよ、ドッキリだよね?ねぇ、ねぇー♡」


あくまで表情は崩さす、可愛らしく首をかしげて尋ねる。


「冗談じゃない。これは私の本音」


きっぱりと断言する。

その声には強さが伴っていた。


「あっ……いやっ……?」


久遠たちはその様子を無言で見守る。

間に挟まることはできない。

そう直感したからだ。


「らぶきゅんのことが好きだって、さっき言ってくれたじゃん……。なのに?……アンチ? そんなこと、言っちゃダメだよ?だって、ここでらぶきゅんを否定するなんて……許されないもん……」


ラブは、拳を握りしめる。

その拳は、小さく細かく震えていた。

ゴスロリのフリルが、彼女の震えに合わせて小さく揺れた

震える拳の内側で、爪が手のひらに食い込んでいく。


「もう一回いいなよ……らぶの歌が好きだって。配信が楽しいっていいなよ。素直になりなよ?みんないるから緊張しちゃったんだね。二人っきりではなそ?ファンサするよ?」

「今の貴方は嫌い」

「うん、そっか♡」


その言葉を聞いて、ラブの顔が真顔になる。

表情金は完全に切り替わっていた。


「そのちゃん……そんなこと、言っちゃうんだ?らぶきゅんの歌、好きだって……楽しかったって、言ってくれたのに。ふふ、ふふふ……裏切る子は、嫌いだよ?」


声はまだ甘ったるく。

なのにに、言葉の端々に冷たい棘が混じる。

ラブの瞳が細められる。

黒いレースとリボンに彩られたゴスロリドレスが。

ステージのライトの下で不気味に輝いた。


「いいよ? アンチでも、なんでも。結局、みんな私の世界に入ったら……私のことしか考えられなくなっちゃうんだから。そのちゃんも、すぐに『らぶきゅんだけが全て』って、泣きながら謝ってくるよね?また私のものにしちゃえばいいんだ」


客席から歓声が沸く。

拍手が絶え間なく降り注いだ。

それは喘鳴のようで。

怪物の唸り声のようだった。


「ねぇ、楽しみだなあ……?」


ラブはゆっくりと微笑むと、黒いレースの手袋をはめた右手を勢いよく掲げた。

その手のひらに、光が集まり、マイクが生成される。

彼女はそれをさらに高く天に掲げ、甘く、しかし狂気を含んだ声で宣言した。


「女の子の勝負衣装はこれでしょ!?」


マイクがステッキに変わった。

瞬間、マイクが輝きを変える。

魔法少女のアニメに登場しそうな。

メルヘンで華やかなステッキへと姿を変えた。

ゴスロリの黒と紫のドレスに。

ステッキのピンクと白のリボンが不思議と溶け合っている。

それは、歪んだ可愛らしさを際立たせていた。


「【マジカルチェンジ・パーフェクトドレス】」


魔法少女への変身。

それは女の子の憧れであった。

だが、どこか禍々しい。


「戦闘開始だ!!能力を発動しろ!!」


日比野を守るように、不動以外の三人が前にでる。


「天谷!!俺とこい!!」

「うっす!」


氷月は、木刀を氷の刀へ変化させる。

久遠も右腕を黒い泥で覆った。

その瞬間、不動が大声で叫ぶ。


「伝えるべきことがある!ラブの能力は、恐らくだが。【扇動】と【改良】だ」


それはこの戦闘で最も重要なこと。

ラブの基本的な使用する能力。


「!!」

「ちっ……」


不動の推測。

それは、ラブの能力。

ひとつは、【住民の操作】。


ラブは、住民を自由自在に操れる。

それによって、自身の手を介さず敵を追い詰めることを好むことは明らかだ。

過去、久遠たちが受けた攻撃は全てラブから直接ではない。

全て住民たちから受けたものだ。


「コグマ―とかいうやつを使ったのもその一種だろう。自身の手ではなく、他者を動かし敵を狙う。恐らくだが、その動作にすでに一種の能力向上がある」


不動は、自らの勘を明瞭に言葉にする。

一体一体の小熊のぬいぐるみ。

それは、ぬいぐるみを操作する能力だと考えても明らかに強力な個体が複数体いた。

コグマ―単体でもそれは成せることかもしれない。

だが、負担が大きい。

もしラブが住民やぬいぐるみ一つひとつに【改良】を施し、強化しているのだとしたら。

これまでの苦戦は当然だった。


「これは、俺の勘だ。外れている可能性があるが……住民やぬいぐるみひとつひとつに強化されているとしたら苦戦は当然だった」


なによりコグマ―一人にだけ、その場を任せる意図がわからなかった。

なら逆に、コグマ―一人だけいることで既に能力の使用が成されているとしたら。


「だから【扇動】……」


【住民】か【許可された他人】か。

導き、意思を高揚させ強化する能力。


「なんか色々話しているみたいだけど!!無駄だよ!!」


マジカルステッキを、弓の形状へ変化させる。

手のひらを天へ掲げる。


「ぐみん!あつまれぇー!!」


黒いヘドロが、ラブの手のひらに凝縮した。

それは、丸く団子のように形成された。

ラブは、弓を番え高らかに叫んだ。


「【ときめき☆ラブラッシュ】!!!」


マシンガンのように、矢の連射が不動たちを狙う。

ピンクと黒が混じり合った禍々しい矢が、不動たちに向かって殺到した。

不動と天谷は、俊敏に動きそれらの攻撃を躱す。

だが、氷月と久遠は動けない。

日比野守らなければいけないからだ。

もっともこの場で戦闘能力を持たないのは彼女。

それはこの場に居る全員が理解している。


「ひっ……」


ラブは、先に天谷と不動を狙う回避を誘発させた。

距離は既にとれている。

二人は、日比野のカバーにいけない。


「もう一回夢中にさせちゃうねっ。そのっちゃん!!!」


狙いを込め、溜める。

連射ではなく、集中した一撃。

ピンクの淡い光が、矢の先に点火した。


「ときめきをあげちゃう♡」


そして矢は放たれた。

それは、収束された一撃。

人生でみたどんな物体よりも早かった。


「みえないっ……」


氷月は日比野を庇うように氷の刀を構えた。

だが、それでは到底間に合わない。

その刹那、久遠が動いた。

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