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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
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二十七夜「らぶ②」


地面に着地した。

先ほどまで浮いていた感覚は、まるでなくなっていた。

そして理解できるのは、強制的に第三者によって移動させられたということだ。


「うわっ……」

「中々くるわね……」


乗り物酔いとは、また違う。

だが、三半規管が揺らされるような。

空間そのものを移動したような感覚だ。

クニの主というものは、こんなことまでできるのか。


「ラブっていうのは、そんなに強いのか?不安になってきたんだけどよ……」

「今さら弱音?らしくないわね」


氷月にとって、天谷のその言葉は予想外だった。

「いいじゃんべつにさぁ……レイもそう思うよな」

「……うん」


天谷が、つい弱音を漏らす。

人の力としては、あまりに理解できない。

天谷が、なぜここに来て警戒心を高めているのか。

適応者として力を得て、理解を深めたからこその違和感だった。


「お前がビビッているのは、いきなり飛ばされたからだろ?」

「そうっすね……」

「クニの主は、領域の主だ。自身の心象空間そのものに干渉することはできる。だが俺らに干渉するための戦闘能力とは別個だ」

「成程!」


ゲームなどで慣れている日比野は、比較的すぐ受け入れた。

創作や、漫画やアニメの世界ではそういったものはよくある。

だが、男子二人。


「ほー……ほー?」

「う、うん?」

「絶対わかってないわね」

「まぁ、自分の縄張りだから好きにできる。ぐらいの認識でいい」

「なるほど!」


こいつらには今後雑な教え方でいいな。

不動は、心の中でそう思う。


「それに……あいつは、相当俺らにご立腹みたいだぜ」


不動にとって強制移動は、都合のいいものだった。

不動の顔から、笑みがこぼれる。


「どういうことですか?」


氷月が、言葉の意図をくみ取ろうとする。

不動はそれに答えた。


「ラブは明らかに、人を使って悦に浸ろうとするやつだ」

「……」

「そんなやつが、直接手を下そうだなんて……最高潮に苛ついているだけだろ」


ばぁん!!と大きな音をたて、扉が開く。

その先には、大きなステージと観客席があった。

久遠たちが立っている場所は、観客席の入り口だ。

扉のすぐ先には、階段があった。


「きたかっ!」


大きな光が弾ける。

絢爛と輝くライトが、周囲を照らす。

先ほどまであったはずのビル群とテレビの雰囲気など欠片もない。

そこは、華やかで、甘く、歪んだ世界だ。


「ライブステージ」


らぶきゅんが、マイクをもって舞台から降りてくる。


「らぶ♡きゅんだよ!!!!」


らぶが甲高く、甘ったるい声を発する。

完全に自分の世界に入っていた。

作られたような歓声があがる。

観客席には、黒い渦のような人を模した塊がうじゃうじゃしていた。


「やっと対面できたな、この野郎ぉ!!!!」


天谷が階段を勢いよく下る。

天谷は完全に切れていた。


「野郎だなんて、女の子に酷いなぁ♡」


らぶきゅんは、にこやかに首をかしげた。

その笑顔は、可愛いらしいのに。

瞳の奥が、一瞬冷たく凍りつくように光った。


「あぁぁ!!!?」


散々追い掛け回された鬱憤が溜まっていたのだろう。

能力発動を意識せず、自然と能力が腕に纏われていた。


「女の子に嫌われちゃうよぉ」

「別にお前みたいな女に好かれたって嬉しくねぇよ」


もう露骨だ。

天谷は、ラブに対して嫌悪の域に達していた。


「けどさぁ……うーん、君だれだっけ?」

「あぁ!!そうかよ!!じこちゅー女ぁ!!!」


だが、らぶきゅんの脳内には天谷は入っていないようだ。


「そう、らぶきゅんは世界の中心の女の子なのです♡ぶいっ」

「あぁぁ!!!話通じねぇ!!!」


その事実が、さらに天谷をイラつかせる。


「あっ!!レイきゅんとそのちゃんはわかるよー♡ねーぇ?」

「うっ……」

「……」


どうにもあの視線は苦手だ。

その目は、獲物を値踏みする捕食者の眼だった。

甘く、ねっとりと絡みつくような視線。

目の前に、口がひろがっているような。

そんなことを考えると、天谷に肩を叩かれる。


「気にすんな、レイ。二度とあんな目には合わせねぇ」

「えぇ、そうね。借りは返させてもらうわ」


天谷と氷月は、やる気満々だ。

