読み切り3
「――大和国のおサムライさんなんですね」
「マーティンさん、サムライを知っているんですか?」
「これでも魔術師の端くれ、大和国の魔法を調べたことがあるので」
「コイツはニンジャですんで」
「ニンジャ!? ニンジャでもあるんですか?」
「そう! キンスケの本職はニンジャで、趣味がサムライなんです!」
「いや、ニンジャは廃業しました。今はサムライです!」
「ということは、サムライニンジャってことですね」
村人から借りた馬に乗る猿飛金之助と相棒のコウ、手懐けた俊足恐竜に乗るジャレッド・マーティンは村の裏にある森林を探索していた。目的は村の子供たちが乗った戦車、通称『ムサシ丸』を奪還し、村を襲撃した恐竜をどちらか先に討伐することだ。
幸運なことにムサシ丸の痕跡が道に残っており、追いつくのは時間の問題で、お互いの身の上話で時間を潰している。
「マーティンさんはどうして事件屋になったんです?」
「いきなりですね……魔法の才能があったから、とお答えしましょう」
「自画自賛ですね。さぞかし、お強いのですな」
「ええ、私は強いですよ。でなければ事件屋になりませんよ」
と、腰に差す魔宝石が装飾された魔法杖を掴む。
「やっぱ、お金ですか」
「ですね。なんせ、私の父が事業で失敗しまして、多額の借金を背負ってしまい、学生時代は本当に貧乏で貧乏で貧乏で」
「ド貧乏だったんですね」
「ドドド貧乏でしたね。ランチはパンの耳に砂糖でしたから。でも、魔法の才能があったんで、今ではたくさん稼いで美味しいものを食べて、広い家に住めます。いやはや、神に感謝ですよ」
「広い家か、いいな。オイラもフカフカなベッドで寝たいぜい」
「オレたちはヒゲゴリのパン屋で住み込みしながら事件屋しているんですよ」
「猿飛さんはどうして事件屋に?」
「オレは夢があるんです」
「はて、夢とは?」
「スーパーカラクリランドを作りたいんですよ」
「す~ぱ~、からくり……ランド?」
「そーそー! オイラたち、遊び場が作りたいんだよ!」
「この国って、けっこうストリートチルドレンがいるじゃないっすか」
「お恥ずかしい限り、育児放棄はこの国の社会問題ですね」
「そいつらが腹いっぱいにメシ食って遊んで住める家みたいな場所を作りたいんです。どうせなら、どでかい遊園地がいいなって」
「遊園地を作る!? とんでもない金額ですよ?」
「そーなんですよね。そのためにはお金がたくさん必要で、何億個アンパンを売ればいいのやら……考え出すと気が遠くなるんですけどね」
「あのその……からくり、とは?」
「オレはニンジャ家系で、その家臣の一人にからくり技師という機械を作る発明家がいて、その発明家が建てる家は、開けてビックリドッキリばっかりな感じなんです。そんな遊園地を作りたくて」
「マジックハウスみたいな遊園地を貧しい子供のために……」
恐竜の足が止まる。顔を左右に振り、嗅覚を鋭くさせた。
「どうやら近くにいるようですね」
そのとき、静寂を切り裂く鋼鉄の咆哮が鳴り響いた。
五分ほど前、一台の戦車が森の中を爆走していた。
その速さは小動物が一目散に逃げだすほどだ。
「兄ちゃん、速いよ!」
「しょうがねぇって、あの変人が追いついちゃうだろ! 追いつかれたら、この戦車でアイツを殺せなくなるんだぞ!」
「わかってるけどさ!」
「いーや、わかってない……イ、チイッッッッ!」
だが、なにせ初めて運転する戦車だ。畑を耕すトラクターを操縦することと大違いだ。
猛スピードで動いているため、道端に転がる大きな石や丸太を乗り越えるたびに大きく機体が跳ねて、兄弟たちの頭には何個もタンコブができた。
どどん、機体の揺れが静まった。
「兄ちゃん、いってえええよ……」
「俺だって、いてぇよ! とーちゃんとかーちゃんはもっと痛かったはずだろ!」
堪えていた涙が溢れでていく。兄弟を逃がすために盾となった両親だ。
翌日、踏みつぶされた二人を見て必ず仇を討とうと決めた。
だが、生き残った大人たちは金、金、金の話ばかりだった。死んでいった者たちのためにひと肌脱ごうとする人間はいなかった。しょせん、自分だけが可愛いのだ。
『困っている人がいたら、助けてやりなさいよ』
微笑む母親が兄弟の脳裏に浮かんだ。ありきたりなトウモロコシ農家だったので裕福ではないが、夕食のときは他愛のない話があればお腹いっぱいだった。幸せだった。
「絶対に、絶対に、絶対にアイツをブチ殺して、食ってやろうぜ!」
「うん! 絶対にステーキにして食って、とーちゃんとかーちゃんの墓に供えよう!」
ドシ、ドシ、ドシ、ドシ……
目の前からゆっくりと近づく足音が車中、操縦席まで届いた。
兄弟の殺意が反応する。「もしや……」
小窓を開けて、限界まで目を見開いた。
薄暗い森の中でも、その大きなシルエットは忘れない。
ティラノサウルスだ。
樹木の枝がざわめき、葉がささやくよう揺れ動く。鳥たちの声は消え、その存在感はどこか余裕があり、恐ろしくもあり、幾多の命を平らげてきた圧倒的な生命力が兄弟の息を止める。
そして、闇が少しずつはがれていく中で、漆黒の鱗や鋭い爪、大きな口から垣間見える牙がほのかに輝き、その存在がますます森林の絶対的な王者だと説明していく。
「兄ちゃん……」
「静かに……」
兄は弟と入れ替わるよう砲手席へと移り、ハンドルを回して照準を合わせる。
そして、装填していた竜撃砲のレバーへと手をかける。
だんだんと息が荒くなる。心臓の鼓動が速まり、はち切れそうなぐらい膨張する。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……しねぇえええええええええええええええ」
力強くレバーを押す。長身の砲塔から放たれた金剛石の轟音が森を貫く。
まるで雷鳴が鳴り響くかのようだった。命乞いなどさせない。一瞬にして大型恐竜の心臓を突き抜けて絶命させた。爆風が木々を激しく揺らし、砲塔から白い煙、肉塊から土煙が立ち上った。
「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
兄と弟は何度も何度も抱き合った。鼻水が服についても構わない。
車体の天井フタを開けて、動かなくなった憎き仇に叫んだ。
「どうだ、殺人恐竜ッ! 人間、舐めんじゃねーぞ、クソがッ!」
「あのさ、兄ちゃん」弟が喜ぶ兄の背中を見て我に返る。
「なんだよ」
「もう一頭いたよね」
「もう一頭って、全部で三頭って……あ!」
二人の時間が止まった。戦車の真横から絶叫が響いたからだ。
そして、王者の突進が戦車に直撃し、車体が石ころのよう転がっていく。
兄弟の身体は宙に浮いた。運悪く、弟が大きな樹木に当たってしまう。
鈍い音がした。背中の骨が折れてしまったのだ。
草木に助かった兄は叫んだ。「ミゲル! ミゲル! ミゲル!」
弟から返事はない。「クソ……なんて俺はバカなんだよ……」
不覚だった。殺意の衝動が状況判断を鈍らせた。
自分の未熟さゆえ、再び涙があふれ出る。不吉な鈍い音が森林に響く。
想像はしたくない。脳が最悪なケースを伝えてくる。何度も何度も地面を叩く。
ドシ、ドシ、ドシと重たい足音と黒い影が近づいてくる。
ふと顔を見上げれば、大きな口が深淵のようこちらを覗いていた。
あ、死んだ。