一切怯えている様子などない。

不動が一歩前にでる。


「戦う前に一応聞いておく。このクニを閉じることはできるか?」

「ん?」


らぶきゅんは、きょとんと首をかしげる。


「えーーー?」


それは戦わないという選択。

不動たちの目的は、あくまで【ヒグレのクニの消滅】。

クニの主が、ヒグレのクニを作らないことにある。

避けられる戦闘なら避けるべきだという判断だった。


「えー?なんでそんなことする必要があるのー?」

「……できるのかと聞いているんだ」

「うーん?できるよ?でもする意味なくない?」


不動の眼が細まる。


「あ?」


だが、ラブはそんなこと一切意に介さない。

理解できない。

なぜおまえにそんなこと言われなければいけないのか。

そういった態度だった。


「どれだけの人をクニに巻き込んだ?お前の存在が、人を苦しめる」

「うぇーん!!ひどいよーぉ!女の子にそんなこというの?」


らぶきゅんは大げさに泣き真似をしたが、すぐににっこりと笑った。

その笑顔は、まるで人形が無理やり笑わされているかのように完璧だった。


「他人のことをもっと考えろといっているんだ」

「ラブのクニにはいってこの場所にとらわれちゃうことがそんな不満?いいじゃん、現実なんて忘れちゃお?それにさ……他人のことを考えるなんてそんな退屈なことしてらんないよ」

「……っ!」


有無を言わせない。

そんな圧力。

それはラブから放たれたものだった。

不動もそれを感じ取り、構えをとる。


「もうお前のことはこれ以上放置できない。これ以上のクニの拡大は、被害が甚大になる」


こいつを放置できない。

【穴掘りモグラ】関係なく。

こいつ単体の存在が、【ヒグレのクニ】の被害をより大きくする。

らぶきゅんは、くすくすと笑いながら両手を広げた。


「……みんな私の虜になっちゃえば、みんなそれで幸せじゃん。はっぴーじゃん?ねぇ♡私の歌を聴いて、私の声に溺れて、私のことだけ考えて……何も考えられなくなればいいの。みんな、らぶきゅんのおもちゃになれば、永遠に幸せだよ?」

「論外だな。話にならねぇ」

「うーん、なんでぇ?会話って難しいね♡」


不動は、らぶの様子に呆れ切っていた。

どこまでも自己中心的。

己の世界を保つことにしか興味はない。

らぶはそんな様子であった。


「だってさぁ、みんならぶの歌をきけば、声をきけば、話をすれば。それで幸せだよ。現世で苦しむより。らぶの虜になって、愚民になって何も考えれなくなればいい」

「それでお前に操られるのが、皆の幸せだと?」

「そうじゃないの?」


らぶの眼が爛々と輝く。

その眼は、魔性の光を纏っていた。

それでより一層理解できる。

こいつは、偶々人の形をしているだけだ。


その言葉は甘く、しかし底なしの独占欲と残酷さを孕んでいた。

人間を、【愚民】、【おもちゃ】と呼ぶことに、何の躊躇もない。

自己愛の怪物。

そのものが、そこにはいる。

だが、その自己愛の怪物に。

少女は一歩寄り添った。


「ねぇ。ラブちゃん」

「!!」


日比野は、真っすぐ彼女の眼をみて伝えた。

ラブも日比野をみて眼の色を変える。


「そのちゃん!どうしたの?」


日比野は丁寧に、目の前にいる怪物に自身の思いをつたえる。

それは、静かだがはっきりとした声だった。


「貴方が今やっていることは本当に正しいの?」

「え?」


だが、その言葉はラブの思いに反するものだった。

らぶきゅんの表情がわずかに固まる。


「閉じ込められているあいだ。数日間。ずっと貴方の配信をみてた」

「……」

「らぶちゃんの配信は、個性があってなによりラブちゃん自信が楽しんでいるものだった。凄い魅力的で。面白いものを楽しく伝えるのがとても上手。なにより私は……ラブちゃんの歌配信がすき」

「……えぇえ?」


ラブは、その言葉を聞いて顔を真っ赤にする。

久遠たちも正直戸惑っていた。


「ごめん、俺らなにきかされてんの?」

「天谷……ちょっと静かにしてよう」

「……」

「そんなに私のこと好き?楽しめた?本当?」


明らかにラブのテンションは上がっている。

日比野は、深く息を吸った。

その次の言葉は、もっと力強いものだった。


「でも今の貴方は……とても独りよがりだよ。自分のことしか考えてなくて、他の人の気持ちなんて全く見えてない。自分の世界にみんなを閉じ込めて、虜にして、おもちゃにするなんて……そんなの、絶対に間違ってる!!! 私……アンチになります!!!!」


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